17けんめ 海の上でぷかぷかする話
第1話 海だ〜!
自宅が浜辺をのそのそ歩いてる。
シュゼたちと別れ、『山の上の国』を出発してから、もう2週間近くが経った。
今の私たちがいるのは、『ツギハギノ世界』の北の地方にある『いろいろな島がある国』だ。
そう、私たちは目的地に到着したんだ。
窓の外に広がる景色を眺める私の隣で、スミカさんは目を輝かせる。
「透き通った青い海! いっぱい浮かんでる小さな島たち! サラサラの砂浜! ヤシの木! 空には入道雲! とっても綺麗な景色だわ!」
「北の地方の海って、もっと氷に閉ざされた世界みたいなのをイメージしてたけど、完全に南国の景色だよ」
北の地方に南国がある。
さすが『ツギハギノ世界』だね。
私とスミカさんの背後では、ミィアとルフナ、ミードンがワイワイしていた。
「ミードン! お荷物届けてくれて、ありがと~!」
「ふ~ん!」
「届いた荷物、開けるぞ」
「待ってルフナ~! 荷物はミィアが開けた~い!」
「ああ……! 荷物を開けたがる無邪気なミィア、まさに天使!」
「今日の荷物は――おお~!」
「これは、この前みんなで買った水着だな」
「もしかしてミードン、タイミング合わせてくれたの~?」
「ふ~ん! ふ~ん!」
「すごいすごい! ミードンだ~い好き~!」
「ああああ! だ、だだだ、大好きだと!? ミードン、羨ましいぞ!」
うん、完全に聞き慣れた会話。
とはいえ、数日前にパソコンの前にみんなで集まって選んだ水着が届いたんだ。
これは楽しみ。
何が楽しみって、尊い光景が見られそうなのが楽しみ。
カメラ用意しておかないと。
にしても、さっきから魔法陣を作っているシェフィーが大人しい。
どうしたんだろう。
「ねえシェフィー、大丈夫?」
「え? あ、はい! 大丈夫です!」
「ホント? じゃあ、なんで魔法陣に、自宅の見取り図をやけに詳細に書いてるの?」
「あ! いつの間に……」
これ、大丈夫じゃないやつだね。
きちんと話を聞こう。
「悩み事?」
「いえいえ、実は、その……わたし、魚が怖くて……海に魚がいっぱいいると思うと……」
「ああ、なるほどね」
そういえばそうだった。
シェフィーの魚嫌いは、魚料理を避けなきゃいけないくらい凄まじい。
そんなシェフィーが、海を怖がらないはずないよね。
「分かるよ、シェフィーの気持ち。私も海がちょっと怖いから」
「そうなんですか?」
「うん、ちょっとしたトラウマがあってね……」
「でもユラさん、今は平気そうですよ?」
「まあね。今は楽しみなことの方が多いから」
「楽しみなことって、なんですか?」
「みんなの水着姿が見られる!」
「すごく私利私欲な楽しみです!」
ツッコミを入れられちゃったけど、知らない。
これから水着回がはじまるんだから、楽しみに決まってるよね。
実際、水着回は私の背後ですでにはじまっている。
「ミィアの選んだ水着~!」
「こっちは私の選んだ水着だな」
「これはスミカお姉ちゃんの選んだ水着だよ~!」
「フフフ、ちょっとかわいすぎるかしら」
「ねえねえ~! みんなで水着に着替えようよ~!」
「ミ、ミィアの水着姿! もちろんだ! 電光石火で着替えるぞ!」
「はじめての水着、楽しみだわ」
さっそく服を脱ぎはじめるミィア、ルフナ、スミカさん。
私は思わず苦笑い。
「3人とも、気が早いね」
「すでにカメラを構えてるユラさんも、気が早い方だと思います」
そう言うシェフィーは、私以上の苦笑いを浮かべていた。
ここで、ちょっと想定外のことが起きる。
パジャマのトップスを脱ぎ捨てたミィアが、私とシェフィーの手を取り言い放った。
「シェフィーとユラユラも着替える~!」
「ええ!?」
「いやいや! 私は――」
「早く早く~!」
「あわわ! ミィア様、引っ張らないでください~!」
「さすがに自宅で水着は恥ずかしい!」
「みんなで水着になれば、恥ずかしくないよ~!」
めちゃくちゃな理論と無邪気な勢いに、私たちは抵抗できない。
気づけば私たちは服を脱がされ、全員で水着に着替えていた。
床に散らばるのは脱ぎ捨てられた服と下着たち。
リビングに立つのは、水着姿の私たち。
オレンジと白の布地にカラフルな模様のフリル付き水着を着たミィアは、満足そうな表情でぴょんとジャンプした。
「わ~い! 新しい水着だ~!」
「はああぁ! はああぁぁ! 小さな体に、大きな胸のギャップ! 女神のぉ! 女神の降臨だぁ! 宇宙の誕生の瞬間を見ているみたいだぁ!」
限界状態なのは、もちろんルフナだ。
ちなみにルフナは、小さな黒いビキニに、抜群の体型と長い足、大きな胸を見せつけている。
いつもの下着姿とは違う美しかっこよさは、ほとんどモデルさんだよ。
ミィアとルフナとは対照的に、シェフィーは床にちょこんと座り、ミードンを抱っこしながら、恥ずかしそうにしていた。
「うう……不慣れな格好は恥ずかしいです……わたし、体型も子供っぽいですし……」
「ふ~ん? ふ~ん!」
「かわいい、ですか? あ、ありがとうございます!」
ミードンをギュッと抱きしめるシェフィーの水着は、花柄のワンピースタイプ。
みんなと比べて露出は少ないけど、お人形さんみたいでとってもかわいい。
特に、『体型も子供っぽい』からこそ、最高にかわいい。
ただし、背中は大胆にガバって開いていて、後ろから見ると、シェフィーの新しい一面を見た気分になれる。
おかげでシェフィーは、人に後ろ姿を見られないよう壁際から離れないんだけど。
さて、私は水着姿のみんなを前に、部屋の隅でカメラを構えたまま放心していた。
何もかもが尊い。
「ああ……これはいい光景……お金を払わないといけない気がする……」
「ユラユラ~、どうしたの~?」
「いやあ、みんなかわいいなぁ、と思って」
「えへへ~。でもでも、ユラユラの水着も、とってもかわいいよ~! 青いビキニと、腰に巻いた布、なんか大人っぽ~い!」
「そ、そうかな……」
胸は小さいし、体も全体的に細い私が大人っぽいなんて。
意外な褒め方をされて、ちょっと照れる。
私を褒めてくれたのはミィアだけじゃない。
「フフ、ユラちゃんもお姉さんっぽくなってきたのかしらね」
そう言って微笑むのはスミカさん。
とはいえ、縞模様のビキニにパーカーを羽織り、長い髪を結ぶスミカさんが一番大人っぽく見えるのは、きっと私だけじゃないはず。
なにはともあれ、これで全員の水着姿がお披露目された。
ここでシェフィーが素朴な疑問を口にする。
「あの……水着に着替えて、これからどうしますか?」
「ふ~ん?」
「もちろん、海で遊ぶよ~!」
満面の笑みを浮かべたミィアが、今にも外に飛び出そうな勢いでそう答えた。
まあ、これは予想通りの展開だね。
けれどもシェフィーは、さらなる疑問をぶつける。
「スミカさんは海で遊べるのでしょうか……?」
たしかにその通りだ。
自宅を出られないスミカさんが海で遊ぶには、自宅ごと海に入る必要がある。
でも自宅が海に入ったらどうなるか、誰も分からない。
それでもスミカさんは微笑みながら答えた。
「試しに海に入ってみるわね!」
直後、自宅がのしのしと海に向かって歩き出す。
自宅が海に向かいはじめて、私は当然、焦り出す。
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