第6話 大事なのは

 ユーレイ騒ぎで洞窟が崩れ、帰り道がなくなった。

 洞窟の奥に閉じ込められちゃった私たちは、頭を抱える。


「天井の崩落で道が閉ざされているのです」


「クク、なあに、この程度の試練など些末なものだ。そうであろう、魔王城スミカ」


「う~ん、どうなのかしら? ねえユラちゃん、打開策は思いついたかしら?」


「……戦車砲やガトリングで壁をぶち抜くとか」


「壁の厚さによっては、何日もかかるのです。それに、さらなる崩落を招きかねないのです」


「だよね。じゃあ、2人の魔法でなんとかするとか」


「それほど大規模な魔法は使えないのです」


「運が悪かったな。今、この私は能力を封印中なのだ」


「はぁ。となると、新しいスキルを解放するしかないね。でも、ちょうどいいスキルが――」


 悩んでいる最中のこと。

 私のスマホに1通のメールが入った。

 珍しいなと思いながら、私はスマホの画面に目を通す。


「女神様からのメール?」


 どうしてこのタイミングで、女神様からメールが届くんだろ。

 疑問と淡い期待を胸に、女神様からのメールを読んでみる。


『パンパカパーン。スミカとユラに朗報じゃ。お主ら、おウチスキルを確認してみろ。おそらく新しいスキルルートとして『土だらけツリー』が解放されておるはずじゃ』


 まさかの報告だ。


 私は一目散におウチスキルを確認する。

 慣れた手つきでおウチスキルアプリを起動すれば、たしかに『土だらけツリー』に色がついていた。


 メールはまだ続いているので、最後まで読んでみよう。


『この『土だらけツリー』は、主に地中を移動する際に使うスキルじゃな。解放条件は、一定の数のスキル解放、規定のスキル解放、そして一定の時間地中を歩くことじゃ。お主らはこれを無事にクリアしたということじゃな。これからもスキル解放、頑張るのじゃ』


「女神様ナイス! 女神様ありがとう!」


 やっぱり女神様は神様みたいな人だね。当たり前だけど。


 ちなみに、『土だらけツリー』解放に必要な規定のスキルの中に『カニ気分』があった。

 まったく使い道がないスキルが、こんなところで役に立つなんて。


 とにもかくにも、ダンジョン脱出のために新しいスキルを解放しよう。

 スキルツリーを眺めて、残りのポイントを確認して、そして――


「よし! スミカさん、スキル『ドリルはロマン』と『土除け・レベル3』、『地中移動強化・レベル3』、それに『もぐら体験』を解放しておいた。これでダンジョンを脱出できると思う」


「フフフ、やったわね。なら、さっそく脱出よ!」


 解放したばっかりのスキルを、スミカさんは一気に発動した。


 自宅の側面からは大きなドリルが生え、キュイーンと回っている。

 そして自宅は、ゆっくり横歩きしながらドリルの先端を洞窟の壁に当てた。

 ドリルが壁を削りはじめれば、土を払いながら穴の中へ。


「おお!? 何も見えないけど、なんか進めてる!?」


「何も見えないけど、なんか進めてるわ!」


 少なくともドリルは回ってるし、土は払ってるし、自宅も横歩きをしてる。

 なら、自宅は穴を掘りながら進んでるはず。


 果たして本当に自宅が穴を掘って進んでいたのかが判明したのは、約15分後のことだった。

 突如としてオレンジ色の光がリビングに射し込んでくる。


 窓に張り付くと、強烈な夕焼けが私の目に飛び込んできた。


「外だ! 久しぶりの外だ!」


「無事にダンジョンを脱出できたのです」


「新しいスキル、とっても便利ね!」


 明るさと笑顔に目を細めて、私たちは互いの無事を喜んだ。


 けれども、シュゼだけは浮かない表情。

 なぜ浮かない表情をしているのかは分かる。

 だから私は、シュゼの視線の高さに合わせながら、コホンと咳払いをして言った。


「氷の女王であるこの私から、シャドウマスターに申しておきたいことがある」


 今こそ隠された厨二病を解放しよう。


「シャドウマスターは、宿敵女神シェフィーに支配の証を渡そうとしているのであったな?」


「うむ、そうである」


「ならば支配の証に必要なのはアクセサリーの素材の価値ではなく、支配者の心の強さだ、と私は思う。だからシャドウマスターの強い心があれば、どのような素材であろうと、良い支配の証が作れるのではないか?」


「……なるほど」


 顎に手を当て、軽くうなずいたシュゼはテラスに出た。

 そして自宅が脚を止めると同時、辺りを見渡し、テラスを飛び降り、とててとダンジョンの入り口へ。


 ダンジョンの入り口の前に立てば、シュゼはすぐ近くに埋まっていた魔法石を採取する。

 どうやら新しい素材を手に入れてきたらしい。


 リビングに帰ってきたシュゼは、いつもみたいに胸を張った。


「野望を成就させるため臨機応変な動きができる者こそ、支配者たりうるのだ。この私は、この魔法石を使って支配の証を作ってみせよう」


「この石……」


 そこには、緑色に透き通った綺麗な石の塊が。


「もしかしてこれ、私にくれたネックレスの飾りと同じ石?」


「ククク、よくぞ気がついた! ちなみに、この私がチルに渡した封印されしチョーカーの飾りとも同じである! さあ、時が惜しい! 早急にアクセサリー作りをはじめるぞ!」


 元気を取り戻したシュゼは、すぐに作業を開始した。

 お揃いの石を使ったアクセサリーがどんなものになるのか、今から楽しみだよ。


 ところでこのネックレス、たしか友情の印としてもらったもののはず。

 となると、シェフィーへのプレゼントが支配の証から友情の印になっちゃうんじゃ……。


 ま、それはそれで微笑ましいから、別にいっか。

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