第2話 2時間目、魔法道具の授業

 惜しまれながらも、シェフィー先生の授業は終わりを迎えた。

 授業後の休み時間に生徒たちに囲まれるシェフィーは、優しい表情をしている。


 そんな人気教師を見て、ソワソワする人が1人。

 2時間目担当のルフナだ。


「ううむ……私はシェフィーのように、うまく生徒たちに教えられるだろうか」


「大丈夫よ。ルフナちゃんはルフナちゃんのやり方を貫けばいいわ」


「ああ、そうだな。でもやっぱり緊張する。騎士団長との稽古よりも緊張してるかもしれん」


「じゃあさ、ミィアのために授業すると思えば――」


「それだ! うおお! やる気が出てきた!」


「待って待って! 下着姿で授業はまずいよ!」


 私とスミカさんは逸るルフナをなんとか抑え、鎧を着させた。


 ちょうどいいタイミングで、休み時間が終わる。

 生徒たちに解放され自宅に戻ってきたシェフィーに代わり、ルフナは生徒たちの前へ。


「やあ、私は羊の騎士団のナイト、ルフナ=アクイラだ。よろしく」


「わあ~」


「はわ~」


「ふえ~」


「ど、どうした? なぜ私をじっと見つめる?」


 想定外の反応に、困惑したルフナはまばたきを繰り返す。


 でも、私には分かる。

 今の生徒たちの反応は、イケメンを前にしたときの反応だ。

 つまり生徒たちは、イケメンナイト教師に魅了されちゃっているんだ。


 それに気づかないまま、ルフナは授業をはじめる。


「まあいい。私がみんなに教えるのは、魔法道具の使い方だ。と言っても、私が使う魔法道具は武具だから、魔法師団を目指す子以外にはあまり馴染みのないものになるかもしれないな。とはいえ、魔法道具との付き合い方くらいは参考になるはずだ」


 丁寧なシェフィー先生の授業とは正反対に、魔法道具の授業はサクサクと進んでいく。


「魔法道具には、それぞれ性格がある。気性の荒い性格、引っ込み思案な性格、気ままな性格、といったようにだ。中には昼間はやる気が出ないとか、金がないとしょぼい魔法しか出さないというような厄介な性格の魔法道具もいるので注意だな」


 けっこう面倒くさいんだね、魔法道具って。

 もしコミュ力が必要とされるなら、魔法道具と私の相性は悪いかも。


 なんて思っている傍ら、ルフナ先生は不死鳥の剣を鞘から抜いた。


「まあ、説明ばかりしても仕方ない。私の魔法道具、不死鳥の剣の力を見せよう」


 百聞は一見に如かず、ってやつなんだろう。

 特に不死鳥の剣について説明することもなく、ルフナは生徒たちに背を向け、不死鳥の剣を構えた。


 剣を構えるイケメンナイトさんの後ろ姿に、生徒たちはうっとりしている。

 そんな生徒たちの視線に気づかないまま、ルフナはつぶやいた。


「不死鳥の剣、お前のすごさを生徒のみんなに見せつけてやれ」


 つぶやきを聞いて、不死鳥の剣はカタカタと震える。


 続けてルフナが不死鳥の剣を掲げれば、剣先にどこからともなく炎が集まった。

 集まった炎は火球を作り出し、次の瞬間、火球は炎の柱となって大空に昇る。


 それはとても力強くて、それでいてとても繊細な、武術と芸術の合間みたいな光景だ。


 生徒の1人であるシュゼは叫ぶ。


「これは古から語られし炎龍の空還りではないか!? ククク……素晴らしい!」


 厨二病100%の感想だけど、その気持ちは他の生徒たちも共有しているみたい。

 生徒たちは炎の熱波に晒されながら、空に消えていく炎を眺め続けていた。


 炎が空の彼方に消えれば、ルフナは下段の構えで踏み込む。


「魔法道具をうまく扱えるようになれば、魔法道具と一体化することもできる。例えば、こんな風に!」


 言い終えて、ルフナの姿が消えた。

 いや、正しく言えば、一瞬で十数メートル先に移動していた。


 瞬間移動したルフナは1本の木の前で、剣を振り上げ止まっている。

 直後、1本の木が根元からばっさりと切られ、地面にどすんと倒れた。


 ルフナはたった一瞬で十数メートル移動し、1本の木をなぎ倒したんだ。


「ま、実演はこんなところだな。不死鳥の剣、よくやったぞ」


 小さく笑い、鞘に不死鳥の剣を納めるルフナ。


 タイミングよく風が吹き、ルフナの長い髪が風にそよぐ。

 そよぐ髪の隙間から見える横顔は完璧なイケメンで、生徒たちの胸がキュンとしちゃう。


「ルフナ先生……かっこいい……!」


「どうしよう……こんな気持ち、はじめて……!」


「目が離せないのに、目を合わせることができないなんて……!」


 もう授業どころじゃない気がする。

 これほとんど、イケメンナイトさんの舞台みたいになってるよ。


 とは言え、ルフナ自身はいつもと変わらない。

 生徒たちの心は奪えても、ルフナの心を奪えるのはただ1人なんだから。


「おお~! ルフナと不死鳥の剣は、息ぴったし~! さすがだよ~!」


「あああっ! ミィアに褒められた! そうだ! これだから強くなるのが止められないんだ! ああっ!」


 悶絶して倒れかけるルフナ。

 それを見て、一部の生徒は正気に戻ったのか、ちょっとだけ引いていた。


 まあ、それでもイケメンナイトさんへの憧れが消えるわけじゃないんだけどね。


「コホン。ともかく、これが魔法道具と一体化するということだ。この辺りは感覚的な部分が大きいからな、詳しいことを教えるのは、私には少し難しい。代わりに、みんなの質問にはきちんと答えるつもりだ。さあ、何か質問はあるか?」


「はい!」

「はい!」

「は~い!」

「ルフナ様~!」


「おお、みんな熱心だな。よし、じゃあ君、質問を」


「あ、ありがとうございます! ええと、ルフナ先生は不死鳥の剣と、どうやって打ち解けたんですか?」


「そうだなぁ、不死鳥の剣は褒められるのは大好きだが、馬鹿にされるのは大嫌いだから、まずは褒めて褒めて、褒めまくって——」


 ここからがずっと質疑応答の時間。

 それでも、生徒たちからルフナへの質問が尽きることはなかった。

 中にはプライベートな質問まで混じっていたけど、ルフナは嫌な顔ひとつせず、丁寧に質問に答えていった。


 うむうむ、やっぱりルフナはミィア関連以外については、びっくりするほどのイケメン良い人ナイトさんなんだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る