ばんがいち シャドウマスターを手伝う話

第1話 ミィアのお散歩タイム

 まだ太陽が東の山から顔をのぞかせたばかりの頃です。


 ミィアさんはコートを重ね着して、モコモコの状態でした。

 なぜなら、これからシュゼさんとチルさんの『ミッション』を手伝うことになったからです。


「う~、寒いのイヤだ~」


「今さら文句を言うではない。昨日、ゲームで指導者がこの私に負けたのが悪いのだ」


「負けた方がなんでも言うことを聞く、というルールだったのです。仕方がないのです」


「むぅ……」


 いくら文句を言っても意味がありません。

 結局ミィアさんは、シュゼさんとチルさんに家の外に連れ出されてしまいました。


 さて、朝の『山の上の国』は静かです。

 街に人は少なく、街道ですれ違うのは、売り物でいっぱいの荷台を引くマモノばかり。

 各地にあるホッカホカーのおかげで、寒さもあまり感じません。


「おお~」


 実はミィアさんにとっては、久々の外出でした。

 石畳の道を踏みしめる感触や、民家から漂うスープの匂い、開店準備を進めるお店の音。

 たくさんの事象が、五感を震わせます。


 特にミィアさんが興味を持ったのは、やっぱりホッカホカーでした。


「このマモノを乗せたカニさんの形のホッカホカー、あったか~い。あ、あっちのホッカホカーは12本足の椅子の形だ~」


「これから戦場へ飛び込むというに、指導者はのんきであるな。クク、むしろ頼もしい」


「ん~? なんだかこのホッカホカー、さっきと違うあったかさな気がするよ~? さっきはもこもこで、こっちはもかもか?」


「それもホッカホカーの特徴なのです。形によって、暖かさに違いが生じるのです」


「そうなんだ~。じゃあじゃあ、ホッカホカー探しがもっと楽しくなるね~」


「クク、人類の指導者とともにホッカホカー探しも悪くないな」


「お2人とも、ホッカホカー探しはやることやった後にやるのです」


 楽しげなお喋りと笑い声が街を飾ります。


 そうして街を歩くこと数分。

 3人は深い谷にかかった石造りの橋にやってきました。


 橋の真ん中まで歩くと、風にぶかぶかのコートを揺らしたシュゼさんが足を止めます。


「いよいよ目前に迫ってきたな、次の戦場が。チル、指導者、覚悟は良いな! これより、失われし魅惑のゴーレムの探索を開始する! ククク、クハハハハ!」


 静かな橋の上に、豪快な甲高い笑い声が響きます。

 何事? とミィアさんが首をかしげていると、チルさんが教えてくれました。


「私たちは、とある方から『失われし魅惑のゴーレム』を探すようお願いされているのです。ゴーレムが眠るのは、この先の通りのどこか、らしいのです」


「えっと~、ミィアはシャマとチルルを手伝って、そのゴーレムを見つければいいんだね~」


「はいなのです」


 これから何をするべきかを知って、ミィアさんはやる気を出しました。

 寒い場所が苦手なミィアさんも、お散歩のおかげで元気を取り戻しています。


 それに、ゴーレム探しは街の探索をするようなもの。

 街の探索はホッカホカーを探索するようなもの。

 こんな楽しそうなこと、ミィアさんが見逃すはずがありません。


「ねえねえ! 早くゴーレム探し、はじめよ~」


「ああ、ミィアの言う通りだ。とある方のため、ゴーレム探しを急ごう」


 誰もが言葉を失いました。


 理由は簡単です。

 いつの間にミィアさんの隣にはルフナさんが立っており、そのルフナさんが当たり前のように会話に入ってきたからです。さすがに鎧は着ています。


 突然のことに、シュゼさんとチルさんは数歩後退りし、驚きを口にしました。


「ど、どういうことだ!? お主はどこから出てきた!?」


「まったく気づかなかったのです」


「2人ともまだまだだな。いいか、ミィアのいるところは私のいるところだ。覚えておけ」


「この私は出し抜くとは……やはりお主は最強の戦士であるな」


 どうやらルフナさんは、影の支配者にその実力を認められたようです。

 最強の戦士に認定されたルフナさんは、ミィアさんにつつかれながら提案しました。


「探し物をするなら、手分けして探すのがいいと思うぞ」


「言われずともそうするつもりだ。僥倖なことに、最強の戦士が現れたおかげで、戦力は4人となった。これならば、2チームに分けやすい」


「なら、ここはシュゼとチル、そして私とミィアの2人きりの――」


「ミィアさんとルフナさんは街の地理に疎いと思うのです。そこで、シュゼ様とルフナさん、私とミィアさんのチーム分けがいいと思うのです。私とミィアさんは横道を探すので、シュゼ様とルフナさんはパン屋さんから2軒先の裏道を探すのです」


「うむ、チルの言う通りにしよう。さすがはこの私の側近であるな」


「ああ……私とミィアの2人きりの時間が……」


 肩を落とし、祖国をなくしたみたいに残念がるルフナさん。

 そんなルフナさんの腕を掴んで、シュゼさんは威勢よく宣言しました。


「行くぞ皆の者! 戦場を駆け、ゴーレムを手にし、必ずやこの地に戻ってくるのだ!」


 そうしてシュゼさんは、ルフナさんを引きずってゴーレム探しに出発します。

 ミィアさんとチルさんは2人に手を振って、ゆっくりと歩きはじめました。


「私たちも出発するのです」


「おお~!」

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