第2話 主君と忠臣

 失われし魅惑のゴーレム探しは、名前のわりにのんびりとしたものです。

 マモノと戦うみたいな物騒なものはなく、ただお散歩の延長のようなミッション。

 証拠に、シュゼさんとチルさんは洗濯物が揺れ、魔法道具の蒸気が浮かぶ横道を歩いているだけです。


 横道を歩く最中、チルさんはミィアさんに尋ねました。


「ところで、気になることがあるのです」


「な~に?」


「先ほどミィアさんは、私たちのことをシャマとチルルと呼んだのです」


「そだね~」


「チルルは分かるのです。私の名前にルを追加しただけなのです」


「うんうん」


「シャマはなんなのです?」


「シャドウマスターの略だよ~」


「ああ、なるほどなのです」


 他愛もない会話です。

 せっかくならと、今度はミィアさんがチルさんに尋ねました。


「ねえねえ、チルルとシャマはいつから仲良しなの~? どうして仲良くなったの~?」


 こんな質問をしたのには、一応の理由がありました。


 というのも、シュゼさんとチルさんの性格は大きく異なるからです。

 はちゃめちゃなシュゼさんと、控えめでおとなしいチルさんが、なぜ仲良くなったのか。

 それがミィアさんは不思議だったのです。


 チルさんはメガネをあげて、淡々と話しはじめました。


「私、自分の性格が嫌いだったのです。いつも考え込んでいて、誰とお話をすることもなく、一匹狼を気取りたがる、そんな自分の性格が嫌で嫌で仕方がなかったのです」


「そうなの~?」


「はいなのです。だから、性格を変えようと頑張ったときもあったのです。でも、人の性格は簡単には変えられないのです。自分の性格を変えられない自分を、さらに嫌ったときもあったのです」


 これはユラさんのとはまた違うネガティブだな、とミィアさんは思います。

 歩みを止めることなく、チルさんは続けました。


「4年前のことです。私は『山の上の国』に引っ越し、山の上の魔法学校に転入したのです。そこで出会ったのがシュゼ様なのです」


 過去の回想に、おかしそうな笑みが加わりました。


「びっくりしたのです。シュゼ様は、自分のめちゃくちゃな性格を、惜しげもなく前面に出していたのです。あんなに奇抜な人、はじめて見たのです」


 これにはミィアさんも同意です。


「ある日、私はシュゼ様に、なぜ自分の本当の姿を嫌うのか、と尋ねられたのです。私は、私の性格は他人に不気味がられるかもしれないから嫌いだ、と答えたのです。そしたらシュゼ様は言ったのです。不気味がられるのは特別であることの証明ではないか、と」


 空を見上げたチルさんは、清々しい表情。


「そんな無理やりなポジティブがあるのかと、私は驚いたのです。同時に、自分のネガティブがどうでもよく感じるようになったのです。以来、私は自分の性格を嫌うことを止めたのです。そして、私はシュゼ様の側近となったのです」


「へ~、とっても素敵な関係だね~!」


 違う性格だからこそ、シュゼさんとチルさんは仲良くなれたのです。

 強烈な性格のシュゼさんと接したからこそ、チルさんは自分の性格を嫌うのを止めたのです。


 チルさんのお話を聞いて、ミィアさんは満足でした。

 満足ついでに、さらに質問を続けます。


「ねえねえチルル、もうひとつ質問した~い」


「なんなのです?」


「もしかしたらだけど~、チルルはゴーレムのある場所、知ってるでしょ~」


 瞬間、チルさんはびくりと動きを止め、質問に質問を返します。


「……なぜ、そう思うのです?」


「だって~、ぜんぜんゴーレムを探す動作、してないんだもん!」


「むむむ、なのです」


「それにさっき、シャマにゴーレムの探し場所を詳しく教えてたよね! あれは~、ゴーレムの場所を知ってる人の教え方だよ!」


「……ミィアさん、思った以上に鋭いのです」


 言い訳は通じないと、チルさんは観念しました。

 そして、真実を打ち明けます。


「たしかに、ゴーレムの在り処は分かっていたのです。ただ、シュゼ様はやる気満々だったので、シュゼ様が満足できる形でゴーレムが発見できるよう、ちょっとお芝居をしたのです」


「おお~! 主君想いのいい側近さんだ~、忠臣だ~」


 この『失われし魅惑のゴーレム探しミッション』は、ほとんどがチルさんの脚本だったということです。


 でも、それはシュゼさんのために作られた脚本。

 だからこそミィアさんは、チルさんを忠臣と呼んだのでした。


 真実を見破られたチルさんは、怪訝そうな視線を向けます。


「ミィアさんの本質的な部分は、何者なのです?」


 対してミィアさんは、チルさんの前にぴょんと跳ね、振り返り、満面の笑みで答えました。


「忠臣ルフナの主君だよ~!」


 その意味を、チルさんは完全には理解しきれませんでした。


    *


 ゴーレム探しのフリは終わりです。

 集合地点の橋に戻れば、シュゼさんが胸を張り、ルフナさんがミィアさんに抱きつきます。


「帰ってきたなミィア! ケガはないか?」


「ないよ~! チルルとのお散歩、楽しかった~!」


「ああ! やはりミィアの笑顔は天使の笑顔、天からの贈り物だ!」


 鼻息が荒いルフナさんを横目に、チルさんはシュゼさんに聞きました。


「探し物はあったのです?」


「ククク、ククハハハ、ハーハッハッハッハ! この私を誰だと思っている!? この私こそ、世界を影から支配する者! この通り、探し物は見つけたぞ!」


 そして勢いよく掲げられたのは、かわいらしいゴーレムの形をしたぬいぐるみです。

 あのぬいぐるみこそが、失われし魅惑のゴーレムだったのです。


「さあ、ミッションは遂行された! だが、まだゴーレムを依頼人に届けるという仕事が残っている。皆の者、行くぞ!」


 元気な影の支配者を先頭に、4人は依頼者のもとへ。


 依頼者の小さな女の子にゴーレムのぬいぐるみを渡せば、ミッションは完全に終わりです。

 ぬいぐるみを渡し終えた4人は、わいわいと自宅へ帰るのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る