第3話 シャドウマスター:影からの侵略パート1

 日も暮れた頃。

 スミカさんとシェフィーのお母さんが、テーブルの上にドカンと大皿を置いた。


「お料理、完成したわ!」


「さあ、みんなお腹いっぱいになるまで食べてくれよ」


 テーブルの上に並んだのは、ジャンルを超えた料理たち。

 チキンやスープ、色とりどりの野菜、美味しそうなソースのかかった肉料理、グラタン、いろんな形のパン、卵料理にケーキと紅茶のセット――

 どれもこれもが美味しそうで、私は今にもよだれが垂れちゃいそう。


 よし、さっさと食べはじめよう。


「いただきます」


 一度でもスミカさんとお母さんの料理を食べれば、美味しさの幸せから逃れられない。

 私は口いっぱいに広がる甘味にとろけ、ちょっぴりの辛味にやられ、まろやかで優しい後味に包まれた。


 どうやらミィアも料理の美味しさに囚われたらしい。

 あのミィアが一言も発さず、ただ黙々と料理を食べている。

 これにはシェフィーも驚いていた。


「ミィア様が無言で食べ続けています」


「すごい勢いだね」


「ミィアが無言で料理を食べるときは、言葉に使う体力も食事に集中させているときだ。つまり、スミカさんとシェフィーのお母さんの食事がとても美味しいってことだな」


 それは納得だね。

 このスミカさんとお母さんの料理を食べれば、きっと世界は平和になるんじゃないかな。


 片手にスプーン、もう一方の手にパンを持ったチルとシュゼも幸せそうだ。


「エクレール家のご飯は絶品なのです」


「食糧によって人々を従属させるとは、母よ、さすがだ」


 こうして、私たちはワイワイとパーティーの料理を食べていく。

 料理が美味しすぎたせいか、テーブルの上はあっという間に空のお皿であふれかえった。


 みんなが紅茶を飲んで一息つく中で、お母さんはニタリと笑って言う。


「次はお待ちかね、演劇だね」


 お母さんのその言葉を合図に、チルとシュゼは魔法を使って演技の衣装や道具を出した。

 そして出演者であるスミカさん、ミィア、ルフナ、チル、シュゼはリビングの外へ。


 リビングに残ったのは、私とシェフィー、お母さんの3人。

 シェフィーは不思議そうな顔で言った。


「あれ? ユラさんは演劇に出演しないんですか?」


「私は監督として、みんなの成果を客席から見届けようかな、って」


「本当ですか? 実は、人見知りで演技の自信がないだけでは?」


「……はじまるよ!」


「正解だったんですね」


 じっとりとしたシェフィーの目に見つめられながら、私は演劇のはじまりを待つ。


    *


 私とシェフィー、お母さんの3人でソファに座っていると、リビングにとある声が響いた。

 いよいよ演劇のはじまりだ。


《小さき存在たちよ、我がお主らに終焉を告げよう》


「これはスミカさんの声ですね。怖いことを言っていますが、声が優しいから分かります」


 小さな声でそう言うシェフィー。

 脚本を知っている私からすると、ちょっと複雑な感想かも。


 スミカさんの言葉に続いたのはシュゼの声だった。


《闇から轟く禍々しき声が、世界を戦の時代へと誘った》


「禍々しき声、でしたかね?」


《以降、魔族と人間は各地で衝突し、数多の叫びが世界を覆い尽くした》


「お、思ったより重い世界設定です」


 ふむふむ、シェフィーはツッコミを入れながらも演劇を楽しみにしてくれている。

 つかみはいい感じかな。


《戦乱の中、人類の指導者である女王のもとに預言者がやってくる。預言者は口にした。女神の福音により、まもなく世界を救いし勇者が現れるだろう、と。数日の後、予言通り、女王のもとに勇者が参じた》


 ナレーションが終わると、女王様衣装のミィアと、ローブ姿のチル、鎧姿のルフナがやってきた。


 ルフナはミィアとチルの前にひざまずいている。

 偉そうなポーズで椅子に座ったミィアは、隣に立つチルに尋ねた。


「彼女が予言にあった勇者なのですか?」


「はい、間違いないのです」


 チルの答えを聞いて、ミィアはルフナに視線を向ける。


「勇者様、お名前を」


「は! 女神からの神託を預かりしルフナと申します!」


「良い顔です。これほど頼もしい勇者様ならば、安心して命令を下せましょう」


 ふっと笑うと、ミィアは立ち上がる。

 そして、ミィアはルフナの肩に手を置き、言うのだった。


「勇者ルフナ、魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらしなさい」


「かしこまりました!」


 リビングは暗転。

 暗い中から聞こえてくるガサゴソ音は、次の舞台の準備かな。


 この間、シェフィーは楽しそうな口調で感想を口にした。


「すごいです! さすが本物の王女様とナイトさんです! やりとりがリアルです!」


 だよね。

 演技なのか素なのか分からないミィアとルフナに、私も驚いた。

 あれこそ本来のファンタジーの姿な気がするよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る