14けんめ シェフィーの実家に行く話

第1話 シェフィーママ登場

 明日、私たちは魔法学校で生徒たちに授業することが決まった。


 授業の計画が決まれば、魔法学校見学はそれで終わり。

 家に帰るチルと別れ、いよいよ私たちはシェフィーとシュゼの家へ向かう。


 橋を渡り、街を歩く間、スミカさんと私はワクワクでいっぱいだった。


「シェフィーちゃんとシュゼちゃんのおウチ、どんなところか楽しみだわ」


「きっと絵本に出てくる三角屋根のおウチみたいなのなんだろうなぁ」


 妄想は膨らむばかり。

 ちっちゃくてかわいいツインテの魔法使いさんが住んでるおウチは、かわいいに決まってる。

 シュゼだって見た目はかわいい女の子なんだから、かわいいおウチがぴったし。


 にしても、自宅は随分と坂を登っていくね。

 なんだか街からも遠ざかってるけど、シェフィーのおウチは山の上にあるのかな?


 しばらく坂を登れば、ついにシェフィーとシュゼが口を開いた。


「と、到着しました」


「ククク、世界を影から支配するこの私の神殿へようこそ」


 その言葉を聞いて、楽しみを胸に窓に張り付く私。


 窓の向こうに見えたのは、山にへばりつく平屋だった。

 平屋の土壁は亀裂まみれで、しかも木の板で継ぎ接ぎ状態。加えて全体的に雨だれがすごい。

 屋根に至っては、ロープで無理やりに固定されている。


 あれがシェフィーの実家か。


「なんだか……こう……いかにも年季の入った慎ましやかな家だね!」


「フォロー下手ですか!」


 ごめん! これが私のフォローの限界!


 そうだよ、今までシェフィーの言葉を思い出せば分かることだよ。

 シェフィーは主に金銭面で相当に苦労してきた過去があったんだった。


 あらゆる苦労がにじみ出ているシェフィーの家を見て、貧乏とは正反対の世界に生まれたミィアは首をかしげた。


「ねえねえシェフィー、おウチの端っこ、焼け跡あるよ~?」


「あそこは……5年前に魔法の練習中にわたしが焦がしちゃった場所で……でも修理するお金がなくて……」


 あまりにもあんまりな過去話に、ルフナは心の底から感心したような表情を浮かべる。


「壮絶だな。だからこその逞しさか」


 たぶんルフナは褒めたつもりなんだろうけど、シェフィーは頬を膨らませた。

 一方で、スミカさんは優しく微笑む。


「フフ、シェフィーちゃんのおウチ、シェフィーちゃんが帰ってきて嬉しそうよ」


「ホ、ホントですか?」


「本当よ。だってシェフィーちゃんのおウチ、嬉し泣きしてるもの」


「家って嬉し泣きするんですか!?」


 驚きながらも、シェフィーは満面の笑みを浮かべていた。

 今のシェフィーの気持ち、私にはよく分かる。

 どんなボロ屋でも、おウチはおウチ。世界にひとつだけの、大切なおウチだもんね。


 さて、自宅が腰を下ろすと、シェフィーの家の扉が開いた。


 扉から出てきたのは、ゆったりとした服装に、フライ返しを片手に持った、明るい色の短い髪を揺らす大人な女性。

 女性は動く自宅をまじまじと見つめ、つぶやいた。


「こりゃ驚いた……手紙に書いてあった通りの動く家だ……」


 すると、シェフーは目を輝かせ、テラスから自宅を飛び出る。


「お母さん! ただいま!」


「よっ、シェフィー、おかえり」


 女性に抱きつくシェフィーと、優しくシェフィーを抱きしめる女性。


 ふむふむ、あの大人な女性がシェフィーのお母さんなんだね。

 かわいいシェフィーとクールビューティーなお母さん――最高の組み合わせだよ。


 娘との再会を喜びながら、お母さんはスミカさんに話しかけた。


「あなたがジュウの勇者スミカさんだね」


「はじめまして。私たちのこと、ご存知なのですか?」


「当たり前よ。シェフィーの手紙でいろいろと教えてもらってるからね。窓の端からちょこんと顔出してるのが、『西の方の国』の王女様ミィア様でしょ」


 名前を呼ばれ、ピクッとするミィア。

 はてさて、ミィアは王女様モードで挨拶するのか、天真爛漫モードで挨拶するのか。

 静かにテラスに出たミィアは、ウサ耳パジャマのまま言った。


「そうだよ~、ミィアだよ~。はじめまして~」


 これはフワッと型の天真爛漫モードだね。

 王女らしさゼロのミィアを前に、お母さんの凛とした瞳が困惑した。


「ありゃ? シェフィー、ミィア様の印象が手紙と全く違うんだけど?」


「ええと、実は――」


 数分に及ぶシェフィーの説明を聞いて、お母さんはニタリと笑う。


「へ~、そりゃ面白い」


 まるで歴戦の勇士みたいな反応。

 なんだろう、シェフィーのお母さん、惚れちゃいそうなくらいかっこいいよ。

 かっこいいお母さんは、腰に手を当て言う。


「ミィア様、あとでケーキ作ってあげるから、楽しみにね」


「おお~、やった~」


 事前情報があるおかげか、お母さんはあっという間にミィアを手懐けた。

 続けてお母さんはルフナをじっと見つめる。


「そんで、あなたがナイトさんのルフナちゃんだね」


「お初にお目にかかる。娘さんには世話になっている」


「こちらこそ、いつもシェフィーを守ってくれてありがとね。ところで、下着姿なのに寒くないの?」


「心配いらないさ! ミィアへの想いがあれば、寒さなど敵ではない!」


「なるほどね、こりゃ手紙に書いてあった通りの重症だ」


 まったくその通りです。

 なんてお母さんに同意していると、お母さんのクールな視線が私をロックオンした。


「で、部屋の隅っこからこっち見てるのがユラちゃんだね」


「はわわ!」


 いきなり指名され、私は慌てて自己紹介。


「ユ、ユラです……はじめまして……」


「はじめまして。よく挨拶できたね、偉い偉い」


「ど、どうも……」


 人見知りな私の自己紹介を褒めてくれるなんて、お母さんは神様かな?


 ともかく、これで挨拶は終わり。

 お母さんは私たちに向かって言った。


「スミカさんとユラちゃんは、その家から出られないらしいね。ま、どうせこのボロ家にみんなを招くわけにもいかないし、私がそっちに行くよ。いいかい?」


「か、構いません! ただ、シールドが……いや、そこは大丈夫か」


 シェフィーのかっこいいお母さんを拒絶するなんてあり得ないからね。


 一通りの話が終わり、お母さんが家に戻ろうとすると、シュゼが声を張り上げた。


「母よ! こやつらは今日からこの私の部下となる者たちだ! 丁重に扱いたまえ!」


「はいはい、任せなさいって」


 それだけ言って、背中を向けたまま手を振るお母さん。

 シェフィーが自宅に戻ってくれば、私はすぐにシェフィーに話しかける。


「ねえ、シェフィーのお母さん、かっこいい人だね」


「はい! そうなんです! お母さんは、わたしが世界で一番尊敬する人です!」


 えっへんと胸を張り、自分のお母さんを自慢するシェフィー。

 こんなかわいいシェフィーも、いつかお母さんみたいなクールビューティーになる日が来るのかな?

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