第7話 勇者と勇者の仲間たち
いつも通りのミィアとルフナと合流し、自宅は大きなお城の正門までやってきた。
ここから橋を渡れば『北の地方』への旅のはじまりだ。
けれどもその前に、私たちは聞き慣れた大声に呼び止められてしまう。
「おいジュウの勇者! 氷の女王!」
突然の大声に私はビクッとした。
外に謎のイノシシを担いだシキネとクロワがいるのを確認すると、私はスミカさんをじっと見つめる。
私の瞳を見たスミカさんは、私の言いたいことが分かったらしい。
自宅は脚を止めることなくシキネの前を素通りした。
「スミカ! ユラ! 無視をするな!」
さらなる大声とともに、シキネは自宅のシールドに必殺技を打ち込みはじめる。
さすがにシキネを無視しきれなくなったスミカさんは、テラスに出た。
「無視しちゃってごめんなさいね。今日もまた勝負かしら?」
「そうだ! アタシと勝負――いや、今回は違うぞ!」
「危うく勝負になりかけたんじゃい」
「今回は勝負じゃなくて、お前らに伝えたいことがあるんだ!」
意外すぎるシキネの言葉に、私たちは驚きを隠せない。
「シキネさんが勝負を仕掛ける以外で私たちに声をかけたの、はじめてです!」
「天変地異が起きる予兆かな?」
「ふ~ん?」
「きっとあれだよ! おっきな火山が大噴火するんだよ!」
「そうなったら、私が命をかけてミィアを守るぞ」
好き放題なことを言う私たち。
そんなことは気にせず、シキネは全身を使って声を張り上げた。
「お前ら、この前の戦いぶり、すごかったな!」
「この前のって、『テントだらけの国』での戦いのことかしら?」
「そうだ! あの戦いで、スミカはピカピカしながら、ノリノリの曲かけて、ブワーってマモノを倒してただろ! あれ、すごかったぞ!」
「語彙力がひどいんじゃい」
「しかも、死神みたいなマモノに襲われてた人を助けるために、死神みたいなマモノをドッカーンってやっつけただろ! あの容赦のなさ、最高にかっこよかった!」
今のシキネはちっちゃい男の子みたい。
クロワはシキネのお姉ちゃんってところかな。
シキネくんは、それでもいつもみたいに腰に手を当てる。
「アタシはあの戦いでな、お前たちを見直したぞ! お前たちもアタシたちと同じ、最強の勇者だったんだな!」
スーパーヒーローポーズで堂々と宣言するシキネ。
これにスミカさんは頰に手を当て微笑んだ。
「フフフ、アイリスちゃんに続いて、シキネちゃんも私のことを勇者だって認めてくれて、嬉しいわ」
いろいろな人に勇者と呼ばれて、スミカさんはなんだかご機嫌だ。
一方で、この前の戦いのことを思い出すと、私もシキネに言いたいことがある。
私は勇気を出してテラスに立ち、シキネに話しかけた。
「ねえ、あのさ」
「おう? なんだ?」
「この前の戦い、シキネもすごかったよ。シキネが助けに来てくれたおかげで『テントだらけの国』が無傷で済んだようなもんだし。だから……その……ありがとう」
全部が本音からくる言葉だ。
対するシキネは、数秒間の沈黙を挟んでから、全身に力を込めて叫ぶ。
「な、ななな、なんだって!? ユラがアタシに、あ、あ、ありがとうだって!? ヤバいぞクロワ! 全世界のお風呂がぬるくなる前兆だぞ!」
「意味が分からないけど、ぬるいお風呂は嫌いじゃないんじゃい」
「アタシは熱いお風呂じゃないとイヤなんだ! ゆで卵気分が味わえないとイヤなんだ!」
「なんの話をしているんじゃい?」
誰もがクロワの言葉にうなずくだろうけど、シキネは冷や汗を垂らしながら一方的に私たちに言った。
「熱いお風呂は必ず取り戻す! だから、次に会った時は最強同士の勝負だ! 釘を洗って待ってろよ!」
こうして、謎のイノシシを担いだシキネとクロワは大きなお城へと去っていった。
謎すぎる展開に、私たちは苦笑いを浮かべることしかできない。
「騒がしい2人だよ、まったく」
「はい。とっても騒がしくて、とっても楽しそうなお2人です。次はどこでお会いできるんでしょうね?」
まったくシェフィーの言う通り。
これからもシキネたちとは、旅の最中で何度も顔を合わせることになるんだろう。
そう、これから私たちは、ジュウの勇者として北の地方への旅に出るんだ。
スミカさんは手を合わせながらにっこり笑った。
「そろそろ北の地方へ出発するわよ。北の地方……寒そうだわ」
「コートとか買っておいた方がいいかもね」
またも通販の出番かな、と思っていると、シェフィーたちは首を横に振った。
「北の地方といっても、『いろんな島がある国』は常夏だそうですよ」
「ふんふ~ん」
「え? 北の方は寒いのが定番じゃないの?」
「だってだって、ここは『ツギハギノ世界』だもん!」
「ああ、そっか」
妙な納得感。
名前の通り、この世界は継ぎ接ぎの世界なんだ。
谷ひとつで平野と山岳地帯が隣り合う世界で、北の地方が常夏でも不思議ではない。
ところで、さっきからルフナが鎧を脱いだきり考え込んでいる。
それはミィアも気になっていたようで、ミィアはルフナの前に仁王立ちした。
「ル・フ・ナ! どうしたの~? 考え事~?」
「あ、ああ、まあな。実は、これは騎士団長から聞いたウワサなんだが、北の地方に魔王が現れたという情報があるらしい。だとすると、それなりの準備は必要かもと思ってな」
「魔王!? おお~! じゃあじゃあ、勇者と魔王が対決するかもってことだね! おとぎ話みた~い!」
「ボス戦BGMとかあるのかな!? なんか壮大な曲が流れるのかな!?」
「どうしてユラさんとミィア様は楽しそうなんですか!? 魔王ですよ! 魔王!」
楽しいに決まってる! 魔王だよ魔王!
ファンタジー世界に勇者がいれば、魔王がいるのは当然のこと。
魔王とのバトルになれば、神曲が流れるのは当然のこと。
うんうん、これは期待しちゃう展開だよ。
もしかしたら魔王と戦うことになるかもしれないスミカさんは、のんきに微笑んでいた。
「北の地方に行って、イの勇者さんと出会って、もしかしたら魔王と戦うかもしれないなんて、今度の旅は忙しくなりそうね」
まるで家族旅行を楽しみにするお母さんみたいなスミカさん。
そんなスミカさんに、シェフィーは申し訳なさそうにうつむきながら言った。
「あの、できれば『山の上の国』という場所に寄っていただけると嬉しいのですが……」
「いいけれど、どうしてかしら?」
「実は『山の上の国』はわたしの故郷でして……」
「あらまあ! なら絶対に『山の上の国』に寄っていかないとだわ! ね、ユラちゃん!」
「うん」
私たちの回答に、シェフィーは頭を下げながらも嬉しそう。
シェフィーの故郷がどんなところなのか、私たちは興味津々だ。
これで旅の楽しみがまたひとつ増えた。
新しい目的地もできたことだし、そろそろ旅をはじめよう。
「じゃ、行こっか」
「ええ、出発しましょ」
私たちを乗せた自宅は、大きなお城とテイトの街をつなぐ橋をのしのしと歩きはじめた。
こうしてはじまった、新しい目的地への旅。
とは言っても、私たちが自宅でのんびり過ごすことに変わりはないんだけどね。
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