第6話 あなたはどんな勇者?
話についていけない私たちは、とりあえず顔を合わせる。
騎士団長は白い歯をのぞかせ説明をはじめた。
「つまりはだ。ジュウの勇者に与えた試練はフェイク。実際は町がマモノに襲われそうになったり、旅商人に扮した私がマモノに襲われそうになったりしたとき、ジュウの勇者はどのような行動をするのか、それを確かめるのが試練の本当の目的だったというわけだ」
騎士団長の説明を聞いて、私は床に崩れ落ちた。
盗まれた国宝を取り戻すかどうかは、試練の本当の目的とは関係がなかったんだ。
国宝よりも人命を優先した私の選択は間違ってなかったんだ。
安心する私の隣で、スミカさんは騎士団長に質問する。
「もしかして、国宝を盗まれたっていう話もウソだったのかしら?」
「それは嘘ではない。マモノに盗まれたものも、リーパーズもろとも吹き飛んだものも、我が国の国宝で間違いない」
急に崖に突き落とされた気分。
やっぱり私たちは『大きな帝国』の国宝を吹き飛ばしちゃったらしい。
だとすると、結局は怒られるのかな。
そんな心配をする私を見て、アイリスはにんまり笑う。
「どーせあのこくほーは、わたしが作ったねんどのにんぎょうを、パパがかってに『こくほー』にしただけのものよ! こわしても気にするひつよーはないわ!」
良かったぁ。
盗まれたどうでもいい国宝を利用して、今回の試練を練り上げたってことだよね。
これで今度こそ安心できるよ。
安心したのはスミカさんとシェフィーも同じ。
スミカさんはアイリスに優しい笑みを向けていた。
「あらあら、見事に騙されちゃったみたいね」
「でしょ! だってわたしは、じょてーだもの!」
「やっぱりアイリスちゃんはすごいわ」
「あたりまえよ!」
褒められたアイリスは鼻高々だ。
アルパカイスに座ったちっちゃい女の子が胸を張る。うん、かわいい。
これでもう私の不安はどこにもない。
「処刑されずに済んだ……これで引きこもり生活が続けられる……!」
何よりもそれが一番嬉しいことだった。
さて、どうやらミィアは試練の本当の目的を知っていたらしい。
ミィアは試練の結果をアイリスに報告する。
「陛下、ジュウの勇者と氷の女王は迷いなく人命を優先し、一切の躊躇もなく国宝を吹き飛ばしましたわ」
「ということは?」
「ジュウの勇者と氷の女王は、命令や与えられた目的よりも己の使命を優先し、己の使命のためならば手段を選ぶことのない者たちである、ということですの」
「その言い方だと、なんだか悪役みたいです!」
シェフィーのツッコミに私も同意だ。
手段を選ばない移動要塞とか氷の女王とか、もう勇者というより魔王軍の幹部だよね。
このまま変なイメージが定着しないといいんだけど。
当のスミカさんは悪役な評価も気にせずミィアに質問していた。
「シキネちゃんとか他の勇者の試練の結果はどうだったのかしら?」
「たしか、イの勇者は旅商人と国宝のどちらも救い、ショクの勇者は試練の存在自体を忘れて国宝を吹き飛ばしたそうですわ」
「フフフ、シキネちゃんっぽいわね」
試練失敗に怯えていた自分がバカらしくなってくる話だ。
なんだかシキネの能天気さが羨ましくなってきたよ。
一連の話が終わると、アイリスは立ち上がり、胸を張り、宣言した。
「ジュウのゆーしゃ! よく聞きなさい! じょてーであるこのわたしが、あんたを『ゆーしゃ』としてみとめてあげる!」
いざ女帝にそう言われると、自然と頰が緩んでくる。
そして私たちは、思わず抱き合った。
「やりました! 一時は処刑寸前かと思いましたけど、なんとか無事に勇者として認められましたよ!」
「これでスミカさんは公式な勇者……うん、いい感じのファンタジー路線」
「ありがとう、アイリスちゃん」
「とーぜんよ!」
相も変わらずアイリスはえっへんと胸を張る。
アイリスの隣では、ミィアとルフナがほっと胸をなで下ろしていた。
新しい公式勇者の登場に、玉座の間はプチパティー状態だ。
ただし、騎士団長だけは真面目な顔で私たちに言う。
「ジュウの勇者殿、唐突で申し訳ないのだが、そなたたちには北の『いろんな島がある国』に向かってほしい」
「構わないけれど、どうしてかしら?」
「北の地方はイの勇者殿が担当していたのだが、どうにも仕事が忙しいらしい。そこで、ジュウの勇者殿にはイの勇者殿を手伝いに行ってほしいのだ」
まるで試練の前からスミカさんを勇者として認めていたみたいなお願いだ。
お願いに対してスミカさんが答えを言う前に、アイリスが前に出た。
「『きたのちほー』はすごくとおいわよ! だから、あんたたちにはこれをあげるわ!」
続けてルフナがズタ袋をスミカさんに手渡す。
私とシェフィーはスミカさんの両脇からズタ袋の中身を覗き込んだ。
するとズタ袋の中には大量の金貨が。
何これ、びっくりするほどファンタジー。
シェフィーは目を見開いた。
「金貨100枚!? よ、よろしいんですか!?」
「いいに決まってるじゃない! きしだんちょーをすくってくれた『おれー』よ!」
「あぁ……アイリス陛下……演技でもマモノに襲われておいて良かった……!」
「それと、アルパカのイス、気に入ったわ! これこそこくほーにふさわしいわね!」
通販で2万円で買ったアルパカイスが、異世界の帝国の国宝になる。
世の中、何がどうなるか分からないものだね。
公式勇者に認められ、旅の資金をもらって、アイリスたちのお願いを断る理由もない。
あてのない旅もいいけど、目的地のある旅も悪くない。
ということで私たちは、アイリスの言う『北の地方』に向かうことにした。
玉座の間での謁見が終われば、スミカさんはアイリスに手を振る。
「じゃ、行ってくるわね!」
「フン! じょてーであるこのわたしを、しつぼーさせないことね!」
もはや反り返りそうなくらいに胸を張ったアイリス。
でもアルパカイスに座った幼女に見送られる私たちは、ホワッとした気分だった。
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