第2話 マモノもテイト観光かな?

 テイトの真ん中で、ドラゴンを引きずったシキネとクロワに出会う。

 もう嫌な予感しかしない。


 そんな私の心情を知ってか知らでか、スミカさんは窓を開けシキネたちに声をかけた。


「シキネちゃん! クロワちゃん! また会えたわね!」


「この声……ジュウの勇者だな!」


「おお、こんにちはじゃい。思ったより早く会えたんじゃい」


「その大きなドラゴン、どうしたのかしら?」


「さっき山で狩ってきたんだ!」


「いい収穫じゃい」


「キノコ狩りでもしてきたみたいな言い方をしますね……」


「さすがシキネちゃんとクロワちゃんだわ」


 あの2人は楽しそうで何よりだ。

 微妙にシキネの口がモゴモゴしているのが気になるけど。


 それより、2人の勇者の登場に街がざわついている。

 このままだと私は人混み酔いに一直線。

 今はゲームに集中して、外のことは忘れよう。


「どこで中断してたかな……ああ、敵が囮部隊だったって分かったところか」


 元ロシア軍特殊部隊は全員が囮。

 敵の本隊であるテロリストは地下を進んでいる。

 だからこそ、こっちもアサルトライフルを握りしめ地下鉄へ向かう最中だ。


 ゲームは盛り上がる一方。

 盛り上がっているのはゲームだけじゃないらしい。


「ショクの勇者様だ!」


「かっけえ!」


「キャー! 勇者様が手を振ってくれたわよー!」


「あっちはジュウの勇者――移動要塞か?」


「美人な氷の女王が住んでるって噂だぞ」


「ジュウの勇者は強面勇者か」


 移動要塞って何? 氷の女王って何? 強面勇者って何?

 噂が一人歩きしすぎて、私とスミカさんの印象がおかしなことになってるよ。


――まずいまずい。外の世界のことは放っておかないと。


 ともかくゲームに集中だ。

 レティクルに敵を入れてトリガーを引く、レティクルに敵を入れてトリガーを引く。


「おーい! ショクの勇者と氷の女王!」


 なんだかシキネが私たちを呼んでいる。

 まあ、氷の女王なんて知らないから無視しよう。


「スミカとユラ!」


 名前で呼ばれたけど、やっぱり無視しよう。


「これからアタシと――」


 待って、それ以上は言わないでほしい。

 もうシキネが『アタシと勝負しろ』とか言い出す未来しか見えない。


 嫌な予感は当たってしまったみたいだ。

 と思ったのだが、シキネが勝負という単語を口にする前にシェフィーが叫んだ。


「あそこを見てください! 何かがいます!」


 意外なセリフにつられ、シェフィーの指摘した方向に視線を向ける。

 すると、ツノと尻尾を生やした生き物が、三角屋根の上にずらりと並んでいるのが見えた。

 あれはもしかしなくても、ガーゴイルだ。


「なんでこんなところにガーゴイルが?」


「ガーゴイルがテイトにいる理由は後です! 住民の皆さんを守らないと!」


「そ、その通りね! ええとええと、まずはガトリングかしら?」


「待って、街中でガトリングなんか撃ったら、私たちがマモノだよ」


「じゃあどうすればいいのかしら!?」


 少し考える時間がほしい。

 でも、考える時間なんて一秒もない。

 ガーゴイルたちが屋根を飛び降り武器を振り下ろせば、すぐに地獄絵図の完成だ。


 早くマモノを倒さないと。でもどうやって?


 悩んでいるうち、雷のような轟音が街を駆け抜けた。


「なに!? マモノの攻撃!?」


「違います! 見てください! 数体のマモノたちが消えていきます!」


「シキネちゃんよ! シキネちゃんの攻撃だわ!」


 まさにスミカさんの言う通りだった。

 屋根の上でクロワッサンをくわえたシキネが暴れ回っている。

 シキネの拳が振られるたび、マモノたちは吹き飛ばされ霧状に消えていく。


「うりゃうりゃうりゃ~!」


 がむしゃらなシキネの攻撃により、次々と数を減らすマモノたち。

 攻撃ががむしゃらすぎて建物も壊しているけど、あのくらいならケガ人はいないはずだ。

 ショクの勇者のクロワッサンパワーは、容赦無くマモノを襲い続ける。


 荒ぶるシキネの攻撃を受けたマモノたちは、ついにバラバラに散開をはじめた。

 それをシキネが追わないはずがない。


「待てぇ! アタシから逃げられると思うなよぉ!」


 大ジャンプをして屋根の上を伝っていくシキネ。

 そのまま彼女は、ポニテを揺らし拳を振り上げどこかへ走り去ってしまった。


 クロワは住民の避難誘導中。


 少しの余裕ができた私たちは、これからのことについての話し合いだ。


「私たちもマモノを追うべきかしら?」


「いや、他にマモノがいないか調べるのが先だと思う。前に解放したレーダースキルを使ってみよう」


「分かったわ」


 うなずいたスミカさんは、使い慣れないスキルに悪戦苦闘。

 それでもレーダースキルを発動し、目をつむりながら付近の様子を探りはじめた。


「なんだか黄色い矢印と青くて大きな点が見えるわ」


「黄色い矢印が自分の居場所と向いてる方向、青い点がシキネだと思う」


「あらあら、赤い点がたくさん」


「たぶんそれがマモノの居場所だね。赤い点はどっちに向かってる?」


「お城とは逆の方向だわ」


「え?」


 変な話だ。

 わざわざテイトに攻め寄せて、お城は無視するだなんて。

 目的は撹乱? それともシキネに恐れをなして逃げ出した?


「もしかして……」


 すごく嫌な予感。

 ふと目に入ったのはゲーム画面だ。

 囮である元ロシア軍特殊部隊を無視し、地下を進む敵本隊を追う場面。


「ねえシェフィー、テイトに地下通路みたいなのってあるの?」


「地下通路は聞いたことがありませんが、地下水路ならたくさんあります」


「それだ!」


 なんだか今日は嫌な予感がよく当たる日だ。

 もしかしたらシキネは、マモノの罠にはまったのかもしれない。 


「スミカさん、もっといろんな場所を調べてみて! 特に地下とか!」


「任せなさい!」


 ソファの上で目をつむるスミカさんは、う~んう~んと唸る。

 しばらくして、スミカさんの大声がリビングに響いた。


「いたわ! 大通りの地下水路を、大きな赤い点がお城に向かって進んでるわ!」


「つまり、ガーゴイルたちは囮ということですか!?」


「きっとそう!」


「シキネさんは囮部隊に釘付けです! 地下水路を進むマモノはわたしたちでなんとかしないと!」


「スミカさん!」


「分かってるわ!」


 人だかりを器用に避けながら、自宅は勢い良く大通りへと走り出す。


 マモノがお城へ向かう理由がテイト観光であるはずがない。

 お城には、女帝さんだけでなくミィアとルフナもいる。

 みんなを守れるかどうかは、もうスミカさん次第だ。

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