第3話 キレイにするとキレイです!
街の中心にある高台のお城に近づけば、人混みも少なくなった。
代わりに、私は別のことに緊張しはじめる。
「これから女王様と会うんだよね……」
国のトップと対面だなんて、異世界に来る前ならあり得なかったこと。
私はどうすればいいんだろう?
礼儀作法とか、きちんと守れるのかな?
緊張と不安に包まれる私。
対するミィアは無邪気なままだった。
「もうすぐでミィアのおウチだよ~! きっとママもユラユラとスミカお姉ちゃんに会いたがってるから、歓迎してくれるよ~!」
「ねえ、ミィアのお母さんって、どんな人なの?」
「とっても優しいよ~! ミィアと一緒にお菓子を食べながら、いろんなことを教えてくれるの~! おいしいクッキーの作り方とか、地方豪族の説得の仕方とか!」
「教わることが幅広いね」
きちんとした女王様なのか、のんきな女王様なのか。
シェフィーとルフナは、ミィアに続いて女王様のことを教えてくれる。
「ミィア様の言う通り、マーリア陛下はとってもお優しい女王様なんです!」
「ああ、優しすぎて困ってしまうぐらいにな」
ふむふむ、とりあえず女王様が優しい人なのは分かった。
これでちょっとだけ安心できた、気がする。
ところで、スミカさんは私とは別のことを心配していたらしい。
いつの間にリビングからいなくなっていたスミカさんは、メイク道具を持って私の前に現れた。
「ユラちゃん! 女王様に会うために、お化粧をするわよ!」
「へ? お化粧?」
「やっぱり、お化粧って何? みたいな顔をしたわね」
「ええと……」
「この私が、ユラちゃんをメイクアップしてあげるわ! 女王様にも褒められちゃうくらいに、かわいくしてあげるわ! まずは顔を洗うわよ!」
「ほえ?」
お化粧――メイクアップ。それは、私の中には存在しない概念。
未知の言葉に混乱する私は、スミカさんにされるがまま。
顔を洗い終えれば、お母さんのワイシャツとタイトスカートを着せられ、メイクアップへ。
スミカさんは化粧下地を私の顔に塗りながら、楽しそうに笑った。
「フフフ、ユラちゃんは元がかわいいからね、濃いメイクは必要なさそうだわ。でも女王様と会うためには、ナチュラルメイクよりも、上品な大人っぽいメイクの方がいいわね」
鼻歌でも歌い出しそうなスミカさんは、さっそくメイク道具を手に取る。
ファンデーション、アイライナー、ビューラー、口紅などなど。
よく分からない道具が、私の顔を飾りつけていく。
「メイクは終わり! フフ、ユラちゃん、とってもかわいいわ!」
鏡に映る私は、まるで別人みたい。
私って、こんなに大人っぽい雰囲気だったっけ?
「次はヘアセットよ。いつものハネハネな髪型、私は好きだけど、今日はキレイに整えちゃいましょうね」
ブラシやらクシやらスプレーやらを持ったスミカさん。
優しさといい匂いに包まれながら、私はやっぱり、されるがまま。
数分して、私の髪型は大人仕様のハーフアップに。
「ヘアセットも終わり。あとはジャケットを着て……できたわ! 大人ユラちゃんの完成!」
「これが……私……?」
人生ではじめて、きちんとしたメイクをした自分の姿に私はびっくり。
鏡に映った自分が、なんだか自分以外の人みたいに見えて、つい見とれてしまう。
これにはシェフィーたちも驚いていた。
「すごいです! お化粧をしたユラさん、美人さんです!」
「おお~! 大人ユラユラ、お話に出てくる女神様みたいだよ~!」
「驚いたなぁ。元からキレイだったとはいえ、ここまで美しくなれるなんて」
みんなに褒められて、ちょっと照れてきた。
キレイすぎる自分を見てるだけでも照れてくる。
ちょっと話を変えよう。
とりあえず、純粋な疑問を口にしてみようかな。
「ねえ、スミカさんはどこでメイクアップ術、覚えたの?」
どうして、家がメイクアップ術なんてものを知っていたのか。
この疑問に、スミカさんは微笑みながら答えてくれた。
「ユラちゃんのお母さんの真似と、雑誌やテレビの特集ね。中学生のユラちゃんがこっそり読んでたファッション誌も参考になったわ」
「こっそり読んでたのバレてた!?」
思春期の気の迷いを見られていたなんて、恥ずかしい。
さて、メイクアップはこれで終わり。
自宅は坂を登り、高台のお城の入り口までやってきた。
高台のお城の入り口はジャンプで飛び越え、自宅はお城の前にある広場の真ん中へ。
ここで、王女様モードのミィアがテラスに立つ。
「みなさん、心配をかけてしまいましたね」
「おお! 殿下だ! 殿下が勇者様と一緒に帰ってきた!」
「陛下にお伝えしろ! ミィア殿下のご帰還と、ジュウの勇者様のご到着だ!」
「殿下! 勇者様! しばしここでお待ちください!」
広場にいた騎士団のみんなは大騒ぎ。
そんな騎士団たちも、高貴な人たちに囲まれた、ドレス姿の気品溢れる女性が高台のお城のバルコニーに現れたのを見て、一斉にひざまずいた。
――あの女性、まさか……。
女性のそばに立つローブ姿の魔術師さんは、私たちに話しかけてくる。
「勇者殿、こちらへ」
言われた通りに自宅は前へと進み、バルコニーの前に陣取った。
自宅が4本の脚を伸ばせば、自宅のテラスとお城のバルコニーが並ぶ。
ミィアはお淑やかに手招きをして、スミカさんをテラスに立たせた。
すると、魔術師さんが厳かに口を開く。
「ジュウの勇者様は、玉座の間には入れぬであろうぞ。そこで、この場を謁見の場とする」
続けて、ドレスを着た女性が口を開いた。
「お初に目にかかります。わたくしは『西の方の国』の女王であるマーリア=ラオプフォーゲルです。ジュウの勇者様、あなたの到着をお待ちしておりました」
やっぱり! あの女性は女王様だったんだ!
女王様からは、上品だけど威厳のあるオーラが漂っている。これにはスミカさんも珍しく緊張気味。
「ええと、はじめまして。私は勇者のスミカ=ホームと申します。この人間の姿は、家の思念体を人間の形にしたものです。それと、あの子が――」
なぜか振り返り、私をじっと見たスミカさん。
おかげで、女王様とその周辺の高貴な人たちにまで、私は注目されてしまった。
――どうしよう、どう反応すればいいの? 誰か助けて!
とっさにシェフィーやルフナを頼ろうとする私。
だけど2人は、女王様を前にひざまずき、微動だにしない。
――うう……うう……。
パニックに陥った私は、どうすることもできず、立ちすくむことしかできなかった。
そんな私の手を、ミィアは引っ張る。
ミィアに引っ張られた私は、テラスとリビングの中間地点で棒立ち。
棒立ちする私を見て、高貴な人たちは目を丸くしていた。
「おお! なんて美人な方なんでしょう!」
「彼女も勇者様なのか?」
「勇者様を導く女神様かもしれないわ」
「あれだけお美しい方だ。特別な存在であることは間違いない」
どうやらスミカさんのメイクが、私を大層な人間に仕立て上げている。
――私が女神だなんて、いくらなんでも過大評価だよ。私はただの自宅警備員だよ。
なんて、私は言えない。
黙ったままの私に代わって口を開いたのは、ミィアだった。
「お母様、あの方はカワゴエ=ユラ様です。勇者である移動要塞の
「そういうことでしたか。勇者スミカ様、移動要塞の女王ユラ様、お2人の訪問を歓迎いたします」
あれ? 私の肩書き、すごく大げさになってない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます