第6話 女神様からのメール

「ああああ!」


 電子レンジの中で回るあわあわ魔法石を前にして、思わず大声を出してしまう私。

 私の大声を聞いたスミカさんとシェフィーは、トラコンを抱いたままキッチンにやってくる。


「どっ、どうしたんですか!?」


「がお~?」


「ミィアが、あわあわ魔法石を電子レンジで温めちゃった!」


「ええ!?」


「大変だわ! 早く電子レンジを止めないと! でも、どうやって電子レンジを止めるのかしら!? 水をかければいいのかしら!?」


 パニック状態のスミカさんがコップに水を入れだしたところで、私は電子レンジを止めた。

 そして私は、冷凍食品のチャーハンの袋を取り出し、それをまな板の上に置く。


 まな板の上に置かれた袋は、なぜかまばゆい光を放っていた。

 おそるおそる袋から魔法石を取り出すと、私たちは唖然とする。


「なにこれ。魔法石が金色に輝いてるよ。変な文様が刻み込まれてるよ」


「すごいです! とっても珍しい『ぴかぴか魔法石』ですよ!」


「はへ!? あわあわ魔法石はどこ行ったの!?」


「たぶんですけど、電子レンジという機械のおかげで、あわあわ魔法石が進化したんだと思います! こんなにすごいことが起きるなんて、びっくりです!」


「私もある意味びっくりだよ。もしかして、スキル『すごい電子レンジ』のおかげかな……」


 意味は分からないけど、起きたことは受け入れるしかない。

 珍しい魔法石を手に入れられたのなら、むしろ喜んでもいいぐらい。

 ただ、スミカさんは困り顔。


「ぴかぴか魔法石は、あわあわ魔法石の代わりにはなるのかしら?」


「いえ……残念ながら、別物です……」


「あらまあ、どうしましょう。トラコンさんたちに渡すあわあわ魔法石がなくなっちゃったわ。これじゃあ、クエストは失敗ね」


 たしかにその通り。

 ミィアもしょんぼりとして、私たちに頭を下げていた。


「ごめんなさい! ミィアのせいで、クエストが失敗しちゃって……」


 悲しそうな表情をするミィアだけど、謝らなきゃいけないのは私の方だ。


「ううん、私が魔法石を雑に扱ったのが悪いんだよ。ごめん」


 今度からはきちんと魔法石を扱おうと、私は決意する。

 さて、あわあわ魔法石はなくなってしまった。


「ユラちゃん、これからどうするのかしら?」


「こうなったら、泣いて馬謖を斬るしかないね。クエストは諦めよう」


「だからユラちゃん、その故事の使い方間違ってるわよ」


「それに、ぴかぴか魔法石は珍しい魔法石なんだよね。じゃあ、ぴかぴか魔法石を売ってお金にすれば、食糧難を解決することはできるよ」


 実のところ、ぴかぴか魔法石が手に入った時点で、私たちが困ることはなくなった。

 問題は、あわあわ魔法石がなくなったことで、トラコンたちが困っちゃうこと。

 こればっかりは謝り倒すしかないのかもしれない。


    *


 夜空に浮かぶ、輪っかのついた月。

 トラコンの里では、焚き火を囲んだトラコンたちが果物を食べている。


 そんなトラコンの里の隣で、自宅はひっそりとしていた。


 シェフィーとルフナは、何か夕ご飯になるものはないかと自宅周辺を探索中。

 スミカさんとミィアはキッチンで調味料のチェックをしている。


 私はそそくさと自室に戻り、パソコンを起動した。

 パソコンを起動した直後、メールボックスに見慣れない印がついているのに気づく。

 この赤い印は、新着メールが届いた印だ。


「誰からのメール? まさか、詐欺メールを送りつけるマモノでもいるのかな?」


 不信感を抱きながらも、ほとんど使ったことのないメールボックスを開く。


 新着メールの送り主は『輪廻を管理せし女神』。

 新着メールの題名は『女神による導きと祝福の報らせ』。


 怪しさ満点だけど、同時に私の視界に入ったのは、とあるメールアドレスが書かれたメモだった。

 そのメモは、転移したときに女神様から手渡されたメモ。


「メモに書かれたアドレスと新着メールのアドレス、同じだ。ってことは……」


 うん、間違いない。この怪しさ満点のメールは、女神様からのメールだ。

 今時SNSじゃなくてメールでお知らせって、女神様の何かのこだわりなんだろうか?


「導きと祝福のお報せ、ね」


 なんにせよ、題名を読む限り、私の期待値は上がっていく。

 心をワクワクさせながら、私は女神様からのメールを読んでみた。


『スミカとユラに朗報じゃ。ワシがお主らのためにクレジットカードを作ってやった。これで通販もダウンロード販売もソシャゲ課金も利用できるようになるぞ』


「ええ!?」


『通販で買った物の配達に関してじゃが、それについてはワシの使い魔がなんとかしてくれるじゃろうから、安心するのじゃ。それと、クレジットカードの上限は1ヶ月に50万円じゃからの』


「ご、50万! 女神様太っ腹!」


『50万円使えるからといって、油断するでないぞ。10連ガチャを毎日連続で回せば、50万円なぞあっという間に吹き飛ぶからの』


「むむ、女神様は私の考えてることぐらいはお見通しなんだね……」


『以下にクレジットカードの基本情報を書いておいた。これを有効に使って、勇者としての責務を立派に果たすのじゃ。まあ、そう言ったところで、ユラはのんびり生活のために使い込むんじゃろうがの。では、達者でな』


「女神様、ありがとうございます!」


 モニターを前に頭を下げた私は、思わずガッツポーツ。


 そのままの流れで、さっそく通販サイトを開いた。

 最初にカートに放り込んだのは、新作ゲームのコレクターズエディション。

 異世界転移後に予約がはじまった商品を無事確保した私は一安心。


「よしよし、あとはさっきのクレジットカード情報を入力して――」


 ここで、私はふと思った。

 トラコンたちがあわあわ魔法石を欲しがっていたのは、お祭りで上質な泡を使うから。

 なら、泡立ちのいい上質な石鹸を通販で買えば、あわあわ魔法石がなくても大丈夫なんじゃないか。


「試してみよう」


 私は泡立ちが良いと評判の石鹸を探し、良さげな石鹸をカートに放り込む。

 それからカード情報を入力し、石鹸だけはお急ぎ便にして、購入確定の欄をクリック。

 こうして私は、異世界にいるのに、自宅から通販でゲームと石鹸を購入することに成功した。


 買い物を終えた直後、ミィアが私の部屋にやってくる。


「ユラユラ~! ご飯できたよ~!」


 どうやら今日の夕ご飯も無事に確保できたみたい。

 リビングに行くと、そこには葉っぱやキノコ、木の実を使った野菜炒めとスープが並んでいた。


「おいしそう。この食材、シェフィーとルフナが集めてきたの?」


「いいや、私は何もしていない。ほとんどシェフィーが集めてきたものだ。すごかったんだぞ。シェフィーは食べられる草と食べられない草を完璧に見分けていたんだからなぁ」


「あ、ああ、そう。シェフィーも苦労して生きてきたんだね」


「褒めるか同情するか、どっちかにしてください!」


 なんにせよ、シェフィーの苦労の末のスキルと、スミカさんの料理の腕が合わされば、もう怖いものなし。

 急ごしらえの夕ご飯は、とってもおいしいご飯だった。

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