土の人形と木の人形
佐野心眼
土の人形と木の人形
むかしむかし、緑豊かな大いなる地に、土の人形と木の人形がおりました。土の人形は大地の精霊から、木の人形は森の精霊から魂を吹き込まれたのです。
木の人形のあまりの
「やあ、こんにちは。あなたは木で出来ているんですね。まるで本物の人間のようだ。美しい、実に見事じゃないですか。」
「いえいえ、私なんかそれほど大したものじゃありませんよ。君の方こそ…」
そう言いかけて、木の人形は一瞬言葉が詰まりました。よく見ると土の人形は、長い胴体に短い手足がくっ付いていて、顔の真ん中には小さな鼻がチョコンとありましたが、目と口は穴が空いているだけだったのです。
「き、君の方こそ、個性的というか…、
「僕の方こそ、あなたと一緒にいると、なんだか自分も立派になったような気がするよ。僕達、気が合いそうだね。」
こうして、二人は毎日毎日一緒に遊ぶうちに、お互いに無くてはならない存在になりました。
しかし、土の人形が毎日毎日木の人形をうらやましがったり
ある日、二人は川で遊ぶことにしました。木の人形はプカプカと水に浮かぶものですから、スイスイと楽しそうに泳ぎまわっていました。ところが土の人形は土で出来ているものですから、ちょっと水に触れると、その水が体に染み込んできてしまい、ドロドロに
「木の人形さん、木の人形さん、どうやら僕は泳げないよ。このままだと体が溶けてしまいそうだ。僕は岸辺で体を乾かしながら、あなたの達者な泳ぎを
「それはそれはお気の毒に。泳ぐことはこんなにも楽しくて気持ちがいいのに、それが出来ないとは、なんと
「いいなぁ、うらやましいなぁ。僕も木の人形になりたいなぁ。」
「そうでしょう、そうでしょう。私は土の人形じゃなくて本当に良かった。きっと私はこのままの形で何百年も過ごすことでしょう。」
土の人形は、木の人形に何を言われても、悪く思いませんでした。木の人形に捨てられてしまうと、自分に価値がなくなってしまうような気がしたからです。
木の人形は木の人形で、土の人形がいなくなると困ってしまうのでした。自慢できる相手がいなくなり、自分の価値が分からなくなってしまうからでした。
二人とも、孤独に
そんなある夜、二人の人形の住む森に、突然雷が広い
「今まで楽しく暮らしていたのに、僕達、どうなるのかな?」
「そんなこと、私にも分からないよ。」
「僕達、何も悪いことしてないよね?
「とにかく岩陰に隠れて、雷が当たらないように祈ろう。」
そして、二人が命乞いのために神様に祈りを捧げていたときのことです。二人の目の前がパッと真っ白になって何も見えなくなりました。それと同時に、ダイナマイトが
「ど、どうやら、雷の直撃は
「うん、祈りが通じたみたいだね。私達には運がある。」
「そうだよ、最後まであきらめるもんか!」
しかし、雷に打たれた多くの大木は、数百トンもの大きなハンマーで叩かれたように砕け散って、あちこちに火の種をまきました。小さかった火はどんどんと広大な森に燃え広がり、気が付いた時には、いたる所に炎、炎、炎。もはや二人の人形の逃げ道はありませんでした。
「こうなったら、もうだめだ。僕が木の人形さんを守るから、僕の後ろに隠れてよ。」
「土の人形さん、ありがとう。でも、私が君の後ろに隠れたとしても、結局燃えてしまうでしょう。何しろ私は燃えやすい木で出来ているからね。私は、今度生まれてくるとすれば、君のような土に生まれたいと心から願うよ。」
やがて森は、火炎の地獄となって二人の人形を取り囲み、人形もろとも焼き尽くし、百日間も燃え続けました。
それから何万回星座が夜空を巡ったことでしょう。かつて広大な森であった所は平原になっていました。
ある日、その平原に一人の農夫が訪れました。
「いや〜、これは素晴らしい土地だなぁ。俺はここに住んで、畑でも耕すとしよう。きっと実りの豊かな土地になるに違いない。」
農夫はまず小屋を建てて、それから周囲の土地を耕し始めました。しばらく耕していると、
何だろうと思って固いものを掘り起こしてみると、カチンカチンに固まった土の人形が、そのままの形で出てきました。
「あれ?これは焼物でできた人形じゃないか!何千年も前にこの土地のご先祖様が作った有難い人形に違いない。豊作を祈ってこの人形をこの土地の神様にしよう。」
土の人形はこの小屋の神棚に大切に飾られ、この土地の守り神となりました。
木の人形は燃えてすっかり灰になり、やがて黒い土になっていました。
土の人形と木の人形 佐野心眼 @shingan-sano
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