第002和
重力からの解放を高らかに謳う蒼い大空に、何処までも果てしなく落ちて行きそうだ。
しかし大地に広がる森林地帯は、深緑の魔境としてそれを許す事はないのだろう。
大空と大地が出会う太古の大自然が今も息づく此処は妖精霊王国である。
かつて妖精霊王国は、
地図上において妖精霊王国は、巨大国家であるアークシール超帝国の領土内に存在しているはずなのだが、王国を統治する精霊王によって施された強固な結界により、一部の例外と元々王国に生きる種族を除き外界からの侵入を許さない、隔絶された異空間に存在している。
そのような特殊な環境下にある妖精霊王国だが、決して閉鎖的な国家などではなく、アークシール超帝国を始めとする様々な国々との貿易は盛んに執り行われていた。
特に妖精霊王国で生産された優れた武具は、他では並ぶ事など出来ない最高級品として世界中で広く認知されているのである。
妖精霊王国で領土の大半を占める深緑の魔境とも呼ばれる森林地帯には、大地の隆起によって突出し草原地帯となって広がる場所が多くある。
草原地帯の中でも一際高く、望む方角によっては独立峰や連峰のような山岳だと思えてしまう程の、さながら緑の巨壁だと錯覚してしまう草原地帯が久遠の丘である。
その久遠の丘を一台の二輪荷車が、怒鳴り声と機械の声に押されながら、亀の歩みの如くゆっくりゆっくりと頂を目指し登って行くのである。
「どうしたぁ、こんにょヤローのプリオちゃん! ペースが格段に落ちてるぞっ!」
「っはい! ぐっそぉー、ごんな坂道に、ばけてたまるかぁー!」
「ギギギィギィ!」
「今回の依頼は重要のっぴきだぞ! 失敗は絶対に許されないからな!」
「せ、精霊王陛下からの依頼っすもんね。くぁ、くわならずやり遂げてみせます!」
「よぉーし、死ぬ気で引けぇー!!」
「ギッギギギィー!」
荷車の後ろから轟く爆撃のような大声と、シートで覆われ積まれている荷物の上から発せられる機械の声が、砕けてしまうのではないかと思う程に歯を食い縛り荷車を引き続ける少年、プリオ・ボルンタを激しく鼓舞していた。
プリオの全身から止めどなく吹き出し流れる大きな汗の粒が、筋肉で盛り上がる赤銅色の肌を一層輝かせている。
少年らしく少し幼さの残る顔をしたプリオの身長は一七〇センチに満たないものの、筋肉隆々だが体の線は程良く整い、山吹色をした髪が耳に掛からない短髪といった容姿であった。
プリオ・ボルンタは人種族の中でも圧倒的な人口を誇る
荷車にはプリオ以外にもこれまた珍しい種族である
中心に黄金が埋め込まれた直径が十五センチ程の薄墨色を基調とした球体に手足を生やしたギギの体は、よく見れば金属であり様々な形状や大きさの歯車など各部品が複雑に噛み合って出来ている。
このマキナという複雑な機構で成り立っている種族は、この世界において最も新しい種族として認知されている機械生命体であるのだが、その誕生の経緯に至っては非常に謎多き種族なのであった。
久遠の丘の坂道で必死に荷車を引くプリオの全身の筋肉が、余りにも大きな負荷によって千切れてしまうのではないかと悲鳴を上げていたが、その悲鳴に呼応するかのようにして、何度も何度もガツンという衝撃と共に荷車は後ろから突き上げられている。
「こんな働きじゃ、プリオちゃんの代わりに抜けたリナーラちゃんに笑われるぞぉ!」
「ギギッギッギ!」
「ぐっがんばりまっす!」
「この任務に失敗でもしてみろぉ・・・ その時は、あたしがブッ殺すぞー!」
「ばぁい! 大将軍がっかー!」
懸命に荷車を引くプリオを爆撃のような大声で鼓舞し、荷車の後ろから頭突きという手段で押して助けていたのは、身長が一〇〇センチにも遠く満たない奇妙な生物であった。
プリオから大将軍閣下などと呼ばれる奇妙な生物は、自らの身分を意識しているのか、よく見れば高価な品だと分かる一枚のマントを羽織っている。
しかしマントの有様は大変に酷く、あちらこちらが破れほつれた無惨な状態であった。
この大将軍という奇妙な生物は、その容姿からしてプリオやギギとはまた違った種族である事は一目瞭然である。
世界のどのような種族にも当てはまらない、この薄汚れた白い寸胴体型の生物は、誰も反論しなければきっと魔物の類いに分類されてしまう事だろう。
七色の虹彩がギラ付く大きな目や、何にでも噛み付きそうな巨大な口、そして余りにも短い手足は特徴的ではあるが、将軍の容姿の中で最大の特徴だと言えるのは、頭部に雄大に生え太陽の光を浴びて虹色に煌めく角である。
ゴツゴツと角張った三本の角は先端が平らであり、荷車を押す為にまるで意図されているかのような形状であった。
余程の重量物を積む荷車と共に、久遠の丘を騒がしくも懸命に登って行く不思議な組み合わせの三人は、いつものように今日も全力で生きている。
世界が彼等を知らずとも、彼等らが世界を知らずとも、世界は彼等の組織である
〈 オテント隊 〉を無視する事など決して出来ないのであった。
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