第50話 転生前準備

計画通りに下界からラソンに連れだってロザリーが転移してきた場所。

そこは真っ白な空間だった。

そして真っ白な机に真っ白な椅子。

飲み物らしき入れ物と小さな容器も真っ白だ。


「どうぞ、掛けてください」


ラソンに指示されて腰かけるロザリー。

丸い机を挟んで正面に腰かけているラソン。

ロザリーは一体どうなるのか緊張で一杯だった。


「あなたをここに連れて来たのは、これから始まる分岐点の説明と、罰を与える事です」


「えっ!」


罰を与える。

そう耳にしたロザリーは高速思考で罰となる原因を探していた。

しかし、龍人が罰を与えるような事を行なった記憶が無く、教会にも寄付をしているのに意味が解らず「何故ですか?」と思わず声が出てしまった。


「あなたが過去に行なった行動が元で世界が大変な事になりました」


「ええっ!!」

口を押えて驚くロザリー。


「ですが、あなたのおかげで”この世界”が存在する事も事実なの」


「???」

ラソンの発する言葉の意味が理解出来ないロザリーだ。


「それでね、まぁゆっくりと語り合いましょう」

そう言ってラソンは飲み物を容器に注いだ。

それはロザリーもたしなむ葡萄酒と同じ色の飲み物だった。


「ではどうぞ」

ラソンに進められるが一向に飲もうとしないロザリー。


「あら、毒など入っていないわよ。・・・じゃ、わたくしから飲むわね」

そう言ってグイグイ一息で飲み干したラソン。

「あぁ、美味しいわぁ」


そこまでされて飲まないと失礼に当たるので、グラスに口を当てると芳醇な香りが鼻孔を刺激した。

一口、口に含むと過去に飲んだ事の無い深い味わいが口の中に広がり、一気に飲んでしまったロザリー。


「プハァ。おっしゃる通りとても美味しいですね」


その言葉を聞くと二杯目を注ぎ始めたラソン。

そして二杯が三杯、四杯、五杯とラソンとロリの事などを話しながら飲み続けるロザリー。

(この子、結構飲むわねぇ)


数杯で”もう飲めませーん”と言わせる程の特別な葡萄酒だが、”ラソンの計画”が遅れそうだった。

2人の話しはエアハルトの加護から始まり、ロリや教会の話しにラソンが誘導して行った。

だが流石に八杯になるとロザリーの瞼が重いらしく、ふらつき出していた。


「あらあら、酔ったの? 少し横になりましょうか?」

ラソンが用意したのはゴロゴロと動かせる小さなベッドだった。


「さぁ、これを飲んで少し横になりなさい。楽になるわよ」

「ありがとうございますラソン様」

そう言って冷たい水を飲みほしたロザリーは横になった途端、深い眠りに着いてしまった。

勿論ただの水ではない。

先ほどの葡萄酒も強力な眠り薬が入ったものだ。

水も精神を安定さる効果のあるものだ


「全く、何杯飲んだかしら。二杯も飲めばこうなるはずだったのに・・・」

そう言ってしもべがロザリーの乗る台車を押しながら別の部屋に向かう光景を見届けるラソンだった。



熟睡しているロザリーが運ばれてきたのは、テネブリスとアルブマが密かにしもべを使って研究させていた施設だ。

ロザリーを担当する僕は全てテネブリスの眷属で構成されている。

勿論テネブリスからの強い要望が有っての事だ


小部屋の奥には様々な魔導機械が並べられていて、眠るロザリーは奥へと運ばれていった。

奥では既に準備が整い、検体を待つばかりだった。


ロザリーが所定の場所に配置された。

そこに並ぶのは”三体のロザリー”だ。

横に並ぶ二体は事前に用意したものだ。

具体的にはラソンが用意したロザリーの遺伝子情報を使い”作成された”二体のロザリーだ。

その二体には魂が無く、これから本体から分割された魂を定着させ、記憶を複製させるのだ。


ロザリーの本体は筒状の容器に入れられ、頭に金属の帽子の様な物を装着された。

「それでは霊魂の分割を始めると同時に、分離した霊魂を移動させ素体への定着を開始します」

僕の一人が宣言すると、別の僕が操作した。

ウィィィッンと音がすると、容器が発光を始めた。

数人の僕が見守る中、三体のロザリーが発光し作業が進んでいった。



作業が終わり三人の僕が、それぞれロザリーが乗る台車を運んで行った。

三つの台車はそれぞれ別の場所へ運ばれていった。

一台はラソンに引き渡された場所に戻っていった。




「・・・リーさん、・・・ザリーさん、ロザリーさん大丈夫ですか?」


「・・・は、はい」


自分が酒精に酔って、寝てしまった事を瞬時に理解して謝罪するロザリー。

「すみません。私、酔ってしまったみたいで・・・」


「良いのよ。それよりこれを飲んで話の続きをしましょう」

渡されたのは冷たい水だった。

酔っぱらいには有り難く、一気に飲み干すロザリー。

当然だか、ただの水ではなく魂魄を定着させる魔法的効果のある水だ。


「では、ロザリーさん。これから話す事は”我ら龍人”と”あなた”と、”もう1人”しか知らない事ですから、決して他言してはいけませんよ」

真剣な顔で話すラソンに頷くロザリー。


「昔、あなたが嫉妬に狂って1人の少女を誘拐しましたね」


その言葉を聞いて硬直するロザリー。

(嘘っ!! なんで? どうしてラソン様が知っているのぉ?)

全身から溢れだす冷や汗を自覚し、ゆっくりと頷くロザリー。


「その少女は、わたくし達の元に居ます」

うつむいていたロザリーがバッと顔を上げてラソンを見る。


「ロザリーさん、あなたはその少女をエルヴィーノさんの正式な第二夫人だと他の者達に認めさせなさい」

自らの過ちを知っている龍人たるラソンにあがなうすべも無く、ただただ頷くロザリーだった。


「ロザリーさん。その少女はあなたを許すそうよ」

その言葉が耳から入り、意味を理解すると涙が止めども無く溢れだすロザリー。


「ですけどね、あれから随分と時が経っているわ。何の処罰も無しでは”他の龍人”が納得しないのよ」

フィドキアの事だ。


「・・・はい。如何なる罰もお受けします」

「そう、良かったわ。わたくしたちの出したロザリーさんへの罰は・・・」

心臓が飛び出しそうな位激しく鼓動するロザリー。

「第二夫人に絶対服従です」

「・・・それは死ねと言われたら・・・」

「安心して。そんな事を言う子では無いわ」


不安げなロザリーの表情にラソンが告げる。

「最初に言ったでしょ? 第二夫人を認めさせる事。まぁエルヴィーノさんの専有時間を強く望まれるのは仕方ないでしょうね」


「あなたが恐れているような事は無いはずですよ。ご婦人たちと楽しく過ごす事を臨まれているようですしね」

「本当に?」

「疑うのであれば、本人に聞いて見るのが一番では?」

「ええっ本人が居るのですか?」

「勿論よ。わたくしの説明が終わるのを待っていますもの」


一気に動悸が激しくなるロザリー。

挙動不審のように辺りを見回している。

「じゃ準備は良いかしら? 呼びますよ」

「えっちょっと待ってください。まだ心の準備が・・・」

「あら、もう遅いわ。直ぐに来るって」

「ええぇぇっ」


手に汗を握り緊張するロザリー。

奥の扉が開くと、次々に人が入って来る。

その人達は左右に2人づつ別れて並び、出迎えの準備が出来たようだった。

コツッ、コツッ、コツッと歩く音がロザリーの耳を刺激する。

すると入口に立つ1人の少女が居た。

漆黒の長い髪を持ち、吸い込まれそうな黒い瞳の少女は、恐怖と可憐が同居するかの様な表情の可愛い女性だった。


ロザリーの前に立つ少女。

「初めましてですね。わたくしは・・・メルヴィ。あなたの嫉妬で”飛ばされた”メルヴィです」


邂逅一番、嫌味ったらしく言葉を叩きつけるメルヴィ。

「本当にごめんなさい」

直角に腰を折り謝罪するロザリー。

「ロザリーさん、”わたくしは”許すと聞いたでしょ?」

「はい。でも・・・」

「勿論条件が二つあるわ。でも簡単でしょ?」

「は、はい・・・」

「もう聞いたと思うけど無理にとは言わないわ。否定しても構わないのよ。ただし、その場合はエルヴィーノと一族関係者に、あなたがした事を言うけどね」


メルヴィの条件とはラソンの説明にあった第二夫人だと認めさせる事と、絶対服従だ。


脅されていると自覚するが、自らの過ちなので真摯に受け止めるロザリー。

「いいえ、寛大な処罰で感謝します」


あの時とは自分の環境も違い、関係者も多くなり、”あの人”の子供達も多くなって、エアハルトが唯一心を開いている弟の母親を、自分も解らない遠くの場所に飛ばした罪を受け入れる覚悟が、”今”出来たロザリーだ。


「そう、良かったわ。あなたが理解あるエルフで」

ロザリーの両手を取り硬く握手する2人。

その光景を見て手を叩く龍人達だった。

「じゃ、お互いに理解しあった事ですし、行きましょうか?」

そう言って入って来た扉に向うメルヴィと龍人達。

「あのぉ、ラソン様」

「何かしら?」

「どちらに向うのでしょうか?」


ニッコリと微笑んで答えるラソン。

「エルヴィーノさん達が待つ部屋よ」

「えええっ! そんなぁ」

「安心して。あなたの秘密は私達しか知らない事よ。大丈夫、わたくし達に合わせた方があなたの為よ」

一抹の不安も有るが、既に足は部屋の外へと向かっていた。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



時間はさかのぼり別の場所ではコラソン、フィドキア、ラソン、カマラダ、バレンティア、インスティント、エルヴィーノ、ロリ、パウリナ、シーラの10人は試練の場所から転移して移動していた。

そこは真っ白な空間で、真っ白な円卓に真っ白な椅子。

飲み物らしき入れ物と小さな容器も真っ白だった。

そして男衆が座ろうとすると、静かに行動する者達が居た。


「ラソン様、私がお注ぎしますので座っていてください」

「良いのです。わたくしがしたいのですから」


「インスティント様、わたしが用意しますのでお座りください」

「わたしが入れてあげるわよ」


「「大丈夫です。私がお入れします」」

女性たちが飲み物を入れる、入れないと押し問答をしているとパウリナがフィドキアの容器に飲み物を注いだ。


「「・・・」」

女性型の龍人には”目的”が有ったがパウリナにその役目を奪われてしまう。


((パウリナ、良くやったわ))

(うん)


ロリとシーラが念話で褒めている最中、数人の龍人もパウリナ達を評価していた。

(ふぅむ、誰か内部事情を教えたのかなぁ)とコラソンも不思議がっていた。

2人の龍人は諦めて自分の席に腰かけた。


全員に飲み物が行き渡ると、コラソンが代表して述べる。

「では、シーラさんの試練達成を祝して乾杯」

エルヴイーノ達はその葡萄酒の旨さに驚き、一息で飲み干していた。


「この酒、凄く美味しいな」

「今までで一番美味しいかも」

エルヴィーノとロリが絶賛するとシーラとパウリナも頷いている。


「さあさあ、いくらでも飲んでくれ」

「本当に我がゴーレム達と良く戦ったものだ」

何故かカマラダとバレンティアが率先して葡萄酒を注いで回る。


「ええっ、あのゴーレムはあなたが?」

シーラが驚いて聞いた。


「そうですよ。”インス”に頼まれてねぇ、あなたの能力に近づけたのですがあっさりと倒されましたね」

照れるシーラだ。


「パウリナも良く頑張ったぞ」

カマラダに褒められて嬉しそうなパウリナ。


葡萄酒は三杯目に入った段階で妻達に睡魔が襲い始めていた。


「オイ、酔ったのか?」

ロリとシーラがエルヴィーノにもたれかかって来た。

向こうには円卓に頭を乗せて寝ているパウリナが見えた。


「すまない。折角、宴を用意してくれたのに・・・多分疲れていたんだと思うが・・・」

「良いのですよ、モンドリアンさん。あなたも疲れているでしょうし、一緒に休むと良いでしょう」


コラソンの計らいで酔った妻達と一緒に別室で休む事となったエルヴィーノだ。

「では、皆さん」

「「「「「ハッ」」」」」

コラソンの指示の元、エルヴィーノ達を魔法で浮遊させて連れて行く龍人達。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



監視対象者であるエルヴィーノ達が運ばれた場所は、先にロザリーが連れ込まれた場所だ。

監視対象者はテネブリスの僕が担当し、他の者達はアルブマの僕が担当する。


それぞれが個室に運ばれると、二つの大きな容器が有った。

一つは殻の容器で、もう一つには運ばれた者達の複製体が入っていた。



一方の監視対象者の部屋には容器が”四つ”有った。

間仕切りで奥の二つは隠してあるが、装置は繋がっている。

本体以外に三つも複製体を作るテネブリスだ。

一体は下界に戻す用。

一体は転生用。

一体は一応、予備だ。

本体は性奴隷用だ。



そしてロザリーと同様の作業が始まった。

魂の分割と記憶の複製だ。



※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez



「皆さん、起きてください」

エルヴィーノ、ロリ、パウリナ、シーラが龍人達によって眠りから覚まされる。


「あれっ私寝ちゃったの?」

「なんか身体がダルイ・・・」

「夢を見ていた気がするけど・・・」

妻達が思い思いの言葉で心境を教えてくれた。


美味しい葡萄酒で酔ってしまい、妻達が先に寝てしまって追いかける様に眠気に身をゆだねた記憶が残っているエルヴィーノだ。


「ここは・・・」

「目が覚ましたか?」

「ああ、ちょっと頭痛がするけど」

「美味しいから、立て続けに何杯も飲んだからでしょう。あの葡萄酒は結構酒精が強いですからねぇ」


今さらだがコラソンが酒精の度数が高い事を教えてくれた。

(最初に言ってくれれば良いものを・・・)



「では、皆さん。先程の続きをしましょうか」

「ええっと、シーラのお祝い?」

「そうです。今回はシーラさんの為に”特別にある方”を呼んであります。それでは入って頂きましょう。どおぉぉぞぉぉぉぉ!」


調子の乗るコラソンが扉に手を向けると、その扉から1人の人物が現れた。





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