第47話 わがままと憂鬱
アルモニア教発祥の地にラソンの像が欲しいと時の教祖からの依頼を監視対象者が伝達して本人に伝えることとなった。
しかし・・・
「私は嫌よ、あんな大きいのフィドキアじゃあるまいし」
それは、つい先日龍人達が全員で力を寄せ合って作った城の背後を利用した巨大な彫像を思い浮かべたラソンだった。
「俺もね、ちょっとどうかなって思ったんだよ」
監視対象者が同意すると、無口な黒いフィドキアが話しかけてきた。
「では等身大で良いだろう。人型と小型の成龍を作ってやれば丸く収まる」
「それだっ」
煩わしいのでフィドキアが人族の為に妥協案を提案した。
監視対象者にラソンも驚いている。
「で、でも」
モジモジして決心しないラソンを無視してバレンティアを呼び出しているフィドキアだ。
転移してきたバレンティアに説明する。
「解かりました。その位簡単ですよ」
どこからとも無く出した大きな石に手を当てると、サラサラと回りが崩れて現れたのはラソンらしき石像だった。
「さぁ出来たよ」
パパッと終わらせたバレンティアに文句を言うラソンだ。
「何よ、これ! 全然似て無いじゃない!」
「「ええっ」」
監視対象者とバレンティアは思わず声が出た。
「やり直しよ」
ラソンの指示通り、別の石を出して作り直す。
「だから全然似て無いって言っているでしょ。私の事を何だと思っているの!?」
明らかに焦っているバレンティアは、じっくりとラソンを見て再度作り直す。
「多少似ているけど表情がダメ! 全然可愛く無い」
バレンティアが困った顔で監視対象者を見るので助けに入る。
「えぇっと、ラソンの気に入った表情とポーズを取ってバレンティアに見せた方が良いと思うよ」
するとラソンは、どこからか出してきた姿見の鏡の前でいろんな恰好をしだした。
「これよ。これで作って」
「顔は?」
ニコッとするラソン。
真剣に眺めるバレンティアが石を出して作った。
「ん~、他のも作ってよ」
何が気に入らないのか解らないが監視対象者とバレンティアはラソンの指示に従った。
都合により監視対象者が戻った後もラソンの納得のいく物はできずバレンティアの苛立ちは積もっていった。
「もういい加減にしてくれよ姉さん!!」
微妙な変化を何度も続けて作り直す工程が、我慢の限度を超えてしまったようだ。
しかし・・・
「何っバレンティアッ、私に何か文句があるのかしらっ!!」
怒りを露わにしてしたバレンティアに逆切れして詰め寄るラソンだ。
「だ、だって姉ちゃん・・・作りすぎじゃないかなぁ・・・」
「貴男が満足する物を作らないからでしょ!!」
「でももう三桁は作ったから、どれか選ぼうよ」
「そう、貴男は不完全で美しくない”わたくしの像”を下界に置いて眷属に拝ませろというのね」
「ち、違うよ姉ちゃん」
「何が違うのよ、小さいころ貴男の面倒を見てたのは誰だったか忘れたのかしら!?」
「そんなぁ・・・子供のころを引き合いに出されても」
「良いわ。もう貴男には頼みません。その代わり今後一切・・・」
「ごめん姉ちゃん。言う通りにするから・・・」
体は大きいが末弟のバレンティアは”二人の姉”が苦手だった。
一言文句を言えば、十倍いや、百倍になって帰ってくるからだ。
その点二人の兄はやさしかった。
論理的に話す面倒な兄と無口な兄は、力を貸してくれる場合が多いからだ。
しょんぼりとしたバレンティアは駄目だしされた石像を整理しては作成の繰り返しを続ける事となる。
夜通し続く作成で転移場所までラソンの石像が沢山並んでいる。
すでに忍耐の限度に近づいたバレンティアは奥の手を使った。
(兄さん、黙ってないで助けてください。お願いします!!)
(しばし待て)
すると監視対象者が現れた。
失敗作の数とバレンティアの表情でその場の雰囲気を理解した。
「一度、紅茶休憩しない? バレンティアも石の補充も有るだろうし、ロリも連れて来るから選んでもらおうよ。あっお土産買って来るから一緒に食べようか」
現状を打破しようとラソンが好きな事を並べてみた。
「そうねぇ、お願いしようかしらぁ~」
監視対象者はバレンティアの耳元で”もう少し待ってて”と伝えペンタガラマに転移した。
ラソンの眷属であるロリに説明し、肉串を買い集め2人で転移すると驚いた。
「ええっ!」
転移室の中にまでラソン像が置いてあり驚くロリを黒い毛布に乗せて一緒に宙を漂いゆっくりと進む。
「凄い数。これ全部失敗作なの?」
「多分ね。どこが気に入らないのか解らないけどさ」
「かなりの出来栄えだけど?」
「だろ? だからバレンティアに悪くてさ」
実物を見る限りどこがダメなのか解らない2人だった。
監視室まで行くと紅茶を飲んでいるフィドキアとバレンティア。
そして相変わらず鏡の前にいるラソンだ。
「あら、ロリ。来てくれたの?」
「はい、ラソン様が決めかねているポーズのお手伝いに来ました」
「助かるわ、やはり女性の意見の方が重要よね」
「お疲れ様。今皿を持ってくるから待ってて」
「やっと来たか」
バレンティアに一声かけて用意する。
ラソンとロリは何やら話し込んでいるので、皿を取りに行き”バレンティアの為”に紅茶を入れて串を出した。
「どうぞ、食べてください」
いつもの様に食べる姿を見ているとフィドキアも手が伸びて来た。
「結局、ラソンは何が気に入らなかったの?」
ロリに言わせると”表情の豊かさや、微妙な角度など”だ。
監視対象者とバレンティアは黙ったまま考え込んでいた。
妥協案として、作った石像でラソンが気に入った部分を切り取り、のちほど合体させる方法をとる。
合体と言っても新しく作るのだが、まずはラソンとロリの好きにさせて見た。
2人の隣で気に入った部分をバレンティアが切り取り、監視対象者が整理していく。
残った部分は分解してバレンティアに吸収されていった。
全てを分けるのにかなり時間が掛ったが、そこから更に選別して一体分の部位にするまで一日かかり、最終的に作ってから更に微調整した。
その微調整の回数は5回。
ロリに進められ、
「素敵! 気品があります」
「あぁ、とても上品で素晴らしい出来栄えだ」
ロリと監視対象者が何度も褒め称える事で何とかラソンに納得して頂いた。
実際にその通りだから問題無いのだが、フィドキアが余計な事を言ってくれた。
「次は成龍の石像だな。頑張れよ」
監視対象者はグッと拳を作って我慢したが、視界に入ったバレンティアの手も硬く握られていた。
監視対象者はすかさずバレンティアの弁護をした。
「とりあえず教祖様の要望は石像としか言われてないのでコレを見せて来るよ。成龍状態であればペンタガラマにある像を小さくするのは簡単だろ?」
「そっ、そうだね」
バレンティアは監視対象者の手を取り、硬い握手をしてくれた。
思惑が解ったのだろう。
花の台座に何やら文字が入っているが読めないので聞いてみた。
「これは何て書いてあるの?」
「それはね、理性を司る龍人ラソンって書いてあるの」
「へぇ、だからラソン様って知的に見えたのね」
ご本人からの説明を頂くと感心していたロリだった。
「バレンティアさん! お願いが有るのですが」
「何でしょうか? サンクタ・フェミナ」
龍人からもその呼び名で呼ばれた事に驚いたが思いを告げるロリ。
「この素晴らしいラソン様の像の小さい石像を作っては頂け無いでしょうか?」
手を差し出した高さは約30cm程だった。
「構わないが、細部は荒くなりますよ」
「そんな小さい物をどうするのロリ」
ラソンの問いかけに答えるロリ。
「ハイ、私の部屋でいつも見ていたいのです」
やれやれと言った表情の三人だが釘をさすラソンだ。
「バレンティア、解っていますね!?」
うなずいて小さな石を取り出し集中すると、周りが砂になって中から台座付の小さなラソン像が出て来た。
「キャー可愛い!」
嬉しがるロリにラソンが小さな像に手を
すると、石像がぼんやりと発光しているかのようになった。
「ラソン様、これは?」
「私の魔素を染み込ませたの」
「それは、どんな効果が有るのですか?」
「強い思念で信じる者に、何かしらの効果が出るわ」
いずれ自分の小さなラソン像も母達に見つかる可能性があるので、等身大石像にも同じ仕様にお願いするロリ。
「等身大の方はして頂け無いのでしょうか?」
「仕方が無いわねぇ」
同様に両手を翳して集中するラソン。
「出来たわよ。どちらも強い思念で祈らなければダメよ。また、どんな効果が出るかは解らないわ」
「ありがとうございます。ラソン様」
【在りし日のコラソンとフィドキアの会話】
コラソンとフィドキアの二人が監視対象者の
「父上、セルビエンテ族はあれで良かったのですか?」
「当時我らが放置したままの種族を導いてくれたのだからモンドリアンさんには感謝すべきだろう」
「は、ですが種族名まで変えるとは・・・」
「そう言うな、彼女たちにしてみれば最善の方法だったよ」
「父上がそのように仰るのなら・・・」
「しかし、我も物忘れが始まったかな?」
「まさか、あの程度の材料名など誰も覚えていないでしょう」
「記憶には自信が有ったのだが・・・」
「父上は復活されてから、まだ日が浅いので余り気にされない方がよろしいかと」
「まぁそうだが、彼には又浮気させてしまったからなぁ」
「それは父上とは関係なく本人が望んだ行為なので問題ありません」
「そう言うな。我が間違わなければ彼が出向くことは無く、今後起きるであろう”我が神の制裁”を受けずに済んだのだからな」
「父上、それもあの者の宿命ではないでしょうか?」
「ふむ・・・」
「そう言えば、また面白い魔法を開発したようですな」
「ふむ、本当にモンドリアンさんは魔法開発の才能が有る。あれらの肉体操作系魔法は第二ビダのテンプスに伝わっているか?」
「は、全て提供し更なる効果を研究させています」
「よし、彼の言う究極の魔法と、至高の魔法もだな?」
「はっ」
「若返りの魔法陣も面白い。三属性混合魔法陣か。記憶を留めて肉体の時間遡行とはな」
「は、我らには必要ないですが、人族や下界の者達にしてみれば神の領域に至る魔法かと」
「ふむ、本人に自覚は有るのか?」
「周りの者が諫めているようですし、極秘扱いになっています」
「ならば良し」
「とうとうインスの管理下に入ったか・・・」
「今回は本人の意思では無く、召喚されたようですが」
「インスがかかわっている可能性は?」
「無いと思われますが・・・」
「ククククッ・・・大魔王とはな」
「全く何を考えているのやら」
「あれはお前とインスの子孫であろうに」
「は、クエルノ族はインスに任せていたので詳細までは把握しておりません」
「構わんよ」
「しかし魔眼の魅力と、我が魔導具の魅力の対決とは面白い勝負が見られそうだな」
「ですが魔眼使いの魅力と父上の魔導具では話になりますまい」
「そう言うな、あの娘がどれだけ強い魔眼使いか見ものだという事だ」
「は、全くです」
「まだインスの介入は無さそうだな」
「はい、ですが時間の問題かと」
「ふむ、様子を見るか」
「父上、インスが動きました」
「何ぃ、どこに向かった」
「ノタルム国の王城です」
「ちょうど祝賀会をしている所だな」
「あんな風に表れては誤解を招くだろうに」
「父上モンドリアンに指示を」
「ふむ」
(モンドリアンさん、聞こえますか!)
(あ、コラソン? どうした、今大変なんだけど)
(その大変な原因について助言しますよ)
(ええっアレが何だか知ってんの?)
(勿論です。今その場所に現れたのは龍人の1人で、名をインスティントと言います)
(ええええっ何で龍人が今更)
(とにかく、面倒事にならない様にお願いしますね)
(聞こえていますわよ、コラソン様)
(それに初めましてモンドリアンさん)
(はあ、初めまして)
エルヴィーノとシーラまでは大分距離が有るが
(私は龍人のインスティントと申します。今回お二人の婚約祝いに駆けつけたのよ)
(ど、どうしてまた)
(ふふ、シーラはね、私の遠い子孫だから)
「ええええっ!」
思わず口に出して驚いたエルヴィーノ。
「どうしたの?」
シーラが驚いて聞いて来た。
「あ、後で説明する」
(シーラに何か挨拶でもするのか?)
(そうね、簡単な挨拶と贈り物よ)
(贈り物?)
(ええ、あなたも良く知っているでしょ龍人の腕輪)
(そ、そんな物をシーラに!?)
(ええ、とりあえずね)
(とりあえずって何だよ)
(後、シーラ用のアルマドゥラと、他の事も考えて有るわ)
(もしかして、まさかっ)
(ふふふっ、私を召喚する事も可能よ)
段々と近づいて来る女性を取り押さえようとする兵士達に命令した。
「待て! その者は俺達の客人だ。無礼は許さん」
(あら、ありがとうモンドリアンさん)
遠めだが睨みつけるエルヴイーノ。
(・・・何故そこまでシーラに良くするんだ?)
(教えたでしょ。遠い血族だから・・・後、あの女だけにこれ以上良い所を見せられないわ)
(ええっとインスティントさん? あの女とは?)
(考えるだけでも腹立たしいわ、あの女)
(いや、誰か解らないし)
(あの白い龍よ)
(あ、ラソンの事?)
(そうよ)
何故ラソンを嫌いなのか知らないがコラソンの忠告を思い出した。
(そ、そうか。シーラに対して祝ってくれるなら俺も歓迎しよう)
その後インスの要望でフィドキアとの食事会の段取りをする事となった。
Epílogo
もう姉たちの石像は作らないと心に誓うバレンティアと、裏で飛び回るコラソン。
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