第46話 友情

ある時テネブリスに呼び出された直系眷族達。


ベルム、ロサ、テンプス、フィドキア、アルセ・ティロがテネブリスの前に跪いている。


「集まってもらったのは重要な命令が有るからなの」

全員の顔を見て話しだすテネブリス。

「命令と言っても、私の我が儘かもしれないけど、どうしてもやって欲しい事なの」


すると眷族が順番に申し出た。

「お母様の我が儘何ていくらでも聞き入れますわ」

「沢山の我が儘を仰せ下さい、我が神よ」

「我らが神の御言葉こそ全てです」

「何なりとご命令を、我が神よ」

「我が力の全てを我が神の為に捧げます」


「ありがとう、本当にあなた達に感謝するわ」

その言葉の意味を実感する眷族達。

“今、この場に存在する事”がどれだけたされているのかを身を持って実感しているからだ。


「では、フィドキア。貴男には我が”前世の息子”の側で守護しなさい」

「ハッ」

「下界での任務はロサが定期的に訪れる事でヴィオレタに指示しなさい」

「ハッ」

「国内の事はロサの愛情を持って貴男の妻達全員に協力してもらいなさい」

「ハッ」

「国内でロサが不在の時は眷族が助力しなさい」

「「「ハイ」」」


「フィドキアには更に身体を小さくして欲しいの」

「ハッ、我は前世の御子息の守護で宜しいでしょうか?」

「ちょっと違うわ、守護だけど・・・貴男の目標は、あの子の真の友となる事よ」

「真の友・・・」

「貴男が私達眷族に思う気持ちを対等に分かち合える関係を希望します」

「・・・ハッ、御心のままに」

「それと前世の夫にも有事の際には助力して欲しいわ」

「それは一体どの程度でしょうか?」

「・・・その都度確認しなさい」

「ハッ」



テネブリスからの下知が終わり、フィドキアはロサに相談していた。

「父上、我らが神のお言葉ですが・・・」

「どうしたフィドキア。何か不満でもあるのか?」

「いえ、そのような事はございません」

「では何だ?」

「は、我が目的が前世の御子息の真の友だと拝聴しました」

「ふむ、対等の関係を希望されておるな」

「はい、我はどうしたら良いのでしょうか?」

「そうか・・・我らが神はお前達の事を考えての事では無いかな?」

「そう仰いますと?」

「お前の心に有るトゲだ」

(??)

「解らんか? お前が持つ龍人としての誇りだ」

(??)

「それが他の龍人達との違いをお前は根に持っているだろう」

(!!!)

それはフィドキアと他の三人とは生まれ方が違う事だ。


「そして長い時を生きているお前は孤独だったはずだ」

(・・・)

「前世の御子息も隠し子として不憫な生活と、母と別れて孤独だったに違いない。だからこそ我らが神はお前を守護よりも友情として分かち合える事を望まれているのだろう」

「・・・父上の御言葉で理解しました。このフィドキア眷族の誇りを賭けてご子息と真の友になって御覧に入れましょう」

「・・・フィドキアよ、そんなに力むな」

「ハッ」

「では国内に説明してから下界での説明だな」

「ハッ」

「ではオルキスの所に向おうか」



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



関係各所に報連相したロサとフィドキアは下界での準備も怠りなく進めてその日を迎えるのだった。

それはラソンからの情報で守護対象者が学校と言う場所に毎日通う事になったと報告が有ったからだ。

即座にロサに連れられて子供のフィドキアが手続きに向ったらしい。

そして当日の朝だ。


「ラソン、変では無いか?」

「大丈夫よ、とっても可愛いわ」


現在のフィドキアは本来の2人目の監視対象者から守護対象者へと変わった少年の背格好に似せて小さくなっていた。

一般的な獣人の子供と同様の衣服を用意して準備は終わっている。


「では行って来る」

「行ってらっしゃい」


言葉だけなら夫婦の会話だが、見た目は母子の様でラソンはご満悦だった。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



朝の朝礼で先生から報告が有った。

「えー皆さん、昨日はアロンソ君が転校してきましたが、今日も転校してきた友達を紹介します」

廊下から入って来たのは、また黒髪の”男の子”だった。

「フィドキアだ。ヨロシク」


パチパチと少ない拍手が有ったがアロンソは歓迎していた。

それは初めて見る自分と同じではないが人族の黒髪黒目の男の子だったからだ。

因みに獣人達に受けが悪いのは、無愛想で生意気そうだからだ。


アロンソとフィドキアは”たまたま”席が隣どうしで初日は一緒に教材を使っていた。

そして、お昼時間。

全員が弁当を持参して食事を取る。

「あれ? フィドキアは弁当持って来てないの?」

「あぁ」

「ふぅん・・・じゃ俺の半分やるよ」

「良いか?」

「偶然だけど俺達似てるだろ? 髪の色だとか」

「うむ」

「一緒に学校に来てるんだからさ、友達として当然だよ」



友達として当然だよ・・・友達として当然だよ・・・友達として当然だよ・・・



その言葉がフィドキアの脳裏に木霊した。

「さぁ食べよう」

「では頂くとしよう」

ほんの一瞬の出来事が永遠の様な錯覚を起こしたフィドキアには忘れられない出来事だった。


そして数日過ぎて帰る頃には教室が大変な事になっていた。

アロンソ派の獣人女子とフィドキア派の一部の獣人男子だ。

教会関係の人族は遠巻きで静観している模様。

アロンソは計算や行儀作法は完璧と言えるほどで、当たり前だが獣人の種族語や文字は分からない。

しかし、笑顔で誰とでも接しているのが獣人女子に受けたのだろう。


一方のフィドキアは無愛想だ。

全ての問題に完璧に答えるが、無愛想で言葉数が少ないため誤解を生んでいる。

実際ガトー族やペロ族の男子にちょっかいを出されたが、コテンパンにやり返されて”フィドキアには逆らうな”と陰で言われている様だ。


「大体お前らアロンソに纏わりついてウゼェーんだよ」

「何よ、アンタ達こそ。フィドキア君の陰に隠れてアロンソ君に近づかないで頂戴ぃ!」

「何だとぉ」

「何よぉ」


獣人の男子女子が言い争いをしている。

アロンソとフィドキアが仲良しなので両派はたまに衝突するのだ。


「あいつらは仲良く話しているから我らは帰るか」

「そ、そうだね・・・」

あれがどうして”仲良く話している”のか理解出来ないが、最近は毎日途中まで一緒に下校する2人だ。

転移室のある秘密の部屋の少し前で別れを告げる。

「じゃまた明日、バイバイ!」

「あぁ」

そう言って別れるのだが今日は違った。

「なぁフィドキア」

「何だ」

「ちょっと寄り道しないか?」

「構わんが」


そう言って方向転換し、いつもと違う道を歩き出したので慌てだすアロンソの隠密護衛だった。

(大変だ! 護衛対象が所定の順路から外れたぞ! 本部に知らせろ!)


それはもう大慌ての護衛達だ。

後から付けていた護衛は急に振り返り自分に向って来るのだから。

前方を警戒していた護衛は別の護衛から直ぐに連絡が有り後を追い掛けた。

全体の指揮をとる者は本部の指示を仰いでいる。


たまたま、城の護衛部隊室に居合わせた”父親”は知っていた。

(おっどうした? さては、あそこに行く気か?)


数日前に親子で、とある木賃宿に行って食事をしたのだ。

木賃宿で主人が作ってくれた”特製”の冷たい果物ジュースと肉を焼いたモノがとても美味しかったのだ。


決して料理店で出てくるような洗練された料理では無い。

ワイルドと言えば聞こえは良いが、違う言い方をすれば大雑把な男の手料理だ。

見た目よりも味と量と値段を重視した物だ。

「ねぇ父さん、凄く美味しかったね。またこの店来たいなぁ」


小さな店だが喧騒の中で子供の小さな声だったが、褒め言葉は聞き逃さない強面の主人が声をかけて来た。

「嬉しい事言ってくれるなぁ。いつでも来てくれ。オメェにはタダで奢ってやるからよ」

「やったぁ! じゃ友達も連れて来て良い?」

「勿論だ。何人でも構わんぞ」

「おい、大丈夫か?」

「子供の量だ。構わん。それにもしもの時はゲレミオに付けとく」

(ヤレヤレだ。どいつもこいつも甘やかして)



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



「ガルさん、友達連れて来たよ」

「おう、来たか。この前ので良いか?」

「ウン」

「ちょっと待ってな」

フィドキアと2人でカウンターに座り待っていると、スパイシーな肉料理と”特製”の冷たい果物ジュースが運ばれて来た。


「こ、これは!」

フィドキアの鼻腔を直撃したそのスパイシーな香りだが、ガルガンダ特製の香辛料を調合した物が使われていて甘く馨しい香りと焦げ目の香ばしさが幾重にも重なった香りの多重攻撃にフィドキアの思考は我を忘れてしまった。

「さぁ食べようフィドキア」


そう言って食べ始めたアロンソもこのピリッと香辛料の効いた料理が大好きなのだ。

無言で食べる2人だが、ふと隣を見ると何も無い皿が有った。

「早っ! もう食べたの?」

「うむ、とても旨かった」

「良かった」

微笑んで残りを食べているとジッとこちらを見る視線が気になって見ると、フィドキアが肉を凝視していた。

アロンソは内心、全部食べてしまったら夕食が食べられなくなって寄り道した事がバレる可能性を考えた。


「もうお腹一杯だから、食べる?」

「いいのか?」

皿ごと動かすと一瞬で無くなった。

「食べるの早すぎじゃないか?」

「大丈夫だ」

そして”特製”を頂く。

「っかぁーこの冷たさが溜まらないよなぁ」

「ふむ、熱い肉の後に冷たい飲み物か。悪く無い」

(変わった表現方法だなぁ)と思っていたアロンソ。


「ガルさん、ご馳走様!」

「おう残さず全部喰ったな」

「美味しかったよ。友達も美味しかったって」

「そうか。またいつでも来な」

「うん。じゃね」

店を出るとフィドキアが気を使ったようだ。

「支払は良いのか?」

「うん。あのガルさんが父さんの知り合いで奢ってくれるんだ」

「そうか。しかし、旨かったな」

「フィドキアも気に入ったの? じゃまた一緒に来よう」

「良いのか?」

「勿論さ、俺達友達だろ」


俺達友達だろぉ・・・友達だろぉ・・・友達だろぉ・・・

フィドキアの脳内は何度も同じ言葉が繰り返していた。


アロンソと別れる時に告げた。

「明日は我が家に寄って行け」

「えっ良いの?」

「ああ」

「じゃ楽しみにしてるよ」

そう言って別れて部屋に向った。



そして翌日。

「我が家はこっちだ」

そう言ってフィドキアに案内されたのは、転移室のある建物の隣だった。

一階の裏側に扉が有り開けて入る。

すると、どう見ても違和感が有った。

「あれ? ここ一階だよね」

しかし、窓から見える景色は一階では無い。


「ここは四階だ」

「ええっ! どうなってるの?」

「お前の家と同じく転移したのだ」

「マジで!? もしかして知ってたの?」

問いかけに答えず果物を用意するフィドキア。

「まぁ座れ」


椅子に腰かけて果物を食べながらフィドキアが唐突に話し出す。

「我はお前が黒龍王の息子だと知っている」

そう言われて驚いたが、アロンソはフィドキアを初めて見た時から気になっていた事が有った。

「えっ何で知ってるの? それより俺も聞きたい事が有ったんだ」

「何だ。言ってみろ」

「フィドキアって黒髪黒目だよね。父さんを知ってるならもしかして・・・」

「ダークエルフでは無い」

「本当に?」

「ああ、本当だ」


サラッと出て来たダークエルフと言う単語と否定した答えに、ちょっとがっかりしたアロンソだがフィドキアが色んな事を知っていると認識した。

「それよりもこれから話す事はお前の父親にも秘密の事だ」


ドキドキしながら聞いているアロンソ。

「お前の父親と、我の父親はとても仲良しだ」

監視対象者とロサコラソンの事だ。

「そしてお前が学校へ行くので、それならば我も行く事になった」

「へぇ、そうだったんだ」

「お前の事は以前から聞かされていたが初めて会った時は緊張したぞ」

「ええっ何でさ」

「お前は父親に良く似ているからな」

「父さんに会った事が有るの?」

「ああ。だが我が学校に来てお前と友達になったのは2人だけの秘密だぞ」

「どうして?」


ニヤリと笑うフィドキア答えた。

「いつか驚かせる為だ」

「ぷっ、良いよ。でも驚くかなぁ?」

「心配は要らん。必ず驚かせる。その時が楽しみだ」

楽しそうに微笑むフィドキアを見て(他にも楽しい事有ると思うけどなぁ。変なヤツ)と思っていたアロンソ。


「ところでフィドキアはここに1人で住んでるの?」

部屋に誰も居ないから聞いて見た。

「1人の時が多いだけだ。我は父親しか居ないし、たまにしか合わないからな」

「それって、俺と同じだ」

「ああ」


姿や境遇が同じなので更に親近感を強く持ったアロンソだった。

「フィドキアの父さんだけ? 他に親戚とか居ないの?」

「居るには居るが、余り人に会いたくないらしいからな」

ラソンの事だ。

「1人で寂しく無いの?」

「以前は多少感じた事も有ったが今は無いな。今はお前が居る」

真剣な眼差しでアロンソを見るフィドキアだ。

「そうだね。俺もやっと”何でも話せる友達”が出来た気がするよ」

笑顔で返すアロンソだ。


「お前は我の事を友達と呼ぶのであれば、我は友の証しとしてこれをやろう」

そう言って手渡したのは金色の腕輪だった。

「いいよ、こんな高そうなの。貰ったら悪いし」

「言っただろう友としての証しだ」

「こんな目立つ腕輪してると誰かに何か聞かれるし、ガバガバだぜ」

アロンソの腕はまだ細く腕輪がブカブカだった。

「では、こうしよう」

腕輪を二の腕に押し上げて、赤い布で覆うように巻き付けられた。

「あっ、これだったら良いかも!」

そしてフィドキアも同じ様に赤い布を腕に巻き付けてあげた。

「アハッ御揃いだな!」

「この腕輪には様々な効果が有るが今は1つだけだ。後はお前が成人してから使える様になるだろう」

子供に龍の召喚は危険だ。


「それで何が出来るの?」

問いかけたがフィドキアは黙ったままアロンソの顔を見ていた。

すると

(・・ンソ。・ロンソ)

???

何か空耳が聞こえたような気がした。

(アロンソ、聞こえるかアロンソ!)

「えっ、声が聞こえた!」

(そうだ、聞こえているかアロンソ)

「ああ、聞こえるよフィドキア!」

(これは念話だ)

「念話!?」

(誰にも聞かれず我らだけが話す事が出来る)

「本当に?」

(そうだ。お前もやってみろ)

「ウン」

(心を静めて話したい者を思い浮かべるのだが、今は我を見て心で話しかけて見ろ)

(・・・・、フィ・・・、フィド・・、フィドキア、聞こえてるかフィドキア)

(初めてにしては上手だな。流石だ)

珍しく褒めるフィドキア。

(凄い、コレ。間諜とか意味無いね)

(そう言うな。これは特別な腕輪だからだ。一応注意する事を教えよう)

幾つかの注意事項を聞いて、特にしてはいけない事は父親に念話しない事だった。


「なんで?」

「我らは子供同士の付き合いだ。そこに相手の親が入ると面倒だろ」

「そうだね」

「それに我らの情報がお互いの親に筒抜けになると面白く無いだろぉ」

アロンソはニカッと笑い納得した。

「解かったよ。この赤い布を取らない様にする」

「それが良い」





Epílogo

その後2人は友情を深めていくが、それは別の御話しで。

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