第29話 地に落ちた存在4

二度目のクイナ・プレチェプタ五つの戒めが放たれた。

再度大陸に襲う激しい光と爆風に爆音だ。

既にこの状況を見ていられる者は現場の龍人たちと遥か彼方の存在だけだった。


直後に人化したラソンがロサの核に向って魔法陣を使う。


サカール!!魂魄を取り出し憑依させる魔法陣


するとどうだろう。

魔法陣を介し核から白いもやが出て来た。


ベルムからオルキスを経由してラソンに渡された”黒くて小さな人型の人形”を取り出した。

白い靄は小さな黒い人形を憑代として徐々に大きなっていった。

大きくなったとはいえ、幼児の大きさだ。

ラソンは幼児を抱きかかえ全員の顔を見た。


「良し、では五方陣にて封印の魔法陣を行なう」


即座にそれぞれの配置に陣取る龍人達。


「我らが父たる神よ、次なる目覚めの為にしばしの間、眠られい」

「「「コンテール!!」」」


フィドキアの掛け声と共に同時に魔法陣を放つ龍人達。


封印は見事に成功し、辺りから不快な魔素が消え去った。

とは言え、目の前にはロサの核がそのまま存在する。

この封印は核を何かに封印するものでは無く、禍々しい魔素を抑え込み棘の触手を封印するものだ。


ホッとしているのは龍人たち同様に見ていたオルキスも同じだが、野晒しのままでは別の問題が生じる。


そこに意を決して声を上げる者がいた。

「私が行ってきます」


オルキス達が振り向くとロサに似た男が立っていた。


「アルセ・ティロ!! 貴男が向かうと言うのですか!?」

「はい、我が創造主である父上を守る壁と屋根を作りましょう」


そこに口を出すもう1人の存在が現れた。

「では壁よりも家。それよりも小さなお城の方が良いわね」

「ベルム・プリム様」

オルキスがロサの創造主に気づく。


「皆さん、心配をかけましたね。大神様の予知夢ではロサが元の姿に戻るのは随分と先になると仰いました。我らはそれを信じ見守るのです」

「「「・・・」」」


本当は反論したいが無言で抵抗し、瞳をウルウルさせるオルキス達一同だ。

「解っています。どれほど待つのか想像も出来ませんが戻ったら当分の間、貴女達の自由にして構いませんよ」


全員不満だった顔が一斉に満面の笑みになった。


「それでね、多分ロサの心はあの場所に留まりたいはずよ。だからアルセ・ティロともう1人現地の近くで監視役を置きます」

「それは・・・」


オルキス以外も、もしかしたら自分がその”片翼”たる存在に抜擢されるのではないかと固唾を飲んだ。


「星の妖精王ヴィオレタ・ルルディ!! 出て来なさい」

「はい、御側に」


即座に現れたのは紫の髪を持つ背に羽の生えた女性だった。


「ヴィオレタ!! ヴィオレタが下界に行くのですか?」

「ええそうよ。これは神々がお決めになった事よオルキス」


オルキスの質問に応えたのはベルスだった。

「お母様・・・」


神々にもロサの片翼は自分だと認めてもらっていたため、当然のように自分が下界に行くものだと思い込んでいたオルキスだ。


とは言え、他のビダであれば反論もするが彼女であれば納得して諦めるしかない。

何故ならば最愛の者と”協同創生”した存在がヴィオレタ・ルルディなのだから。


「ですがヴィオレタは龍国の重要な役割が有るのでは?」

「大丈夫よ。それは星の精霊王にお願いしてあるから」


龍国内おいて目視できる形の有る物を管理する者が星の妖精王の役割で、目視出来ない形の無い物を管理する者が星の精霊王の役割なのだ。

今回の一連の事柄は例外とし龍国内総出で対処せよとの大神の指示だった。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




封印されたロサの元を訪れたアルセ・ティロとヴィオレタ・ルルディがフィドキア達龍人に説明した。


ロサの核の周りに植物で城と囲いを作り、小さなロサを住まわせると言う。

そしてテネブリスが暴れている間はヴィオレタ・ルルディが認識阻害の結界を張り守ると言う。


小さなロサを現地に滞在させる事に、龍人たちからは反対意見も出た。

しかし”本人”の強い希望で現実となる。

またヴィオレタ・ルルディの結界が神と呼ぶ存在のテネブリスにどれだけ効果が有るのかも指摘されたが”小さなロサ”が効果を増幅させると言う。


小さなロサは、その姿で以前の記憶を宿している。

「しかし、この姿では恰好がつかないなぁ・・・ふむ・・・良し、これからはコラソンと呼ぶが良い」

「そうは言われましても父上、皆に示しも付きませんし・・・」

「心配するなフィドキアよ。いずれ元の姿に戻るのだから、それまでの話しだ」


アルセ・ティロが小さな城と囲いを棘で作り”コラソン”の指示でヴィオレタ・ルルディと共に離れた場所で監視する事になった。


魔素の少なくなった下界では肉体を長期維持する事が難しく、自ら作り出した素体に何度も転生する事が出来るヴィオレタ・ルルディ。


既に龍国では転生の実験運用が実用化され実験を重ねている段階である。

とは言え数年で”実験”が出来る筈も無かった。

数百年どころか千年も万年でも足りない時間を費やしたのだ。


暗黒たる存在から協力を求められた聖光の力により”切掛け”を作る事に成功し生体実験を繰り返して結果、1つの魔法陣として完成した後も試行錯誤した完成形が妖精輪廻華王と呼ばれる事となるヴィオレタ・ルルディだ。


また認識阻害の結界を良い事に、こっそりと転移して愛らしいコラソンを”こねくり回す”オルキスだったが、結局同族達が順番に訪れる事となっていた。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




時は流れて・・・


下界では幾千年の歳月が経っていた。

“闇のテネブリス”は長い眠りについている。

地上の生物からは、破壊神だの、死をもたらす存在だとか、終わりを告げる者に、魔龍だとか言いたい放題に呼ばれていたが本龍が知る由も無かった。


そんな死の破壊たる元凶を神と崇める集団さえ幾つか存在していた。


コラソンは自らの本体を覆う闇の被膜を取り除こうと様々な方法をこころみた。

龍国に居る大勢の協力者からの援助を断わり、自らの行動だけで問題を解決しようとするコラソンに納得のいかない者も居た。


「何故ですか父上。皆が協力すればもっと早く解決方法も解かるはずなのでは」

「良いのだフィドキアよ。これは我の試練なのだから」

「しかし・・・」

言葉は以前通りだが幼子が相手に多少違和感の有るアィドキアだった。


その様なやり取りが幾度となく交わされたのだった。


コラソンは後悔の念でさいなまれていた。

オルキス達同族は分け隔てなく愛している。

しかし、”あの時”崇拝する神の唇に触れた時、ロサの心が神の供物となってしまったのだ。

神が下界に降りられたと聞き、居ても立ってもおれず下界に転移してしまったのだから。


自分であれば神に話しが出来る。

“寵愛”を受けた自分であれば龍国に戻る様に説得できると思い込んでいた。


今でも同じ思いだが、力の違いを思い知らされて愛する者達に心配をかけた事を後悔し、1人で対処する事で懺悔しているコラソンだった。


とは言え、余りにしつこく聞いて来るのでフィドキアだけには打ち明けたコラソンだ。

それ以降のフィドキアは何も言わず、誰かに何を聞かれても”全ては愛の為に”と答えるだけだったと言う。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




ある時、精神体となったテネブリスがアルブマに問いかけた。


(もう、長い時が過ぎたけど私の身体はその後どうかしら?)

(そうねぇお体はずっと寝たままよ、お姉様)

(そぅ・・・そろそろ潮時かしらねぇ)

(どう言う事なのお姉様)

(“あれ”も私よ。何を考えているか解っているわ。もうずっと前から正気は取り戻しているの。そして思考していたのよ、これからの事を)

(だけど、どうするの?)

(そうねぇ、近くに行って念話して見ようかしら・・・)

(ダメよ、お姉様。お姉様には実態が無いのよ、攻撃されたら防げないじゃないの)

(大丈夫よ、もう暴れたりしないわ。それに、貴女に連れて行ってもらいたいのよ)

(・・・でも、素直に念話してくれるかしら。それに元に戻る方法は有るの? お姉様)

(勿論考えは有るわ。その為にもアルブマ、貴女と一緒に行かなきゃダメなの)

(詳しく教えて下さるかしらお姉様・・・)

(ええ、その方法は・・・)


その方法とはテネブリスの本体に、分離した理性である魂を戻す段取りだった。


(そんなっ・・・大丈夫かしら)

(大丈夫よ。こうなった理由も解っているわ。)

(それは・・・聞いて無いわお姉様)

(ごめんなさいアルブマ。時が来たら話すから・・・)


納得は行かないが妥協するアルブマだった。


(お互いに別々になって考える事が出来て良かったのかも知れないし・・・)


アルブマの準備が終わり二体で闇のテネブリスが鎮座する大陸の険しい山々に囲まれた場所に転移して向かった。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




精神体となったテネブリスの独り言。

ξ

アルブマ。

心配してくれて、ありがとう。

でもアレが前世からの本来の性格なのよ。

今までは私の龍としての理性が使命を全うするために無理していたのかも知れないわ。

どちらも私。

あなた達の手本としてお母様の役立つ子として・・・

ξ



巨大なうずくまる龍の近くの山頂に転移してきた二足歩行型のままのアルブマと精神体となって聖玉を憑代にしているテネブリス。

二体は何度も練習してきたように進めていった。



(メルヴィ、メルヴィ、聞こえているでしょ? 私よ、もう1人の貴女よ)


(止めて!! その名前で呼ばないで)


(どうしてなの?)


(私はテネブリス・アダマス。悠久の時を生きた暗黒龍よ)


(ふふふっ、でもそれはメルヴィとしての心の支えが有ったからでしょ?)


(そんな事は無いわ。私は産まれた時からずっと龍なのよ)


(ええ、そうよ。長い長い時の彼方から貴女とずっと一緒だった私は知っているわ)


(・・・知っていたわ・・・いつの頃かしら、私の思念が作りだしたもう1人の私。面倒な事を嫌がっていた私が寝ている隙に終わらせていたわね)


(そうよ。私は龍として立派な長女になるべく貴女が望んだ存在よ)


(存在・・・。流石に二重人格の片割れが別行動をとるとは思わなかったわ)


(あら私達は人格じゃ無くて龍格でしょ)


(ふふふ、そうだったわね。それで、何しに来たの)


(貴女も解っているでしょ)


(・・・)


(私達が何をどう足掻こうとも前世の様には出来ないわ。貴女が進めていた転生の魔法陣だってアルブマの手を借りてようやく完成したけど、貴女は使おうとしないわよね)


(それは・・・まだ成体実験が終わっていないからよ・・・)


(嘘、私は貴女なのよ。考えている事くらい解かるわ)


(・・・)


(いつ、どこに転生するか解らないのに使える訳が無いじゃない)


(解ってるわよ!! だったらどうしろって言うのよぉぉぉ!!)


(・・・待ちましょう。私達は待つしかないの)


(だったらこのままでも良いじゃない)


(イヤよ。私も身体が欲しいし・・・1人は嫌なのぉ)


(1人じゃ無くて一体でしょ)


(貴女らしいわ。それにアルブマが可哀想よ)


(・・・アルブマは私の欲望が抑えきれずに手が出てしまって・・・悪い事をしたと思っているわ)


(そう、それが貴女の気持ちでもアルブマは本当に私達を愛してくれているわ)


(解っているわ。でも・・・変身出来ないのよぉぉ。何度やってもダメだったわ)


(それは私が居なかったからじゃない)


(なんで・・・)


(だって私達二体で暗黒龍なのよ)


(・・・でもどうやって戻るつもりよ)


(貴女の意識が有ると戻れそうにないわ。だから寝ている時か、気を失っている時だったら貴女の身体に戻って変身する事が出来るはずよ)


(寝るって・・・ずっと寝てたから当分寝れないわ)


(だったら”あの方法”しかないわね)


(何よ、あの方法って)


(ふふふ、貴女が考案したアルブマを悶絶させた魔法よ)


(なっ、アレを使う気なの!!)


(それしか方法が無いもの。あと成龍体用に特大のを作るから覚悟して気持ち良くなってね)


(うぅ・・・)



本体との意思の疎通が叶ったのでアルブマに魔法を作らせる。



(本当に大丈夫なの、お姉様)


(勿論よ。目を開けているでしょ)

巨大な龍の眼がこちらを凝視していたが敵意は無かった。


(アルブマ、成龍状態に効果の有る大きさは、私の頭程の大きさよ)


(えええっ、あんな巨大な大きさなんて無理よ)


(大丈夫よ、貴女の愛を信じているわ。それとも自身が無いなら貴女も成龍体に戻ってから発動する?)


そこまで言われると後には引けないアルブマだった。

何故なら、この世界で誰よりも姉の事を愛していると自負を持っているからだ。


(やるわ)


(頑張ってね)


(任せて。成龍体でも昇天させて見せるわ)


自信満々のアルブマが魔法の作成に取り掛かった。

特殊な魔法の為、多少時間がかかるものの絶対の自信を持つアルブマだった。


(さぁ出来たわよぉ)


アルブマの頭上に巨大な光の玉が顕現していた。

それを見ていた”闇のテネブリス”は・・・ドキドキしていた。


(あんな大っきいの・・・羨ましい・・・)

(えっ、何か言ったお姉様)

(何でも無いわ。始めましょう)





Epílogo

1つは、今の状態からロサの魂魄を取り出し憑依させる魔法陣。Sacarサカール

1つは、龍人達でロサの核を大地に封印する魔法陣。Conterコンテール

闇を打つ巨大なピンク色の発光球。

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