第28話 地に落ちた存在3

ダムネイション天罰


それが龍人の持つ最大級の攻撃魔法だ。


フィドキアが咆えるとロサの上空が暗くなりピカピカと輝きだした。

幾つもの光が集束して大爆発が起こり、真っ白に輝いたあと巨大なキノコ型の煙を上げだした。

すると物凄い轟音がして暴風で爆心地へ吸い込まれる。

その直後今度は風向きが変わり、吹き飛ばされそうな嵐が巻き荒れた。


もっとも龍人達はその威力を感じ取り、すぐさま防御態勢を取った。

何故ならば通常のダムネイションよりも強大な威力だからだ。


今までの戦闘を踏まえて三倍に増幅させたダムネイションをつかったフィドキアだった。

暫らくすると爆風が去り視界がハッキリと見えだした。


「どうだ・・・」

見えて来たのは巨大な黒い塊だった。


「触手は無くなったようよ。でも・・・」

その黒い塊は明らかに成龍体型のロサだと思われた。


「これで父上が正気に戻られれば・・・」

フィドキアがつぶやいた瞬間、雄叫びが辺りを支配した。

と同時に動き出す黒い塊から新たな触手が生えて来たのが見て取れた。


「そんな・・・あの強化したダムネイションでも触手を吹き飛ばしただけなのか!!」

「一体どうすれば・・・」

カマラダとバレンティアも悲観的だ。


龍人たちが悩んでいる間に触手は元に戻り再び大地の蹂躙を始めだしたロサ。

それから龍人達の果てしない攻防が続いた。

大陸の生命はことごとく失われていったが龍人達は気に留めなかった。

なぜならば、後から幾らでも繁殖させられるからだ。




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




長らく続いた攻防も龍国からの連絡で区切りを迎える事となる。


(ラソン、きこえますか?)

(はいお母様)

(ロサには貴女達が全員でダムネイションを使って行動を止めるのよ)

(そ、それはアレを行なうのですかお母様?)

(ええ、神々がお決めになった事よ。フィドキアにも伝えて頂戴)

(わかりました・・・)


オルキスからの連絡をフィドキアに伝えたラソン。


「・・・解かった。全員五方陣に散開!!」


暫らくの沈黙のあと指示を出すフィドキア。

龍国からの指示は龍人が五体同時発動させるダムネイションだ。

その威力は単に五倍では無く魔法陣として増幅された攻撃なので五の三乗分の威力だ。


(確かにその方法ならば魔素に侵食された身体を取り払い、核を確保して復活させる事が可能だろう・・・しかし・・・)


フィドキアが懸念しているのは自らの創造主を攻撃すると言う行為だ。

既にダムネイションを使ったが触手だけを取り払えたので心情的には安心していたが、神々からの通達は肉体を滅ぼして核を回収させることだった。


((父上、直ぐに元のお姿に戻る為です。お許しください・・・))


(全員用意は良いか?)

(良いわ)

(大丈夫よ)

(こっちもだ)

(いつでも良いぞ)


ロサとはかなり離れた距離で五カ所からの同時攻撃だ。



(では行くぞぉぉぉ!! クイナ・プレチェプタ五つの戒めァァァァ!!)



それは大陸を飲みこむほどの巨大な光だった。

その地域の生物は既に移動したか、先の”闇のテネブリス”によって滅ぼされていたのかも知れない。

世界の終りの様な爆発音の後には前回のダムネイションを遥かに凌ぐ暴風が大陸を横断した。


辺りが終息したのだが龍人達全員の眉間からシワは無くならなかった。

それは気配だけで解かるからだ。


一斉に爆心地に集まって来た龍人たち。

流石に見渡す限り荒野になっている。

そんな爆心地からの気配を感じ、二足歩行型に変身して近づくフィドキアだった。


爆心地に残っていたのは小さな黒い物体だった。

(これは卵なのか?)

(いや、種だろう・・・)

カマラダの質問にフィドキアが答えた。


卵型だが種と言ってもかなりの巨大さだ。

二足歩行型に変身した龍人たちよりも大きい。

だがその種からも禍々しい紋様と魔素が溢れフィドキア達を拒む様な雰囲気だ。

五体の龍人は龍国の連絡を待った。


核を取り巻く魔素を排除する為に様々な方法が行なわれた。

通常の何倍もある魔法攻撃や合成魔法に属性エスパーダだ。

しかしそれらの方法ではロサの核を取り巻く禍々しい魔素を取り除く事は出来なかった。

核の前で方法論を話し合う龍人たちに龍国での協議はオルキスに一任されていた。

何故ならば更に厄介な問題が残っているからだ。


それは全ての元凶たる暗黒龍の事だ。

時間だけが経過し、それぞれの考えが煮詰まってきた頃、動きが有った。




ロサの核から触手が生えて来た。




「「退避ぃぃぃぃ!!」」

カマラダとバレンティアの大きな叫び声に驚くも、棘の触手に気づき大きく距離をとる龍人達。


「ちぃぃっ、やはりあの核を覆う魔素の表皮を取り除かなければだめか!!」


フィドキアの大きな呟きだが、他の龍人たちもその事は理解している。

当初は一刀で両断、もしくは魔素の表皮をそぎ落とせると考えていたが龍人達の力を持ってしてもその表皮を取り除く事は出来ず、龍国からの指示もないまま再度触手が襲い掛かって来た。


勿論、下界の状況はオルキスを筆頭にロサと関係を持つ第一ビダたちが同様の想いで見守っている。

見守りながらも何もできないもどかしさ。

ジッと堪え偲ぶ、同じおとこを愛したおんなたち。

オルキス達が待つのは神々の指示だ。

龍人たちが全員で行なう最終決戦用の攻撃魔法陣であるクイナ・プレチェプタ五つの戒めを使う際には流石にオルキス達も反対したと言う。


しかし、それでもロサを救い出す事は出来なかった。

オルキス達は絶望のどん底に居た。


基本的に下界での行動は龍人たちだけになっている。

それ以上、上位の存在が何らかの活動をした場合、大地の損傷から惑星自体への影響を考慮しての事だ。

もっとも、魔素さえ大地に十二分に有れば多少の損壊など影響は無いのだが、大神の予知夢を元に惑星の魔素を龍国に集めているからだ。

然るに、現在も”闇のテネブリス”と”闇に落とされたロサ”の対策を神々が議論している所だ。


だが、どれだけ長い時を使い議論しようとも神々が優先する思考は”闇のテネブリス”をどうするかだ。

その事が決まらない限りロサの思案に救出も始まらない。


オルキス達は苛立ちながらも子供達の龍人を見守るしか無かった。

龍人達も変わり果てた創造主と呼ぶ父の破壊活動を全身全霊で阻止していた。



それは何時までも終わりの無い戦いだった・・・



どれだけ日が沈み、そして日が昇り、それでも棘の触手は休む事に無く大地を蹂躙し、龍人達も必死の抵抗をしていた。


そんな終わりの無い戦いの最中に念話が入った。


(ラソン、聞こえますか?)

(お母様!!)

(随分待たせたわね、神々の指示が出たわ)

(本当ですかお母様)

(ええ、良く聞いてから皆に説明して頂戴。そして貴女に魔法を授けるから一度戻って来て欲しいの。その理由も説明するわ)

(はい、お母様)



母であるオルキスから神々の決定事項がラソンにより龍人達に伝わった。

そして解決方法である魔法を授かりにラソンが龍国に戻って行った。



ラソンが戻るとオルキスを筆頭にヒラソルとナルキッスにプリムラが待ち構えていた。

ロサを心から愛している第一ビダ達だ。


即座にオルキスから二つの魔法陣が伝授される。

1つは、今の状態からロサの魂魄を取り出し具現化させる魔法陣。

1つは、龍人達でロサの核を大地に封印する魔法陣。


「ラソン、貴女に期待しているわ」

母から精神的な圧力が言い渡された。

「ラソン、頑張ってね」

ヒラソルからも応援的な圧力がのしかかる。

「ラソン、ロサの事お願いね」

優しく接してくれるナルキッスも目が真剣で怖かった。

「ラソン、・・・・頼みましたよ」

いつも笑顔のプリムラの真顔が一番怖いと思ったラソンだった。


全員に”ハイ”と答えて兄妹たちが待つ下界に転移するラソン。



「戻ったかラソン」

「ええ、では手順を説明するわ。その前に全員に魔法を渡しておくわ」


全員に渡されたのは封印魔法陣だ。

全員で行なう事で、より強力な魔法陣となる。


そして手順が説明された。


まずは再度クイナ・プレチェプタでロサの核を剥き出し状態にする。

魔法の効果なのか一定時間鎮静化するので、その隙に魂魄を取り出し憑依させる魔法陣を使いロサの魂で闇に侵されて無い魂を取りだし、ロサの創造主であるベルム・プリムから貰ってきた憑代に魂を移し具現化する。

その後、龍人達で封印魔法陣を使い大地に封印する。


「どうして、お父様は救い出せないの?」

インスティントがラソンに問いかける。

「・・・」

他には何も聞いて無いので無言で答える事しか出来ないラソン。


「どうして、どうしてお父様が封印されなきゃいけないの」

「私だってお父様を御救いしたいわっ、でも・・・」

「止めろインス」


ラソンに食い掛かるインスティントを制止するフィドキアだった。


「インス、ラソンも神々の指示で動いているだけだ」

「父上を鎮静化させた後で、我々全員で聞きに行こう」

カマラダとバレンティアがインスティントをなだめて言い聞かせた。



「皆、用意は良いか!?」

全員が頷いた。


「では散開しクイナ・プレチェプタを放つ!!」






Epílogo

クイナ・プレチェプタ五つの戒めダムネイション天罰の125倍の威力だ。

Quina Praecepta


ベルム・プリムから貰ってきた憑代とは属性魔素を圧縮した固体でベルムの思念も含まれているので人化が容易となる物だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る