第33話 過去の真実2

「本当に驚いたわ。もう1人の私なんて制御が効かない位だったわよ・・・でもね、あの時助けてくれたのはアルブマとベルムだったわ」

「お姉様・・・」

「お母様・・・」

「貴女達の必死な声が引き止めてくれたの。だけど・・・込み上げてくる慟哭を抑えきれなくてお母様の所に逃げて行ったのよ」


「そうだったの・・・」

アルブマが納得してくれたようだった。


「お母様の側で思いっきり泣いたわ。あんなに泣いたのは本当に久しぶりだったわ・・・」


一同が一連の事実を知り安堵感が見られた。

テネブリスの暴走の原因が解かったからだ。


「良いかしら、私が泣いている間に考えた事を説明するわ。そして皆に協力して欲しいの」

「当然よ、お姉様」

「いくらでも力になるよ」

「何でも言ってくれ」

「気に入らない者は全て焼き払って来るぜ」

「お母様、何なりとご用命を」


「みんな、ありがとうね・・・順序立てて説明するから良く聞いて頂戴」

真剣な表情になる一同だ。


「まず、私の前世の種族は・・・ダークエルフなの」

「では、新たなダークエルフ王が決まったと言う内容が関連しているのでしょうか!?」

瞬時に反応したのはフィドキアだった。


「その通りよ、フィドキア。とは言っても私は王族では無いの。前世の夫がこの王の孫にあたるの」


何やら真剣な表情で報告書を見つめているフィドキアだ。

それも致し方ない。

何故ならダークエルフはフィドキアが下界と交わり血を受け継いだ血族だからだ。


(我の子孫が転生して我が神となったのか・・・)


「それでね、当分の間だけど、何が起ころうと手出しはしないで欲しいのよ」

「それは一体何故でしょうか?」

「勿論、理由が有るわ。前世の私が転生するまで見守って欲しいの。そうでないと今の私が存在しなくなるでしょ」


全員が同じ思考になっていた。

前世の存在が無事に転生しなければ、今のテネブリスの存在が無くなってしまう可能性が有ると言う事実だ。


「それとね・・・私が産まれてから転生するまでも見張って欲しいの」

そう告げるとテネブリスから魔素が溢れだしてきた。


「お姉様!!」

「お母様、落ち着いてください!!」

「大丈夫よ、ちょっと昔を思い出して殺意が込み上げて来ただけよ」


(((それって一番ヤバいと思うけど)))


「安心して頂戴、この殺意はずっと持っていたモノだから制御出来るから」


(((いや、そう言う問題じゃ無いけど)))


「この思いだけは忘れないわ・・・私が転生した理由だからね」


「お姉様、説明して頂ければ、いろんな協力が出来ますわ」


「ありがとうアルブマ」


そう言って、前世を語りだしたテネブリス。


ダークエルフ族が戦争で負けて捕虜になった両親の元に産まれた女の子は、先に産まれていた同族の男の子と将来子孫を作る事を両親から教えられ、愛を育み無事に男の子を出産する。


しかし、幸せの最中に不幸な連絡の元、病院に向って転移を繰り返した先が転生だったと言う。


テネブリスからのお願いは、前世の自分が産まれるまでの期間は手を出さない事。

産まれてからは両親と家族を見守り、息子と夫に一族を監視して守護する事。

前世の自分を転生に追いやった者達を捕獲する事。

テネブリスに優先順位は無いがどうしても愛情を注ぐ対象順になり、息子、夫、家族の順だ。


その担当として選ばれたのがフィドキアとラソンだった。

フィドキアは言うまでも無く眷族だからだ。

ラソンが選任された理由は、龍人には管轄地が有り偶然にもラソンの管轄にダークエルフ国があったからだ。


「だけど、どうしてダークエルフの国とエルフの国が隣接しているのかしら?」


長期間下界の動向に興味も無く、いろいろとヤッて暴れたり休んだりしまった都合で下界の種族動向の知識が無かったテネブリスだ。


「元々、エルフ族にダークエルフ族も下界の数か所に点在していましたが、”様々な災い”で個体数が減り一か所に集まった次第です。それが偶然にも同じ地域にあっただけで、我らの関与は有りません」


フィドキアの説明に、何と無く察したテネブリスだ。

((もしかして・・・私のせいかしら・・・))


「それでね、ここからが一番重要な所よ」


ザワついていた部屋が静かになった。


「フィドキアにはラソンと協力して転生前の私の身体を”ここ”まで連れて来て欲しいの」


「我が神よ、この龍国に連れて来いと仰るのですね?」

「お母様、一体何をするつもりなの?」

フィドキアとベルムの問いかけは全ての者達が同様に考えた事だった。


「アルブマの眷族が開発した複製体を作る技術が有るでしょ、転生前の私を複製して私の魂を分割して入れるのよ」

(みんなには言えないけど、いろんな手を加えて”目的別の私達”を作るのよ)


満面の笑みで答えるテネブリスに一同は騒然とした。


「お姉様、確かに身体の複製や魂の分割も可能ですがどうしてなの?」


「この身体の本当の持ち主の気持ちよ。そしてこの身体には龍族として理性である私が残るわ。そうする事で二度と暴走する事は無くなるでしょう」


「しかし姉上が話している内容は母上の予知夢の様な・・・いや、姉上は”その事”を知っているのか・・・」


「そうよ、セプテム。私は見ていたし知っているの。この先のわずかな間だけどね。まずは種族間の戦争が始まるから、手を出さないで見ていて欲しいの」




※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero




同族と眷族達に説明し、納得してもらったテネブリス。

とは言え、親愛なるテネブリスが転生者で有る事が未だに信じられない者が居る。

中でも一番驚いていたのはその場に居なかった創造主たるスプレムスだ。


細かな疑問や説明はアルブマとベルムが率先して協力しテネブリスの”野望”を叶える為に動いていた。


そしてテネブリスとアルブマにベルム以外の龍族から責任の重要性を説かれ、多大な重圧を押し付けられていたフィドキアとラソンだった。


「はああぁぁぁぁぁぁぁぁっ、気が重いわぁぁ・・・」

「そんなに気を詰めるなラソン。我が神が生誕するまでの役目は現地と種族の監視なのだからな」

深い溜息をつくラソンを慰めるフィドキア。


しかしラソンには、自らの神であるアルブマ・クリスタから特命を帯びていた。

それはテネブリス・アダマスの前世である存在の全てを報告せよとの下知だ。


龍国における現代魔導具で下界の全てを画像で映し出す事が可能だ。

しかし音声を龍国に送る事が不可能だった。

最先端の魔道具でも下界の近隣でなければ音声まで感知出来ないのだ。

愛する者の全てを知りたい独占欲に支配されているアルブマの命令が重い重圧となっていたラソンだった。


「でも、お生まれになってからは些細な事も報告しなきぁいけないし、お体にもしもの事が有れば正体を晒してお守りする事も覚悟しないといけないでしょ?」

「まぁ、その辺は事前に対処出来る事は処理すれば良いだけの話しだ。それよりも、我らが滞在して監視する場所は決めたのか?」

「ええ一応。かの地では無くて、山脈を越えた所にバレンティアにお願いして地下施設を作ろうと思っているの」

「ふむ、それは任せる」


自らに課せられた仕事の重圧に耐えられているのは、ずっとフィドキアと行動する事が任務だからで不安もあるが上機嫌のラソンだった。

しかし一方では、その事が面白く無い者も居た。


「何であの女が一緒なのよぉぉ!!」

「それは、お生まれになる場所がラソンの管轄だから・・・」

「そんな事言ってるんじゃないのっ!!」

「何かあれば即座に対応する為だろう」

「そんなの転移すれば良いだけでしょう!!」

「そんなに怒鳴らなくたって・・・」

「怒鳴ってなんか無いでしょぉぉ!」

「少し冷静に話そうよ、インス・・・」

「私はずっと冷静ですけどぉ!!」


インスティントの問いかけに、カマラダとバレンティアが交互に応えるも、ファドキアとラソンが一緒に下界で行動する事が我慢出来ないのだ。


しかしインスの愚痴が数日続いたので、カマラダとバレンティアが遠回しに手配してインスの親であるヒラソルから注意してもらう事に成功する。


「しかし、あの2人はどうにかならないかなぁ?」

「バレンティア、2人の事は口に出さない方が良いぞ」

「どうして? 何かあったの?」

「昔な」


カマラダは些細な事で口論となっていたラソンとインスに注意した所、2人の矛先が自分になり大変な思いをした事を説明した。


「そんな事が・・・」

「あの時はフィドキアの好きそうな食べ物の”些細な話し”だったが、フィドキアが絡むと母上達にまで逆らう勢いだからな。お前も気を付けろよ」

「うん、注意する。そして関わらない様にする」

「それが良い。今は父上が不在なのだから誰もあの2人を止められないからな」


カマラダとバレンティアは姉達の横暴から身を守る為に、お互いを助け合う事を誓うのだった。



暫らくすると大神たるスプレムスから眷族の招集があった。

スプレムスの話しは新たな予知夢で、全てテネブリスの考えを優先する事、ロサの復活にはダークエルフが深く関わる事となると言う内容だった。

具体的な指示は無いが、その予知夢に歓喜したオルキス達と龍人達にベルムだった。


予知夢の説明が終わると解散なのだが、今回はいつもと違った様だ。


「テネブリス、貴女は残って頂戴」

「・・・」

「お母様!」


即座に意を唱えたのはテネブリスでは無くアルブマだった。


「アルブマ、わたしはテネブリスと2人だけで話したいの」

「・・・解かりました」


納得は行かないが創造主たる母が姉と2人だけで話す事は”あの事“だろうと勘ぐったアルブマだった。

勿論あの事とは前世の記憶だ。


誰も居なくなり、2人になった所でテネブリスがスプレムスに抱き付いた。


「黙っててごめんなさい、お母様」

「良いのよ、テネブリス。貴女には辛い思いをさせた様ね」

首を振って否定するテネブリス。

「もう昔の事だもん」

「・・・」


スプレムスには話したい事が沢山有った。

一番長い時を共に過ごしてきた子供だからだ。

テネブリスが秘密にしてきた事などどうでも良かった。

話さなかったのは自分と仲間を思う優しい龍だと、誰よりもスプレムスが理解しているからだ。

それでもテネブリスに残酷な事を伝えなければならない母親だ。


「テネブリス、予知夢で伝えたい事はもう1つあるの・・・」

「お母様・・・」

「貴女に取って耐えがたい事かも知れないけど、貴女の為に話さなきゃいけない事なの」

「・・・大丈夫よ、お母様」

「いい事、どんな事が有っても我慢するのよ、力を開放しては駄目、抑え込むの」

「・・・そんなにひどい事なの?」

「貴女に取ってはね」


これ以上、何が起こるのか不安だが聞かないと解らないので覚悟を決めて予知夢を聞く事にした。


「テネブリス、貴女を転生させた犯人を殺しては駄目よ」


「!!!!っ」

母の口から出た言葉に驚愕するテネブリス。

「どうしてっ!!! 私はずっと耐えて来たのにっ! アイツらを八つ裂きにしても許さないわっ!!!」


激怒するテネブリスを抱きしめて宥めるスプレムスだ。


「貴女の気持ちは十分解かるわ」

「だったらこの恨みを晴らさせてお母様!!」

「でもね、予知夢で見たの。貴女の苦しむ姿を・・・」

「!!!っそんな・・・」

「でも殺さなければ大丈夫よ」

「・・・一体どうすれば良いの?」

「それは・・・罰を与えるの」

「罰・・・」

「ええ、そうよ。実行犯には永遠の苦しみを与えて首謀者は貴女の奴隷にすれば良いと思うわ」

「ええっ!!! お母様っ、実行犯と首謀者が居るなんて私も知らない事なのにぃ!!」

「だから予知夢が教えてくれたのよ。貴女がもう辛い思いをしない様に、もう少しだけ我慢出来るかしら?」


テネブリスの予知夢は絶対だ。

必ず予知夢通りに現実となる。

予知夢は過去に一族で検証した事が有る。

そのまま放置した場合と、手を加えた場合だ。

もちろん前者の場合は現実となり、後者の方法を取れば未来が変わって来るのだ。

検証は数回では無く眷族によって何百回も行なわれたのだから、必ず起こりえる未来なのだ。


「良いことテネブリス、直ぐに手を出しては駄目よ。全てを調べるの。”貴女が戻る時”の為にね」

「戻る時・・・お母様ぁ!!」


それはテネブリスの考えの元、予知夢を考慮し最善へといざなう母の気持ちを理解した娘だった。




Epílogo

本当に恨みを我慢出来るのかなぁ。

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