第1章 龍国と地上世界
第12話 種族名と欲望の継承
地上世界では
上位の龍種は地上世界に関与しないと取り決めをして、龍人や妖精に精霊だけが”神の指令”を広める使者として定めた。
周期的に起こる天変地異や異常気象による厄災も影響し、生き残る種族はいくつもの偶然と必然が重なり合った奇跡の元に繁栄と衰退を繰り返して行った。
幾多の生命が無慈悲に奪われても、新たな生命が誕生し世界は回っている。
壊滅の危機に瀕した種族も使者の救済により絶滅を免れ、他種族と統合されていった。
まるで、そのようになる為に厄災が起こったかのように・・・
種族と文明が入り混じり新たな勢力争いが産まれようとも、大地にはいつもと変わらない悠久の時が流れている・・・
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
ある時、龍人のラソンから母であるオルキスにお願い事をした。
と言うよりもオルキスから執拗に問いただされていた結果なのだ。
何を問いただされたのか、それは・・・
最近集中力が欠け、日々の生活にも些細な失敗の続いている娘を案じての事だ。
何度も言葉や念話で話しても一向に胸の内を話そうとしない娘に、以前から疑惑のあった事を問い掛けた。
「あなた、もしかして・・・まさかフィドキアの事を・・・」
その一言で表情が一変するラソンだった。
「な、何を言いだすの、お母様ったら・・・」
慌てふためいて、どう取り繕っても顔と態度に出ているのだ。
いつも物陰から隠れてフィドキアの姿を見ていたラソン。
幼い時から常に側に居てくれた兄の様な父の様な存在。
そんなラソンの淡い恋心に嫉妬の炎が灯ったのはインスティントの存在だった。
ラソンが成龍に変身出来る様になる頃には、インスティントはまだ幼体だった。
そんな無邪気な”インス”がフィドキアの事を好きだと公言していたのだ。
幼い妹に嫉妬する姉のラソン。
そんなインスも成体となり、変身出来るようになってから改めて気持ちを打ち明けたようだ。
恋心に関しては完全に敵対行動にでた妹に燻ぶらせていた嫉妬の炎をメラメラと燃やし、次第に対立するようになって行った。
明るい性格のインスに、物静かで落ち着いた雰囲気のラソン。
二体の同族から好意を持たれていたフィドキアだが、本龍には一切興味が無く適当に相手をしているだけの様だった。
「・・・」
そんなラソンの気持ちを薄々感じていたオルキスの表情は強張っている。
何故ならラソンの気持ちに答える事が出来ず、別の使命を神から与えられているからだ。
「ラソン・・・フィドキアの事は諦めなさい」
その一言でどん底に叩き落されたラソンだった。
表情から生気が抜け、目は虚ろで話も聞いていない状態だ。
その瞬間、ラソンは妄想の世界に逃げ込んでいた。
(何を言いだすの、お母様。あの人と別れるなんてイヤよ。絶対に離れないから。絶対に、ぜったいに、ゼッタイニ・・・離れないから)
現実では一切そのような関係は無く全てラソンの妄想だが、それほど思いを寄せているのだ。
「あなた達には我らが神々から使命が言い渡されているの。地上世界に降りた眷族の子孫と子を成す役目があるのよ」
ボーッとして、まるでオルキスの言葉が聞こえていないような素振りをみせるラソン。
「・・・。・・ソン。ラソンッ、聞いているの!?」
大声でオルキスが問いただし、ようやく戻って来たラソン。
すると・・・
「・・・あなた。それほどまで・・・」
ラソンの瞳から溢れる様に涙が湧きだしていた。
止めども無く流れ出す純潔の涙は大粒の雫となって床に滴り落ちていた。
「それだけは・・・あの人の側を離れるのは耐えられません・・・」
嗚咽交じりで思いを告げるラソンの訴えを、身を削るような思いで聞くオルキスだ。
何故なら自身も嫉妬の炎に身をも心も燃やした経験が有るからだ。
自身の時は神々の采配で希望が受け入れられ現在に至っているが、愛娘も同じ思いを持つとは夢にも思わなかったのだ。
優しくラソンを抱き寄せて慰めるオルキス。
「・・・大丈夫よ。愛しいあなたの願いが叶うように神々にお願いして見ましょう」
「ホントいにぃ!」
泣き顔が嘘の様に笑顔に変わったラソンだ。
「でもあまり期待してはダメよ。神々の決定は絶対だからね」
「・・・はい。お母様」
否定され肯定されたが、再度注意されたラソン。
しかし、可能性が有るだけ希望が持てて笑顔を作る余裕さえ生まれていたのだった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
龍国から地上世界に移って来た者達は、眷族ごとに別々の目的地を目指した。
別れたと言っても、まとめ役の者は定期的に特定の場所で会っていた。
特定の場所は毎回違い、妖精王と精霊王の持ち回りだった。
移動方法は”地上で生まれ龍国で調整された事になっている”転移魔法である。
そんな定例集会で、金髪の代表者が報告を行なった。
「実は以前から、地元の種族に対して我々の種族名を伏せていたのだが、我らが神から種族名を賜ったので皆さんに報告したいと思う」
「「「おおおぉぉ」」」
一同が驚きと羨ましさに声を上げた。
「我らの種族名は・・・エルフ族と拝命された」
龍国出身の眷族達は一様に自分達の神にも懇願する事を決意し、今回の議題などそっちのけで自分達の種族名がどのような名前になるかで持ち切りだった。
エルフ族や同等種族に神と呼ばれる存在は龍種では無い。
龍種の手によって、無から生み出された
初期の僕は非常に長寿なのだ。
龍国に居た頃も龍族に合う事は無かった僕たちだ。
実際は変身した龍人の人型と成龍体を見る程度で、上位龍種に合う事は許されなかった。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
長い時を経て龍族達の住む国は眷族の繁殖や地上世界から優秀な種族の引き抜きに、文明の産物も多く取り入れていた。
魔素を体内にやどし、魔法を使う種族からは魔法と魔導具を。
魔素の少ない種族からは魔素を必要としない道具や別の動力源を必要とする機械と呼ばれる物を取り入れた。
それらが龍国の僕達によって魔導機械と呼ばれる物に発展していった。
地上世界の者達は始祖龍スプレムス・オリゴーの殻を月と呼んでいた。
そんな月は自転しない。
たえず一方向を向いているのだ。
スプレムスが飛び出した穴は地上とは反対面の為に見る事は出来ないが、綺麗に擬装され表面上は穴など皆無なのだ。
だが出入口は存在する。
隕石の衝突跡の陰に隠れる様に開閉する扉が数か所あるのだ。
もっとも龍国の住人達は転移で”地表である外郭”に出る事も可能だ。
穴を塞ぐための初期の”蓋”は地表と隙間が存在したが、現在はスプレムスによって密着されている。
龍種は無酸素空間での活動も可能だが、アルセ・ティロによって衛星内を木々や植物で満たされた世界は十分な酸素を保有しる。
酸素呼吸を必要とする末端の眷族や地上世界から連れて来た者達は、無酸素空間で活動する為に作られた専用の魔法を使い地表での研究も行なっている。
擬装された天井からは太陽光が差し込み龍国内を照らしていた。
また、太陽光が入らない夜になると中央の
そんな龍国内の、とある塔から数人が衛星外へと転移した。
転移したのは七天龍のセプティモ・カエロと使徒のフォルティス・プリムに第1ビダのヒラソルだ。
外界に出たら変身を解き本来の姿に戻り魔素を使って飛行する一行だ。
第2ビダのシエロと龍人のインスティントは留守番だ。
とは言えシエロは魔法の開発に従事しているし、インスティントはようやく成龍に変身出来るようになったので、しばらくは国内の中央にある巨大空間で飛翔や成龍体での訓練があるのだ。
セプティモは始祖龍である母から広大な
母曰く、子供達の中で最も強い力を持つ貴女が探求し、外敵と遭遇しても不覚を取る事も無く殲滅し監視領域を広める事、と任務を命ぜられたのだ。
もっとも当のセプティモは母の御世辞を鵜呑みにはしていない。
姉達2人には敵わないと自覚しているのだ。
今や姉達2人して妹を最強だと褒め称えるが、セプティモが成龍となる前に全力で力を使い戦ったにも関わらず、姉達2人はケロリとしていたのだ。
聖なる姉には完璧に防御されて、暗黒たる姉には何をされたのか理解出来ない程、自分の攻撃が無力化されたのだ。
それ以来強さと破壊に固執した魔法関係の開発に特化しているがセプティモの眷族だ。
そして母達が仕事でしばらく留守をする事で一番嬉しがっているのはインスティントだ。
何故なら、中央の巨大空間で成龍体の訓練を監督するのは大好きなフィドキアなのだから。
親達の予定を聞いた数日前からインスティントの心は浮かれていた。
(ああぁぁフィドキアァ。また2人だけで一緒に居れるのね。ウフフフ)
フィドキアから教えられるのは成龍体での基本的な動作と攻撃だ。
アィドキア以外の二足歩行型として産まれた龍人には成龍体へ変身が可能になってから体に慣れる為練習するのだ。
ラソンも指導したし、カマラダとバレンティアも予定に入っている。
魔法攻撃の練習は外界に転移して宇宙空間で行なわれる。
そして戦闘訓練だ。
成龍体では活動する機会が無いため、フィドキアが龍人の全員を指導するように神と崇める存在からのお達しなのだ。
龍種達は、属性”直系が眷族”で”出生段階が同族”と言う区別を取っている。
暗黒龍テネブリスの眷族は使徒のベルム・プリムから先の者達だ。
テネブリスの同族は聖白龍アルブマと姉弟達五体だ。
あたりまえだが始祖龍スプレムスの眷族は全ての龍種で同族はいない。
龍種として一括り出来るが、眷族達から反対意見が出たからだ。
眷族の末端龍種は知らないが、始祖龍以下三代は途轍もない力と巨大さで他を圧倒するとフィドキア先生が若い龍人達に教えていたからだ。
偉大なる存在。
それが地上世界から引用した神と呼ぶ存在に相応しいとフィドキアが力説していたのだ。
そんなフィドキアはアルブマが生誕した以降、全ての龍種の誕生を目の当たりにしており、全員がフィドキアの世話になっている。
全ての龍種はテネブリスの眷族を手本として成長し、言語や生活習慣も同様だった。
唯一違うのは属性による特性と個性であろう。
親達を見送り、浮かれて中央空間へと出向くインスティント。
(あぁ早く一緒に飛びたいなぁ)
二体で飛翔する光景を思い描いてウキウキ気分で走って行く赤い髪の女性だった。
その事を知っていたのは、遠くからその光景を見ていた金色の髪を持つ者だ。
可愛いかった妹が、ある時から同じ者を好きだと公言するようになったのだから。
普段は仲の良い関係だが、特定の者が近くに居たりするとお互いが意識しだして、それぞれが相手の気持ちを知る事になったからだ。
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
ある時、些細な事で衝突した事が有った。
普段からインスティントがフィドキアに対しての馴れ馴れしい態度が気に入らなかったラソン。
2人きりの時に小言を言ったのだ。
「インス、お母様達がいらっしゃる時はもう少し”ちゃんと”しなさい」
「何よそれぇ。私はちゃんとしてるわ」
「してないから言ってるのよ」
「何をしていないのか具体的に言ってよねぇ」
インスティントに指摘されて小声になるラソン。
「・・キアとベタベタしないの」
「えっ、何ぃ?」
「・・・」
「もう聞こえないって」
恥ずかしさの余りやけになるラソンだ。
「あぁもう、フィドキアと馴れ馴れしくしてはダメなの」
「えー何でよぉ。別に良いでしょぉ」
「そ、それはぁ。あなたがベタベタすると周りの者が不快に感じるからよ」
ニヤリと微笑むインスだった。
「わたし、知ってるから。姉さんがフィドキアの事を好きな事」
「なっ!」
ラソンが何言ってるの、違うわよと言う前にインスが続けた。
「知ってるけど私も好きなの。良いでしょ?」
2人はお互いの性格を理解している。
片方は知的で冷静に考えて行動する。
片方は感覚と感情で素早く行動する。
お互いの性格と思い人を慕う気持ちが無言の目線で応戦している。
しかし、直情型の反応が早かった。
「あの人の心をどちらが先に奪うか競争よ、姉さん」
一方的に宣戦布告されて動揺するも、自分の方が妹より先に好きになったと自負が有るのか口から出て来た言葉に自分でも驚く事となる。
「私からあの人を奪うなんて出来ないわよ。あなたよりもずっと長い時を一緒に過ごして来たのだから」
優雅に微笑んで返すラソンにイラつくインスが口撃を放つ。
「そうかしら、フィドキアも若い龍が好きみたいだしぃ」
「ふん、何も知らない子供が随分と知ったような事を言うわねぇ」
「だってフィドキアって凄く説明上手だし、尻尾も絡ませてくるのよぉ」
インスの作り話しだが、尻尾の部分が癇に触れたのだろう。
そこからはインスの幼かった頃の話を引き出して一方的に問い詰めるラソン。
流石に舌戦では勝ち目が無いと思い悪態をついてその場を離れようとするインス。
「フンだ。姉さんが意地悪するならフィドキアに言い付けるんだから」
「な、そんなことしたらどうなるか解っているの?」
「インス知らなぁい」
「クッ、こらぁぁぁ!」
Epílogo
新たな火種が燃え上がるのか?
恋の好敵手は思い切った方法を使う事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます