ドラゴン・プロトコル

流転小石

序章 転生から眷族創生

第1話 輪廻転生




((ここは・・・何処なの? あの後、どうなったの?))




朦朧とした意識が現在の自分を確認しだした。

民族衣装を着ていた知らない男達に、愛する夫が怪我で危篤状態らしいと告げられて、うわ言に私の名前を呼んでいると。

居てもたってもおれず男達に付いて来たが、自宅から転移したのは王宮にある転移室で、そこから更に地下に降りて行く。

そこに有ったのは巨大な魔法陣だった。

その部屋中すべてに魔法陣のような模様が描かれていた。


「この転移魔法陣で病室に行けますので」

そのように言われ何の躊躇ためらいも無く魔法陣の中に入ると男達は無言で魔法陣を起動させた。



「この転移魔法で行かなきゃ・・・アレ? なんかおかしいぞ、さっきの転移魔法陣と違う。ねぇ! ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



魔法陣が発動し光の奔流に飲み込まれ時空の渦に送り込まれたのは

【住んでいた時代から数億年前へ、強制的に輪廻転生された一人の少女】だった。


叫べども既に魔方陣は発動し一瞬にして光の奔流に飲み込まれる。

空間が歪み、光が全身に激しく当るのに暖かく安らぎを感じていると次第に光の粒子が身体を突き抜ける感じがして、徐々に身体が崩れていき、意識も・・・遠のいていった。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



目が覚めて最初に飛び込んできた光景は、膝を抱える体勢で目の前にあるのは爬虫類と思われるものだった。


((何これ腹?手?))

“アレッ?”っと、つぶやいたつもりが「グルッ?」と聞こえた。

その後も

“だっ、誰か〜?”

「グッ、グァ〜?」

“声が!言葉がオカシイ?”

「ガッ!ギィィィィィィ?」

“何、何で、さっきまで・・・”

「ゲ、ゲオ、キュゥゥ・・・」


少女は考えた。

転移魔法陣だと思ったが、気づいた時には明らかに違う魔法陣の輝きで光の流れが違う様に見えていたのだ。


“転移なの?転生なの?”

「グルル?ゲルルル?」

“しかもトカゲなの?”

「グロロキュルルル?」


自らの体は黒い鱗、爪、尻尾と、どう見てもトカゲにしか見えない。

((最悪だ‼アイツ‼見つけ出して殺してやる‼))

自分を案内した奴らを思い出す。


そして周りを良く見ると、何か白くて狭い空間の中にいた。

((これは卵の中なのかな?))

身体にはベトベトした粘液が纏わり付いていた。


((ここから出た方がいいよね?))

内側から手で叩いてみるがビクともしない。

背伸びして足をぶつけたり頭突きしたりと、しばらく悪戦苦闘するとピキッと天井部分にヒビが入る‼


そのヒビに爪を押し込み少しずつカラを崩していくと、しばらくして顔が出る位の穴が出来たので頭を出そうと近づくと・・・卵だと思われる殻の外には、巨大な目が近づいて来た。


“うわっ‼”

「キュゥ!!」

思わず頭を引っ込めた。


ドキドキ。

((アレは何なの?巨大な金色の目が瞬きしているけど・・・親なのかな? どうしよう、卵から出たら食べられないかな?))


不安で動かずにジッとしていると

“うわっ‼”

「ガルゥ!!」

巨大な爪が卵に押し付けられて揺らされていた。


恐怖の中、このまま居ても仕方がないので意を決して卵から出る事にした。

“え〜ぃ!”

「キュオ!!」

卵から顔を出すと、目の前には超巨大なトカゲの顔があった。


“キャァァ、デカい顔。ヤバいよ早く逃げなきゃ”

「キュュ、ガル。キュロロロロォ」


逃げるにしても取り敢えず卵から出る事にした子蜥蜴。

頭を出し、手を割れ目の隙間から入れて卵を引き裂くように左右に押し開いて殻から出ると、身体全体的に薄い膜が付いてベタベタしている。

取ろうとしてもなかなか取れない。


そこに巨大な顔が近づき口から舌が出てきた。

“キャァァァ食べられるぅぅ”

「ギャャャャャキュロロロ」


だが以外にも身体を舐められた。

前世で小動物の親子がするような行ないを自分がされている。


“親? 多分、親だよねぇ・・・”

「ガル? ルル、グルルル・・・」

((ガギグゲゴしか言葉が無いの‼トカゲの言葉はさっぱり分からないよ))


取り敢えず親は放置で、辺りを見回すと元少女。

((・・・暗い・・・洞窟かなぁ?))


周りを歩いてみると石や岩しかない。

洞窟もつきあたりみたいだし反対方向は出口のような感じで明るくなって見える。


出口の方へ向かってしばらくすると声が聞こえた。

(待て、そっちには行くな)


“何‼”と言ったつもりが「ガッ‼」と言って振り返ると超巨大なトカゲ・・・では無かった。


((角がある‼ 翼も‼ それに・・・角と爪が虹色に輝いているよ‼))


そこに居た存在は少女が転生する以前に一族から聞かされていた伝説の生物に酷似していた。


((龍・・・なの・・・?))

卵から孵化したばかりの自分と比べると、どれだけ巨大な事か。


((イヤッそうじゃない、今言葉が聞こえだぞ!))


振り返り首を傾げていると龍は、(さぁ、こっちに来い)と話しかけてきた。


うずくまる私の方に虹色をした爪を持つ手を差し伸べる巨大な龍。

この龍は多分親龍で自分はその子供なのだろうと思ったのは自然な発想だった。

現状ではそれが1番高確率・・・

((って言うか、それしか考えられないでしょ))


親龍の懐に入り改めて自分を見ると、親龍と同じ黒い鱗、爪は黒い。

((もしかして私は全身真っ黒な訳?))

自分では分からないが親龍の瞳に映る自分の顔は黒かった。

瞳の色も、小さな角も真っ黒だ。


((まっ、別に良いけど・・・それよりも言葉よ。さっきから口から出るのはガギグゲコだけでも親龍からは言葉が聞こえたわ))


言葉を話せない事を自問自答する元少女。

((何でだろ?生まれたばかりだから喋れない?だったら、生まれたばかりで言葉を理解して良いの?・・・分からない))


そこで冷静に考えてみた。

((龍が居ると言うことは、ココは前世とは余り離れて無い時代かな?))


前世にも龍が存在していたので同じ時代ではないかと考え出す。

((ココは何処なんだろぉ? 龍が居る所って、何処の山かな?))


そして次々に思いつく難題に困り果ててしまう。

((これからどうやって生きていくんだろ・・・食べ物に、龍の仲間。多種族との対立や戦闘・・・))


親龍の懐で悶々と考える元少女。

((ハァ〜もう将来が不安しかないよぉ・・・))

アレやコレや考えていたら寝てしまった元少女・・・だった龍の子。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



(おきなさい・・・我が子よ、おきなさい・・・)

“うっう〜ん”

「キュロロロ」


優しい声で起こされると、目の前に超巨大な龍の顔が迫っていた。

一瞬逃げ出そうとするも、虹色の爪で優しく塞がれてしまう。


((どうしようか・・・))

産まれて2日目の朝にして途方に暮れる。

しばらくして親龍と目が合う。

((うっうっ、この間がシンドイ・・・))


親龍は笑っているのか?グルグルと小さな声を出す。

(・・・・・・我が子よ・・・・聞こえているか?)


((ビックリだぁ‼ 衝撃的告白だよぉ‼ やっぱりあなたが親で私が子供ですかぁ‼))


(我の声が聞こえ無いのか?)

その質問に対して首を傾げている龍の子に親龍は答えた。


(これは念話だ。口ではなく、頭で念じるのだ)


((って、産まれたばかりの子供に念じるって解るか?普通。あっ今は龍か。念じてみようかな))


(・・・ま、・・・さん、・・・・・・、おか・・さん・・・お母さん)

(おぉ、我が子よ、我を創造主と理解してくれたのだな?)

(ハイ、お母さん・・・)

((ん? 創造主?))


やっと会話が成り立つようになった。

((これで親龍からいろんな事が聞き出せるわ))





親龍と念話で話していると始まりの龍、始祖龍である事が分かった。

今の所、理性の有る子供は私だけで、いずれ増やと言っている。

((ん? じゃ理性の無い子供がいるわけ? 怖っ))


そして、洞窟の外は・・・意外な事に劣悪な環境だった。

洞窟の出入口から見える景色は、見渡す限り噴火する火山が垣間見え、流れ出す溶岩の川が赤く輝いていた。

稀に噴火で燃える岩石が飛んでくるが、それはもう家と言うか洞窟でじっとしているのが一番安全だった。

おまけに空は雷雲で覆われ激しい稲妻と強酸性豪雨で非常に危険だ。


それでも稀に雷雲も無く火山活動も落ち着いた時があるのだとか・・・

ただし、晴れているからと言って安全では無く、幼い龍の子には強烈な太陽光線で火傷するとか言っていた。

一度コッソリ晴れた日の日射しに手を出したら見る見る鱗が盛り上がり、慌てて手を引っ込めた。

((あのままだったら、どうなってたんだろぅ))


(お母さん、今はどんな時代なの?)


帰って来た返事は時代と言う概念は無く、この場所は龍の子の知識には無い場所で、前世の記憶に無い環境に凄き不安だったので更に親龍に聞いてみた。


(今はコノ大地が・・・コノ星が形成されて、そこそこ時間が経っているはず)


((うぅっ、参りました。星が形成だってぇ? なによそれ・・・))


龍の子が持つ前世の知識でも、どうしょうもない事が判明したのだ。

結局、外にも出られないから念話でお喋りするしかなく続けて親龍は念話する。


(まだ知性の有る生命は我らだけ。だが、お前がもう少し大きくなれは兄弟を創生しよう)


(成る程、創生ですか・・・)


その時、素朴な疑問が産まれた龍の子。

【親龍はどうやって誕生?創生?したのか】

だが、なぜか怖くなってそれ以上聞くのを止めた龍の子は、取り敢えず考えない事にした。


((忘れよう。過去より未来。未来よりも今よ))



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



それから色んな事を話していた。


龍の子の質問・お母さんは産まれてどの位で今の大きさになったのか?

親龍の答え・覚えて無い。

理由・今までずっと1体で生きてきたので気にしなかった。


龍の子の質問・食べ物は?

親龍の答え・無い。

理由・この大地から湧き出る力を身体に吸収する。

((前世では魔素と言ってたモノかなぁ・・・))


龍の子の質問・お母さんの角や爪は虹色だ。目は金色なのに私は何故違うのか?

親龍の答え・始祖龍として長い時をこの星と共に生きてきた過程でいろんな力が身体の中に蓄積された為・・・だと思う。

((思うって・・・))

理由・その蓄積された力から、始まりの暗黒を集めて創生したのがお前だ。

((私って暗黒なのぉ・・・確かに前世は・・・))


龍の子の質問・私が勝手にお母さんと言っているけど、お母さんだよね?

親龍の答え・お前を創生したのは我だ。そのお母さん以外に何か存在するのか?


龍の子の質問・あぁ、うぅんっとお母さんでいいや。

((お父さんの説明が面倒なので誤魔化そう))

それよりも言葉が乱暴だけど何とかならない?

親龍の答え・我はその言葉と言うものを知らない。念話で語りかけているだけだ。


龍の子の質問・じゃ私が教えてあげるから覚えてね。

親龍の答え・解かった。



龍の子が教えたかったのは発声や発音では無く、念話で話す母親らしい話し方だ。

現在はどちらかと言うとお父さんのような乱暴で素っ気ない会話なので、転生前の母親を思いだし指導する事にした。

これからの生き方に前向きに切り替えた龍の子だった。


しかし、念話の途中で衝撃的な姿を再確認した。

親龍の瞳に映る小龍の姿を見て前世の自分を思い出す・・・

((私って暗黒龍なの? 転生前の姿とは全然違う・・・戻りたいなぁ・・・))


話し相手が居ると、小さな龍の子も今の自分が置かれた立場の気を紛らわせることが出来、動き回りながら念話をつづけた。

一方の親龍もずっと一体だったせいか、良く念話する龍の子を愛しく思い真剣に相手をしていた。


いろんな質問をしながら寝起きして生活していると時が流れていった。

前世の時間で置き換えれば10年ほどか・・・

食事をする必要が無いので、話す事に飽きるとちょくちょく”うたた寝”していた龍の子だ。

しかしこの”うたた寝”が思わぬ結果となった。


本人では無く本龍である龍の子は、前世と同様にお昼寝や惰眠をむさぼる行為で”大した時間”は寝て無いつもりでいたのだ。

だが実際は既に生後10,000年ほど経っていて、転生前の少女と現在の暗黒龍では精神と時の流れの感覚にかなりのズレとして生じていた。


またこの頃には雷雲は無くなり火山噴火もかなり少なくなっているので、朝や夕方は親子で散歩するようになっていた。

大地にはかなりの草や小さな木が生えてきて小さな生物が産まれて来た今日この頃。



そう言えば転生した頃は周りの環境、自分の立場に絶望と不安しか無く、この状況になる原因を作ったヤツの事を思い出して、怨み、憎しみ、愛しい者達に、夫と愛し合った記憶を思いだし幾度となく涙した夜を過ごしてきた。


今では稀に思い出す程度だけど、忘れないように定期的に思い出す努力をする。

それは生後間もなく親龍に隠れて魔法を使っての事だ。


夫や家族に教えてもらったり魔導書を読んで覚えた魔法が、この身体になっても使えるか実験したのだった。


龍の子はエスパシオ・ボルサ空間バックと念じた。

龍となった言葉では発動しないと思ったからだ。

だがそんな心配をよそに、前世と同様に前方に黒い空間が現れた。

だが、中には何も入っていなかった。


((おかしいなぁ、いろいろと入れてたはずだけどなぁ・・・転生すると中身が無くなるのかなぁ))


今度は頭を突っ込んで再度探して見た。すると

((なんだこれ))


真っ暗な空間の片隅にゴミが溜まっているように見えた。

ゴミと言うより・・・ホコリが溜まっているのだ。

それは良く探さないと見つけられないような小さな小さなホコリが幾つも集まって出来ていた。

瞬きしても吹き飛ばされそうなホコリたち。

だが、そんなホコリでも今の龍の子にはハッキリと何か解ったのだ。


それは魔法で記憶させる家族全員の肖像画だった。

転生前はそれなりの大きさだった肖像画も、今では注意して探さないと解らない程の小ささだ。

肖像画を見つけて溢れ出す涙と嗚咽。

そして、いかに自分が大きくなっているのか自覚したのだった。


その後、龍の子は親龍の目を盗んで肖像画を見る様になる。

今の自分を作りだした怨みを忘れないように・・・

いつの日か元に姿に戻り、家族に会う為にと叶わぬ願いを胸に秘めるようになる。

それからは、愛する夫と息子に家族の事は毎日欠かさず考えて思い出していた。


((愛する夫が怪我をしたと聞いていたのに・・・2度と会えない・・・息子にも・・・お父さんやお母さん、叔母様にも・・・))


たまに号泣する龍の子を心配して見る親龍だった。







成長日記

暗黒龍の誕生でぇす。

始祖龍(親)・・・体長は100km(頭から尻尾の先まで)始祖龍の年齢は不詳です。

(自分でもわかりません)成長は止まっています。

暗黒龍(子)・・・産まれたての全長は10kmです。

卵は12kmありました。生後10,000年で体長17km。


【物語の縮尺は、まだ文明が存在しないので”異世界の尺度”で考えてあります】

これからどんどん成長しまぁす。

転生前の時代から太古の時代の出来事。

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