第10話 なるほど、獣人だけに
二本足で歩き、顔は黒猫そのもの、皮の鎧のような物を身につけ帯剣しているようです。
瞳は金色、手の指は猫より少し長めで肉球はあるようです。尾がありますね。長く黒い尾が揺れていて足元は裸足です。
胸元が膨らんでいるように見えます。女性でしょうか、そうでしょうね。
“獣人ですね。よく来て下さいました。私はオーリスと申します。神界から参りました。御使いです”
私の識字能力で獣人さん達に通じるはずです。
獣人さんは私の前に跪きます。
「あたしは黒猫族にゃ。族長の娘の黒猫テリサにゃ。初めましてオーリス様、光栄だにゃ」
“語尾の「にゃ」禁止”
「にゃっ!?」
「オーリス様の言う事は絶対ですにゃ」
「そうだにゃー!」
「猫は僕らの天敵だにゃ!」
「フーーーッ!」
“眷属達よ、テリサさんを煽らないでください。テリサさん落ちついてください”
「こいつら失礼だに……です」
“この三体は私の眷属です。アインス、ツヴァイ、ドライと呼んでください”
「アインスです。よろしくお願いします」
「……」
「……」
「テリサに……です。よろしくに……です」
“眷属達よ、挨拶すら出来ないのならば還しますよ”
「私はしました! 私はしました!」
「ツヴァイ」
「ドライ」
眷属達に大人しくしておくように伝え、テリサさんに質問を始めます。
“テリサさん、何故ここにおられるのですか? 獣人は滅多に見られないと伺いました”
「獣達の様子がおかしかったに……です。それで何があったか確認しに来たに……です」
“あなた方の生活はどうしていらっしゃるのですか? 街や村が森の中にあるのでしょうか”
「森に村があるに……です。獣を狩り、果物を取ったりしてるに……です」
“ここから遠いのでしょうか、私を連れて行って貰えませんか?”
「ここからだと走って一日に……です。オーリス様は大丈夫だと思うに……です。他の人間はダメに……です」
「人間じゃないからセーフです」
「一日も走れないわよー」
「飛べばいいんじゃない?」
ほんの少しの時間も大人しく出来ない眷属達に、まぁいつもの事かと諦めます。
信徒同士はお互いに通じ合えますが、村の他の獣人さん達はまだ信徒ではありませんので何が起こるかわかりませんね。
黒騎士さんを見ると、だめですと首を振っています。
“村の近くまで私と黒騎士さん二人を連れて行っていただいて、その近くで黒騎士さんに待機していただくのはどうでしょうか”
黒騎士さんはそれならばと頷き、テリサさんは考え込んでいます。
「オーリス様……?」
「あたし達入ってなくなーい?」
「なんで! 黒騎士さんの方が好きなのかよ!」
「にゃ禁止を解いてくれるならいいに……です」
“いいでしょう、禁止事項を解きます”
「ふー! 疲れるにゃ! オーリス様は
「私はいつでもオーリス様と共におりますので」
「えー? なんで猫が決めるのー?」
「猫は黙っててよ!」
兎と犬の獣二匹を残して獣達を解散させ、黒騎士さんのひとりにヴォルブ様へ連絡に走っていただきます。
外業組織の五名には獣人さんの事は内密にと帰しました。
騒動が収まり王都門が開きそうですので、テリサさんが見つからないように街道から少し森へ入った所へ移動します。
「人間の足だと三日位かかると思うにゃ。食べ物とか持って行かなくていいのかにゃ?」
“信徒になりますと食事、睡眠は必要なくなります。大丈夫ですよ”
「にゃ! あたしもかにゃ!? 村のみんな食糧不足に苦しまなくて済むのかにゃ!?」
“そうなるのに三日ほどかかりますが、そういう事です。主に感謝を”
テリサさんと二人で並んで膝を折って祈りを捧げます。
「オーリス様と猫が仲良さそうなのですが」
「あたしも祈っとこー」
「猫がこの世から全ていなくなりますように」
残した兎と犬の獣をもう一度撫でます。“獣人さんを連れてきて下さりありがとう”と信徒になった獣にはわかる紋様を直接目の前に現出させます。
「何だにゃ! それ何だにゃ!」
“信徒になった獣に通じる紋様です。テリサさんを連れてきて下さりありがとうと伝えました”
「ほーほー! オーリス様はすごいにゃ!」
テリサさんは紋様と遊ぶように猫パンチをしています。
“テリサさんは獣に言葉が通じますか?”
「普通の獣には通じないにゃ。信徒の獣は何となく通じる気がするにゃ」
人と獣の信徒同士ではお互いが信徒であるという事はわかりますが、言葉は通じません。
テリサさんは通じる気がすると言います。獣人さんだからでしょうか、そうでしょうね。
“村には何名の獣人がいらっしゃるのですか?”
「十人くらいだにゃ!」
なるほど、獣人だけに……。いえ十名と言うのは少ないですね。
「なるほど、獣人だけに!」
「おもったー」
「ちょっと安直すぎない?」
私の思考は眷属達と同じ……?
“少ないですね”
「海を渡ったとこは差別がないってほとんどの者が行ってしまったにゃ」
そうでしたか、帝王国エランですね。村は海に近いのでしょうね。
“船で、ですよね? 船はどうしたのでしょうか”
「作ったにゃ!
“岩人ですか? 岩人とはどのような方でしょう”
「穴掘りと物を作るのがうまくて、この剣は村にひとりいる岩人が作ったにゃ」
誇らしげに腰の剣を見せて下さいます。
獣人さんの他に岩人と呼ばれる人がいるとは、書物には書かれていませんでしたね。
そうしている内にヴォルブ様に報告へ行っていただいた黒騎士さんが戻って来られました。獣人さんを信徒にしたのは驚いていたようですが、好きにやれと伝言を承ったそうです。
兎と犬の獣とはここで別れ、獣人さんの村へ移動を始めます。
私と黒騎士さん達は食事と睡眠は必要ありませんが、テリサさんには必要で途中休憩しながら向かいます。
眷属達は放っておいたら何を仕出かすかわかりませんので、獣の姿で付いてこさせています。
獣達に教戒をした時の浸蝕を解除しなければなりませんね。テリサさんの休憩を入れている時にしましょう。
“黒騎士さん、テリサさんはここで休憩をしていてください。眷属達は付いてきて下さい”
普段とは違う私の雰囲気のせいでしょう、黒騎士さんは戸惑いながらも承諾してくださいました。
テリサさんはお疲れのご様子で座り込んでいらっしゃいます。
「やはり私達が頼りになるという事ですね」
「猫は役立たずー」
「ばーかばーか」
「オーリス様、こいつら殴ってもいいにゃ……?」
眷属達を連れ休憩地を離れていきます。二十分ほど離れ眷属達に糧用の獣達を集めるよう伝えます。
孔雀アインスが獣の姿で羽を広げ、獣達を魅了し、蝙蝠ドライが音波で追い込みます。ある程度集まった所で梟ツヴァイが結界で囲み逃げられないようにしました。
“始めましょう”
眷属達はそれぞれ異形となり獣達を恐怖に陥れ、とどめに私の異形で獣達は全く動けなくなります。
獣達の恐怖を畏怖を絶望を吸い尽くし、私の闇がその者達を貪り尽くします。
甘美甘美甘美甘美甘美甘美。
「大変美味しゅう御座いました。ありがとうございます、オーリス様」
「はぁー、美味っしい!」
「久しぶりだしねー、放置されてたし!」
信徒である獣、そうでない獣も分け隔て無く糧になり、眷属達にも分け与え休憩地に戻りました。
「オーリス様、何をして来たにゃ。すごく恐ろしい物がいた気がするにゃ!」
テリサさんを見ると毛が逆立っています。少し震えてもいるようです。黒騎士さん達も怯えているようです。
“大きい獣がいましたので追い払いました”
「そ、そうなのかにゃ。感じた事のない物だったような気がするにゃ」
あまり気にせずに、と伝え休憩を終え歩き始めます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます