第4話 ヴォルブ様は魔王資質をお持ちです
貴賓室へ戻り侍女さんにお茶を淹れて頂きます。
毎回違う味と香りのお茶を用意してくださっているようです。美しい庭園を見ながらお茶を飲みます。ああ、美味しい。侍女さんはお茶を淹れるのが本当に上手ですね。
披露目前に話したい事があるとヴォルブ様に呼ばれました。
そのまま披露目に向かうそうですので、
案内の侍女さんが先頭を、私の後ろに護衛の黒騎士さんが二名付いてきてくださいます。
王の執務室だと言われる部屋に着きますと、扉の前にいた騎士さんに入室確認をしていただき、入室します。
侍女さんは貴賓室へ戻り、黒騎士さん達は執務室前で待機しておられるそうです。
「よう、オーリス! まぁ、そこへ座れ」
「オーリス様! ようこそいらっしゃいました!」
執務机で書類を読んでいたヴォルブ様とマリスさんが、気さくに声をかけてくださり着席を
執務机の前にあるソファーへ座るとすぐに、執務室専属なのでしょう侍女さんがお茶を淹れてくださいました。
広めの部屋で護衛と思われる騎士が三名いらっしゃいます。銀色の甲冑をつけておられます。近衛騎士でしょうか、そうでしょうね。
銀騎士さんと頭に入れておきます。
ヴォルブ様は書類を置くと私の目の前のソファーへ座ります。マリスさんはソファーの横へ立たれます。
「どうだ、楽しんでいるか?」
“はい、居心地の良いお城と部屋で快適に過ごせますね。どこで飲むお茶も美味しいです”
「そうか! 茶の葉は国の特産なのだ。輸出金額のほぼ半数を占める」
“それはすごいですね”
「まぁ裏を返せばそこを抑えられれば国は終わるな。その分警備に力を入れている」
“そうかもしれませんね。しかしどの侍女さんもお茶を淹れるのがお上手ですね”
「城の侍女になる時にまず茶の淹れ方を徹底的に指導するからな。礼儀作法、言葉遣いより先にだ」
“そうでしたか、ヴォルブ様もお茶を淹れられるのでしょうか”
「おう、淹れるぞ。機会があれば淹れてやろう!」
“ありがとうございます。楽しみにお待ちしております”
「私も! オーリス様へ特製のお茶を淹れて差し上げますぞ!」
“ありがとうございます。普通のお茶で結構です”
ヴォルブ様が少し身を乗り出してきます。ここからが話の本番のようです。
「今日の披露目の事だ。オーリスに全面協力するよう王命を出す、なんなら国教に定めてもいいぞ」
“ありがとうございます。国教はどちらでも構いませんが、まだ信徒が数えるしかいない状況で国教にすると教会が
「まぁそうだな。教会と親密な貴族がいるしな」
“今日は何名くらいお出でになるのでしょうか”
「おう、何人だ?」
ヴォルブ様がマリスさんへ聞きます。
「十二家、子息子女も合わせますと十九名ですな。他に黒騎士隊が警護に付きます」
「子も呼んだのか」
「はい、皆様にオーリス様のご尊顔を拝していただきます!」
「マリスはオーリスに心酔しているようだな!」
「はい、陛下今までお疲れ様で御座いました。今日からオーリス様が王になられます!」
“なりません”
「はっはっ! 代わってくれるもんなら代わってもらってもいいがな! まだやる事があるわ!」
“代わりません”
「まぁ
マリスさんが
“はい、護衛に付けてくださっている黒騎士さん二名と部屋付きの侍女さん二名、ダーラさん、ですね”
「そうか、意外と早い物だな。俺も信徒になっといた方がいいな、洗礼とかするのか?」
“いいえ洗礼は必要ありませんが、ヴォルブ様は信徒に出来ません”
「何故だ?」
“特別な資質を持つ方々は信徒には出来ません。ヴォルブ様は魔王資質をお持ちです”
「な! ま、魔王だと! 俺が!? 魔王になるのか!」
「魔王ですと! ……魔王とは何ですかな」
「あれだろ、悪魔達の王って事だろ?」
“違います。悪魔達の王は魔王資質がなくともなれます”
ヴォルブ王は神に反逆
特定の種族を従え、天界へさえも侵攻する事が出来るでしょう。
その為にもヴォルブ魔王には是非ご協力いただかなければなりませんね。
「魔王か……、魔王って人を殺しまくるのか?」
“ヴォルブ様、昨夜のお話と同じです。視点の違いです。魔王が悪と断定してはいけません”
「なるほど、そうだな! 俺が自分で言った事だな、しかし魔王って何するんだ?」
“特にしなければならない事はありません。魔王だからとは言え人間を
「そうなのか、皆が俺を殺しに来るかと思ったぞ」
銀騎士さんがヴォルブ様にそろそろお時間です、と告げられます。
式次第では私が最後に謁見の間へ入場するそうです。
「御使い様だからな! 王が待ってないといかん」
ヴォルブ様がそう言いつつマントを身につけマリスさんと執務室を出て行かれました。
しばらくのち黒騎士さんに謁見の間入口前まで先導されます。
「御使い様、入場されます!」
中から声が聞こえ大きな扉が開かれます。
ひとりで中へ入り赤絨毯の上をゆっくりと歩き進みます。
私には物の価値はよくわかりませんが、お金がかかっているでしょうという事はなんとなく伝わってきます。
ヴォルブ様の
赤絨毯左右には黒騎士さん達が並び、行く道を作ってくださっているようです。
その後ろに身なりの良い貴族と思われる方々、その御子息御息女がいらっしゃいます。
正面には三段ほどの階段があり玉座があります。
玉座も
ヴォルブ様は階段下で立ったまま私を迎えてくださるようです。ミーナ王妃、アルブ殿下、ミージン王女も階段下で待機しておられます。
ここでは王に
王族四名は入口方面へ一歩下がり跪きます。
「ようこそお出でくださいました御使い様。ロムダレン国三代国王ヴォルブ・ロムダレン、御使い様を心より歓迎致します」
ヴォルブ様のよく通る声でそうおっしゃると、途端ラッパの音が聞こえ始めます。
私はこくりと頷き、手で王に立つように合図をします。
音が止み、また謁見の間に静寂が訪れます。
ヴォルブ様が立ち貴族の方々の方を向かれ、大きな声で言われます。
「王命である!」
そう王が言われると私とヴォルブ様以外の皆が跪きます。
「ロムダレン国はオーリス御使い様に全面的に協力をする!」
私はサービス精神旺盛ですので、ここはそれを発揮する所だろうと思いました。
『
その時、天井から天使の
貴族達からどよめきが起こり、ミージン王女は心なしかこちらを
ミーナ王妃とアルブ殿下は放心されているようです。
天使は王の冠にそっと両手を添えキスをします。
もう一体の天使はミーナ王妃を立たせ、王妃に向け手のひらを上にし、光の祝福風の何かを捧げます。
実際には祝福はありません。見た目だけですね。
再度貴族達からどよめきが起こります。
予定にはなかった行動ですが、王様あとはお任せしますね。ニコッ。という感じでヴォルブ様に笑いかけると、苦笑しながらも声を発してくださいます。
「御使い様の祝福は成された! ロムダレン国に
その場にいた貴族の方々、騎士の方々全員がうおおおおおー! と雄叫びをあげ興奮していらっしゃいます。さすがは王、場をどう持っていけば良いのかわかっていらっしゃいます。
後は退場ですね。天使を還し、入口に向かってゆっくりと歩き出て行きます。私が出て扉が閉まると、再度皆様の雄叫びが上がりました。
護衛の黒騎士さん達は、満足そうにうんうんと頷きながら貴賓室へ先導してくださいます。
貴賓室へ戻りお借りしている騎士服に着替え、お茶を堪能します。
着替える時に確認しましたが、やはり両腕が浸蝕されていました。今日は使いすぎましたね。
しばらくするとヴォルブ様と王妃、マリスさんが来室されました。
「オーリス様! 素晴らしかったですぞ! 天使様が現れた時には、お迎えが来たのかと思いましたぞ!」
マリスさんがそう言いつつ
マリスさん、祈りは主に捧げましょうね。
「オーリス! 派手だったな! あれは聞いてないぞ! あの後、収拾がつかんかったわ!」
ヴォルブ様が文句を言いつつも嬉しそうに入ってこられソファーに座られます。
「御使い様。昨夜の夕食での物言い、大変失礼致しました。私、感動致しました! 素晴らしい体験でした」
王妃はそう謝罪し先程の情景を思い出すように、ほうっ……と息を吐かれつつ両手を合わせております。
“喜んでいただけて幸いです”
「ミーナが信徒になりたいと言ってな、連れてきた」
そうでしたか、形から入るような物ですがこういう入信の仕方もあるでしょう。
両腕が染まっている状態で非常に危険ですが、王妃の御要望を断る訳にもいきませんね。
「御使い様、正直申せば私は無神論者でありました。今日の御使い様の神々しさ、天使様の美しさ、優しさに触れ今までの自分を省みております。どうか私を信徒にお願い致します」
王妃が頭を下げつつそうおっしゃいます。
“許します”
『跪け!』
「はううっ!」
マリスさんがまたもや頬を染め、目を潤ませながら跪き祈りを捧げ始めます。その場にいた黒騎士さん達、侍女さんも同様に跪いています。ミーナ王妃はすぐさま跪き目をつむり、手を合わせました。
ヴォルブ様は「ぐっ……」と堪えながらソファーに座られたままです。
『主は唯一神であらせられる。改心せよ!』
ミーナ王妃に教典が流れ込み、取り込み始めました。
「ハァハァハァ……オーリス様……」
マリスさんが目を血走らせこちらへとゆっくり向かってきます。
黒騎士さんマリスさんをどうにか出来ませんか、出来ますかありがとうございます。
黒騎士さんは腰のポーチから小瓶を取り出し、マリスさんに向け中身を振りかけます。間もなく崩れ落ち寝息を立てているようでした。即効性の睡眠薬でしょうか、そうでしょうね。
黒騎士さんのおひとりが、マリスさんを肩にのせ
「ああ! 神を感じます! なんて素晴らしい!」
ミーナ王妃は教典の取り込みが終わり主に祈り始めました。
「これがオーリスのやり方か……
ヴォルブ様が驚いた様子で自分の手を見つめておられます。
手に汗をかいているようです。
目ノ前ノ人間共ニ絶望ヲ与エ、殺シテ喰ラオウ。
心地ヨイ、心地ヨイゾ、アア、喰ラウ喰ラウ喰ラウ。
「オーリス! どうした! おい!!」
気付くとヴォルブ様が私の肩を掴み強く揺すっておられます。
「おい! 大丈夫か! オーリス!」
ああ、私が私で無くなるところでした。
主よ、至らない私に天罰を。
“失礼しました。少し疲労を感じましたので放心しておりました”
「そ、そうか。オーリスじゃなくなったようだったぞ」
疲れているようだなゆっくり休め、とヴォルブ様と王妃は退出されました。
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