第45話 謁見

 アキたちが滞在している宿屋の料理は地球のものとよく似ており、アキとヨシミーには大のお気に入りだ。

 ハンナが戻ってきて以来、いつもは五人で朝食を取るのだが、この日はジェイがいない。

 

「今日はジェイさんは朝からいないんですねー」

「ジェイ様は今日は少々用事がございまして。ところで、皆様方、今日は何か予定はありますか?」

 コトミが尋ねる。

「いえ、ハンナさんも無事戻ってきたし、事件も解決したし。特に何もする事は無いですね」

「そうですか」

 コトミはほっとした表情を浮かべた。


 そこへ突然、騎士三人を従えた男がアキたちのテーブルに近づいてきた。執事然としたその人物は、現代で言うモーニングのような服装をパリッと着こなしている。騎士達は王城周辺で見かけたような立派な身なりだ。

「アキ様、ヨシミー様、ハンナ様でいらっしゃいますでしょうか?」

「……そうですが」

わたくし、王城からの使いの者でございます。お三方をお迎えに参りました」

 

 ヨシミーとハンナはキョトンとし、助けを求めるようにコトミを見た。

「皆さん、大丈夫です。私も一緒に参ります」

 アキは苦笑いを浮かべ、「やっぱりか」と一人呟いた。



 立派な馬車に揺られて移動する四人。

 街の中心部に近づくにつれ、そこに建つ立派な建物や店に飾ってある商品にアキたちは目が釘付けになる。

 アキは「あの服可愛いな、ヨシミーに……おっ?あのシルクハット被りたい!カバンは持たないのか?」など服に夢中だ。ハンナは「屋台が出てますー。なんか美味しそうですー」と食べ物を見ては、はしゃいでいる。そして、ヨシミーは「あ、ステンドグラス!」「おお、あそこに飾ってある絵が凄いぞ!」と芸術品に興味を示す。

 これまで街の中心部や王城周りを観光するチャンスがなかったので、全てが物珍しい。

 

 幾つもの立派な城門を通過し、王城の本丸へと馬車は進む。

 城内に入ってからも、執事の案内で複雑な通路を歩き、やがてアキたちは重厚な扉の前へと連れてこられた。

「国王の執務室でございます。関係者一同がこちらでお待ちです」

「え?」

 三人の声が重なった直後、扉が開かれた。

 

 アキたちが入っていくと、巨大な円卓の真正面に貫禄のある人物が座り、周りには、立派な服装の人物たちが既に着席していた。

 その中にジェイも堂々と混じっているのがみえる。


 アキたちが部屋に入ると、皆が一斉に席を立った。

 そして、正面の人物が声を出した。

「アキ殿、ヨシミー殿、そして、ハンナ殿。よく来てくれた。わしは『ヘインズワース』国王、ロバート・ヘインズワースじゃ」

 国王はそう言うと、にこりと笑う。

 

 続いてその横にいた宰相と言う人物が立ち並ぶ人たちを紹介した。

 当の宰相を筆頭に、閣僚や冒険者ギルドのギルド長などそうそうたる人物たちが並ぶ。

 そして、ジェイの番になった。

 

「俺は、サクラヤマ公爵家次男、Aクラス冒険者のジェイだ」

 ジェイは照れくさそうに、そう自己紹介した。


 国王が彼の言葉に続ける。

「実は、彼はちと特別な人物での。かつてのこの世界を訪れた四人の勇者の一人である正明殿と、我が妹ミラーディアの息子。それがジェイなのだ。わしのおいじゃの」


 その言葉に、アキとヨシミーは驚いた。

 つまり彼は、地球人とフィルディアーナ人のハーフなのだ。

「なるほど、それで地球や日本の事を知っていたのですね」

「アキさん、ヨシミーさん、黙っていてすまなかった」

「いえいえ、とんでもない」


 

 皆が円卓の席に着き、宰相から状況の説明がなされた。

 

 世界の危機であったブラック・スフィア問題の解決に対して、この国はアキたちに感謝する。

 冒険者ギルドは、王国内のブラック・スフィアの消滅を確認した。他国からも同じような報告を受けている。

 

「おそらく親玉のダリアが消滅したからであろう。ブラック・スフィア問題は解決したとみて良かろう」

 

 冒険ギルド長が続ける。

「ジェイは冒険者として我が王国のために密かに行動していたのだ。彼はブラック・スフィアの解明と処理のために、神殿ネットワークとそれが提供するホワイト・キューブ・システムの協力の元、世界をめぐっていたのだ。ジェイがそなたたちに出会えたのはぎょうこうであったの」

 そう言うと、はっはっはと大げさに笑った。


 そして、国王が再び口を開く。

「報告は聞いた。かつてこの世界を救った勇者と同じ世界からやってきた客人よ、そなたたちの帰還に協力しよう。王家の極秘情報である勇者の情報と神殿の場所などは後ほど宰相から聞くが良い」


 こうして、アキたちは最大の難関であった、帰還のための勇者送還の行われたという神殿への手がかりを得られるのであった。

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