第27話 予兆(1)
「あれ? おかしいな?」
朝、小屋から出たハンナ以外の四人は、小屋の前に
「アキさん、見てください! こんなに大きくなりましたー! 増殖魔法もパワーアップですよ! そしてきちんと制御できるようになりました!」
ハンナは満面の笑みで言う。朝から姿が見えないと思ったら、一人で魔法の訓練をしていたのだ。
「言っただろ? 甘いとこうなるんだ」
ヨシミーは無表情でじろりとアキを見た。彼女のその態度にアキは胸にチクリと何かが刺さるのを感じる。
雷ボールの一件以来、ヨシミーの態度が冷たいのを感じているアキは、あの時やり過ぎたと反省していた。彼女が怖がっている事を軽くみたことに罪悪感を感じたものの謝るタイミングが見つけられず、ヨシミーの目を見るたびに胸が痛いのである。
「うわ、凄いなハンナさん! 木をこんなに成長させるなんて難しいんだが、やるな!」
ジェイは成長した木をじっくり見て確認しながら、感心したようにハンナを褒めた。
「有り難う、ジェイさん。わたし、頑張りました!」
ジェイとハンナは、どういう魔法陣を使ったとか、どう制御したかとかを楽しそうに話し合っている。アキたちは、その二人の様子を優しく見守っているのであった。
曇り空の下、一行が丘を越えて進んでいるとき、セレが「ぴ!」っと鳴く。
「隠れるぞ! 暗黒球だ! 10時の方向」とヨシミーが鋭い声を発する。
何事かと驚くジェイとコトミだが、ヨシミーが指さした方角を見て、驚いた。
「あれは……ブラック・スフィアだ。しかもかなり大きい?」
近づいてくる暗黒球が一体。アキたちがこれまで見たものの中で一番大きい。
ゆっくりと回転しながら動いており、さらにそれが左右方向にリズミカルに変わり、まるでキョロキョロと何かを探しているかのようにみえる。
「あの暗黒球は何か変ですー!」
と突然ハンナが呟く。彼女から表情が消え、その暗黒球に何かを感じるのか目を凝らして見つめている。その様子にアキとヨシミーが気付いたが、切迫した状況で声をかけられない。
「コトミ、避難!」
「わかりました。皆さんこちらへ!」
コトミが三人を岩陰へ誘導した。
隠れた事を確認するや否や、ジェイが呪文を詠唱。
「ホワイト・キューブ!」
展開された魔法陣にアキは目を見張る。
(見たことのない展開方法ですね)
よく見ようと注視していると、立方体を囲むように展開した五つの魔法陣の内部に、小さな白い立体が出現した。
「白立体!?」アキが思わず声を上げた。
「アキさん、下がって!」
コトミがいつになく真剣な表情で彼を押し戻す。
「よし! 行け!」
ジェイが叫ぶと、魔法陣から5体の白立体が次々と現れ、暗黒球に向かって飛び出していく。それぞれの立体は、動き回る暗黒球を追いかけた。
暗黒球からは黒い花びらのミサイルが幾つも放たれるが、白立体は巧みな動きでそれを避ける。
白立体からは光の粉が吹き出し、ミサイルを迎撃、さらに動き回る暗黒球を狙った。
「くそ! ちょこまかと!」
ジェイは真剣な様子で両手を突き出し、これらの立体を制御しているように見えた。
額に汗を浮かべ、刻一刻と変化する戦況を的確に判断し、何かを操作するように動くジェイ。
アキたち三人はその精悍な彼の姿に驚く。
子供っぽいと思っていたが、意外に大人びたその様子をハンナはじっと見ていた。
突然、暗黒球が大きく高速で皆の周りを旋回し始めた。白立体が追いかけるも追いつかない。
「まずい! みんな、障壁を展開しろ!」
多数の花びらミサイルが放たれ、ジェイやアキたちに向かって飛んでくる。
コトミはジェイの近くまで戻り、彼の防御に徹するが、激しい爆発が巻き起こった。
アキたちも、自分たちに向かってくるミサイルに気付き、それぞれ障壁の魔法陣を展開し、攻撃に耐える。
辛うじて耐えた一同だが、どうしようかと互いに顔を見合わせた。
「ちょっとヤバいですね。これまでより強いですよ、あの暗黒球」
アキがボソリと呟いた。
「えーい、一か八かだ!」
ジェイが突然走り出す。さらに移動しながら別の魔法陣を展開、金の粉のビームを動く暗黒球に向かって連続して照射した。
さらに白立体を制御して暗黒球を取り囲んだ上で動きを封じ、ジェイが「くらえ!」とひときわ大きなビームを撃ちはなった。
それが直撃した暗黒球は爆発し、分解しながら消えていった。
「やった!」
ジェイはガッツポーズをする。
その後、それぞれが展開していた障壁を解除して安堵の表情を浮かべ、身体の力を抜いた。
ジェイが操作する白立体三体は破壊されたが、二体が無事に残り、彼の下に戻ってくるような動きを見せた。
だが、そのうちの一体が突然方向を変え、少し離れた場所に立っていたハンナに向かって光の粉を放った。
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