ポワリエ侯爵家のお家騒動 王国物語スピンオフ5

合間 妹子

序話 若主人の激白

注!:タグを良くご覧になってからお読み下さい。主人公たちの恋愛観や人生観について賛同できない、苦手な読者の方々もいらっしゃるかもしれません。

タグ 三角関係/二股/同性愛/両性愛/異世界/魔法/貴族/非嫡出子




― 王国歴1048年 晩冬


― サンレオナール王都




 ルイはそっと寝台から起き上がり、そこらに散らばっている自分と彼の衣類を拾い始めた。


「ねえ、もうちょっと居れば?」


「そうしたいのは山々ですが、人の目もありますし、明日の朝も早いですから」


「そんな、ルイ。最近、ねやの外では冷たくない? よそよそしくてさ……」


「……」


 ルイは彼と目を合わせることが出来なかった。


「あ、やっぱり? 自覚あったんだ」


「ですから……若様はどこぞの侯爵令嬢との縁談が持ち上がっていると聞きましたが……」


「えっ? 妬いてくれているの? そんな必要ないのに。縁談なんて俺が進めるわけないの、知っているでしょ」


 若様と呼ばれたルイの主人はそこで起き上がり、服を着ていたルイに軽く口付けた。


「けれど……貴方はご成婚の暁にポワリエの侯爵位が継げるではないですか。貴方の伯父様もお喜びになるでしょうし」


「やっぱり、色んな意味で妬いているよね。貴方の伯父様って言うけど、君の実の父親じゃないか……」


「私の感情などお気になさらなくてもよろしいのです」


「俺が縁談? 冗談じゃないよ。ルイとの関係を認めてくれた上で形だけの妻に収まってくれる、そんな奇特な貴族令嬢が居るわけないし。それに結婚したら周りが跡継ぎ作れってうるさくなるに決まっている」


「けれど、若様ものらりくらりと縁談をかわしながらいつまでも独身でいるわけにはいきませんよ」


「俺はただ気ままに生きていたい。侯爵位を継いで跡継ぎをさないといけない抑圧に耐えられる筈がないだろ? だって女性とその行為が出来ないのだから。それにルイの方が直系で爵位を継ぐ資格がある。貴族の血と伯父は言うけれど、何がそんなに大事なんだ? ルイだって貴族の血は半分継いでいるし、女性とでもイケるんだから子供を作れるだろ……」


 彼もそんな感情をルイにぶつけてもしょうがないとは分かっている。


「若様も高位の貴族の家にお生まれになると苦労されますね」


「ごめん、ルイ」


「お互い様ですよ。子は親を選べないですし、性的嗜好も選んで生まれてくることなんてできませんから……」



***



 ルイはポワリエ侯爵が侍女に手を付けて身籠みごもらせた子供だった。侯爵は嫉妬深い夫人に頭が上がらなかったのか、家の体面を考えたのか、ルイは認知されることはなかった。


 ルイの母親はルイを息子として育てると言ってくれたポワリエ家の元執事と結婚したのだった。そしてルイの一家三人はある貴族の屋敷に住むこととなった。それはポワリエ侯爵の妹が嫁いだ先で、彼らはルイの両親に仕事と住処を与えてくれたのである。


 ルイの本当の父親がポワリエ侯爵だということは公にされていないだけで、屋敷中の人間が知っている事実だった。ルイは従兄弟にあたる主人の子供達とも一緒に遊ぶことを許されており、長男とは特に仲良かった。


 その長男、ルイの若主人の方が一つ年上だが、子供の頃は彼の方がルイを慕っていたというのが正しかった。勉強が出来、剣の腕も立つルイは彼から尊敬されていた。彼は若主人の宿題を見たり、剣の相手をしたりと屋敷で良く一緒だった。


 しかし二人が十代半ばに入り、難しい年頃になるとその関係も変化してしまった。ルイのことをやたらと若主人がさげすみ、うとむようになったのである。


 彼は自分付きの侍女の代わりにルイを呼びつけ、身の回りの世話、部屋の掃除などを言いつけるようになっていた。ルイは主人である彼には逆らえず、大人しくこき使われる毎日だった。若主人はわざと洋服や部屋を汚し、ルイに後始末をさせることが続いた。




 そんな関係が再び転換期を迎えたのはルイが十六の歳だった。若主人の部屋にコーヒーを持ってくるのように言われたルイだった。


「ルイ、俺の前に立って頭を下げろ」


 言われるままにこうべを垂れたルイの頭になんと熱いコーヒーが注がれた。自分の髪から滴るコーヒーが床の絨毯に染みを作っていたのが彼の目に映っていた。


「まずい。コーヒーはもういい」


 ルイは怒りでも屈辱でもない、何か別の感情が沸き上がってくるのを感じていた。自棄やけになっていたわけでもなく、それは自分が若主人に反旗をひるがえし彼を征服しようとすることに対しての得も言われぬ快感だった。


「今まで我慢してきましたが、今日からはもう貴方にへつらうのはやめます」


「へぇ、そんな覚悟があるのだったらやってみれば?」


 ゆっくりと頭を上げ、彼の前に近付いたルイは若主人の胸ぐらを掴み自分に引き寄せてそのまま彼の唇を自分のそれで塞いだのである。


 彼は慌ててルイを押し返そうとするが、力ではルイの方が勝っていた。そしてルイはそのまま自分の仕える若主人を寝台の上に押し倒し、彼の上に覆いかぶさった。


「仰せの通り、覚悟は出来ていますから好きなようにさせていただきます」


 そして再び彼の唇を激しく奪った。


「や、やめ……」


「へぇ、軽蔑している男に押し倒されて唇を吸われて性的に興奮なさっているのですか?」


 ルイは彼の耳にそう囁き、主張し始めている若主人の体のある部分に片手を這わせた。そして彼の股の間に膝を割り込ませる。


「ち、違う。軽蔑してなんか……あっ、あぅ……」


 ルイは彼のベルトに手をかけて素早く外し、下着もずらし、ズボンを押し上げていた物を解放した。それを優しくもてあそびながら意地悪そうに若主人に告げる。


「ふふふ……抵抗なさらないのですか? 今大声で人をお呼びになったら私は即解雇、もう貴方の視界に一生入ってくることなどありませんよ」


「うぅ……ルイ……やめないで……」


 ルイはしてやったりという笑みを浮かべた。


「貴方がそう懇願されるなら、続けて差し上げましょう」


 そしてポケットからある物体を出した。


「これは先日この部屋を掃除している時に見つけたのですけれどね、他にも時々特定の性癖の人間が読んで楽しむ本などもね。もしかしてわざと私に発見されるように置いていたのですか?」


「そ、そんな……」


「へぇ、図星ですか? お望み通りこれを使って差し上げますよ。私も道具の使用は初めてです」


 ルイは散々若主人をらせて乱れさせ、実は自らも異様な歓喜に浸っていた。




 情事が終わった後、若主人は涙ながらにルイに謝罪した。


「ルイ……今まで悪かった。君への想いを自分でも持て余していて……誰にも言えなくて、どうにか絶とうとして、君に辛く当たってしまった。自分が世間に変態だと知れると思うと怖くてたまらなかった……」


 そんな若主人をそっとルイは抱きしめていた。


「いいのです、若様。私もそれは同じです。貴方を憎むことが出来たらどんなに良かったでしょうか。それに貴方が変態なら私はその変態を無理矢理犯して快感を覚えている変態の極みですよ」


 ルイそう言いながら自嘲気味に笑った。


「ルイ……両親には、それに特に伯父には言わないで欲しい……」


「言うわけありませんよ。逆に私が嘘八百を並べ立てていると責められてお屋敷から追放されるのがオチでしょう」



***



 それまで二人の間には従兄弟同士であると同時に主従関係しかなかった。その日からねやの中では二人の立場が完全に逆転してしまった。こうして始まったいびつな秘密の関係はもうかれこれ十年近く続いている。




***ひとこと***

注意書き通り、こんな始まりで申し訳ありません!

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