性悪感傷
佐藤 田楽
性悪感傷
夜の風景が変わったのはいつからだろう
同じ場所、同じ景色なのにそれがえらく魅力的に視える
昔は慄き怯えていたのに
目を瞑り背けるほどに邪悪だったのに
今はそれが酷く幽玄に、幻想を体現するように染まっている
それが背徳なのだろう
夢の溶かす先に化していた
蛍光灯では創れない
太陽の光には分からない魅力が月のフィルターを通した月光には有った
ただ冥い中、人の音が止んだ中に深淵は成していた
それは本来の自然の形を写しだし、そこに独り居る不協和の自分だけが失せ者のように外道の路に流されていく
揺れる木の葉が俺を許さなかった
溶け込む酒気がそう語った
沈む空気が俺を求めなかった
流れ込む邪煙がそう呼んだ
後悔はない
反省はある
しかし、これが後の人生にどう組み込まれて行くのか
興味が湧く
悪ではない
その本質はもっと無惨だから
正義は死んだ
かつて道を踏み外した時点で、そんなものは振り払った
もとよりこれらは対極ではない
表裏混合だ
しかしこれらで比べるのが、今の俺にはきっと正しいのだろう
「こんなの余裕だよ」
なんて嘯くこの心はなにも変わっちゃいない
あの頃となんら変わっちゃいないのだ
そう自分に言い聞かせているだけ
根本が変わった
だが知らない俺が俺を動かしているのを、未だ体感しているではないか
居着く悪魔が心地よさそうに微笑み
俺は吐いた煙を月光に晒してみせた
煙の中に、ほんの少しだけ、微塵にも満たぬくらいほんの少し
一筋、光が見えた
ーーー性悪感傷
性悪感傷 佐藤 田楽 @dekisokonai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます