第34話 揺れるハンモック(1)


 兵士たちが眉をひそめた。

 なぜなら、いつも笑顔のキッド殿下が、鬼の如くの顔で婚約者であるテリー・ベックスを引きずって歩いているからだ。

 兵士たちは声をかけないほうがいいと判断し、温かい目で遠くから見守ることにした。


(……いや、助けて……)


 あたしはキッドのテントにもどってきた。


(さっきはあたしをおちつかせるために連れてきたくせに)


 今はキッドの理性がボカンボカンと爆発しては噴火しては火山灰を破裂させている。


(……クレアを知らない兵士もいるんでしょ……)


「キッド」

「あ!?」

「……あなたがそう呼べって言ったのよ。きかれるかもしれないからって」

「ああ! そうだね! おれはキッド! みんなが大好き王子さまだ!! あはは!!」

「……」


 キッドのスイッチがなかなかオンに切り替わらないクレアが髪を掻き乱し、椅子を蹴り、一度外に出て、木を殴って、兵士たちが悲鳴をあげたのを聞いて、またテントに戻ってきて、倒れた椅子を起こして、座って、イライライライライライラしたように貧乏ゆすりを始めた。てめえはアリスか。アリスの貧乏ゆすりならわかるけど、てめえはするな。王子さまでしょうが。こっちまでイライラしてくるのよ。アリスの貧乏ゆすりは愛おしさすら感じるけど、てめえはムカつくのよ。ほら、キッドのスイッチ入れなさい。ポチッとな。


「はぁあああああ……!」


 クレアがまた立ち上がって椅子を蹴飛ばし、ハンモックに倒れた。ぶらぶら揺れて、クソ、とか、チッ! とか、いちいちうるさくきこえるように言ってくる。


(このモラルハラスメント者め……)


 あたしは椅子を起こし、そこに座った。


「クレア」

「あたくしだけって言った!」

「……」

「浮気者!」

「……」

「きらい!!」

「……ハニー」

「きらいだから!!」

「……あなた今年でいくつになるの?」

「ふん!!」

「記憶のないあたしを口説いてたあなたはどこ行ったの?」

「ふんだ!!!」

「……将来の話をするんじゃなくって?」

「……」


 クレアが振り返り、じっとあたしを見た。そして、ハンモックに来るよう手招きする。


(……狭いのに)


 あたしがハンモックに乗ると、ハンモックがゆらりゆらりと揺れて、クレアがあたしに添い寝する形で寄り添い、じーーーーーーっとあたしを見た。


「……なに?」

「愛してるって言って」

「愛してる」

「ふん! 気持ちがこもってない愛してるだな!」

「……クレア、愛してる」

「あたくしが言わないと、愛の言葉すら言わないのだな! はっ! 良いご身分だな!!」

「クレア」


 そっと頭をなでる。柔らかい髪の毛だこと。顔はお怒り。


「ね、あたしのクリスタル。……おちついて」

「チッ」

「ね?」

「そうやってなだめれば済むと思ってるんだろ」


 クレアがあたしに顔を寄せてきた。そして、……乱暴に唇を塞がれる。


「んっ」


 手首を掴まれ、ハンモックに押さえつけられ、キスをしたままクレアがあたしに馬乗りした。


「……ん……っ……」


 全然離してくれない。


(息……)


 膝を上げて、クレアにとんとんと叩いてみた。


(あの、息が、もたないから……)


 クレアが無視した。


(ね、ちょ……)


 キスを続ける。


「っ」


 クレアが口を離した。


「ふはっ、げほっ! げほっ!」


 クレアがまた唇を塞いできた。


「んっ、げほっ、んぐっ」


 クレアが押さえてこんでくる。


(ちょ、ほんとに、苦し……)


 あたしは自分から口を離し、顔をそらした。


「クレア、ちょっ……」


 今度はあたしの顎を押さえてきた。


「ねえ、クレア……」


 また乱暴なキスを。


「んっ、んぐ、ふはっ、ちょ……」


 クレアが体重を乗せてくる。


「苦し……」

「あたくしはもっと苦しいぞ。どうだ。浮気をした気分は」

「浮気じゃないって……」

「脱げ」

「は?」

「愛してるなら脱げるだろ! 脱げ!!」

「えっと……」

「……っ!!」


 イラッとしたクレアがあたしの胸元を掴み、思い切り引っ張った。


「ぎゃっ!!」


 ボタンが弾け飛び、あたしの着ていたキャミソールが丸見えになる。


「ちょっと! クレア!!」

「黙れ!!」


(ちょ、ちょ、ちょっと、ちょ……!!)


 クレアの手があたしからシャツを脱がした。


「ちょっと、落ち着きなさいって!」


 クレアがあたしのキャミソールのなかに腕を突っ込ませた。


「うぎゃあああ! この、えっち!!!!」


 ブラジャーのホックが外される。


「あば、ばばばばばばば!」


 揺れるハンモックから色んなものが落ちていく。あたしの身につけていたパンツ。ブラジャー。靴。靴下。髪の毛を結んでいたゴム。

 ハンモックがまたギシギシ音を立てて、クレアの着ていたシャツと、パンツと、靴と、靴下を落とし、――サラシを落とした。


「クレアッ! クレアッ!! たんま! タイム!」


 ハンモックから抜け出そうとするが、腕を引っ張られる。


「ちょっ、だれか! だれか!!」

「ん、社長?」


 異常に揺れてるテントと助けを呼ぶ声を聞いて、普段は紹介所で働いてる兵士が布をめくった。


「テリーさま、どうかされまし……」


 ――ハンモックにあられもない姿で押し倒されているあたしと、その上に乗っかっている『キッド』の姿、そして、ハンモックから落とされた衣類を見て――兵士が固まった。

 兵士に振り向いたキッドがにこりと笑って、言った。


「邪魔しないでくれる?」

「失礼いたしましたぁぁぁああああああ!!!」

「いや助けてぇえええええええええ!!!」


 顔面を真っ赤にした兵士が慌てて布に張り紙を貼った。絶対立入禁止。もうおれ、お嫁に行けない……! おい、どうかしたのか? なんでもないよ! もう!!


「あんた、見られたんじゃないの!?」

「大丈夫だよ! タンクトップ着てるから!」

「きゃあ! 男もののボクサーパンツ! なにそれ! どうなってるの!? 大事なところがとんでもなく立体的に膨らんで見える!」

「くっくっくっくっ! 大きなイチモツに見えるだろ!!」

「胸はないくせに!」

「うるさい!!」

「一旦落ち着きなさい! ここがどこかわかってるの!?」

「テントのなかだな! ハニー!」

「あたしになにをする気!?」


 キッドの手が伸びた。あたしは悲鳴をあげた。


 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!








 ぎゅっ。……と、抱きしめられた。




「……」


 それはそれは、抱きまくらのように。


「……」


 それはそれは、マールス宮殿に用意されている彼女の部屋にある、巨大なテディベアのように。


「……」


 クレアが、あたしを腕のなかに閉じ込める。


「……ねえ」


 あたしはハニーのほっぺを、つん、とつついた。


「ハニー、こっち見て」

「……」

「あたし、あなたを愛してるわ。……だから断ったでしょ?」

「……」

「ねえ、むくれないで。ハニー」

「……」

「……ん」


 クレアのほっぺに唇を押し付けた。ちゅう。


「……あたくしは……二番目じゃない……。貴様の……運命の相手だ……」

「ええ、そうね。はいはい」

「……もう一回、して」

「ちゅう」

「愛されてるのはあたくしだ。なのに、あの女、ねちゃねちゃと色目を使ってきやがって……」

「はいはい、そうね」

「別に、あたくしは愛しくて可愛いメニーのことを言ってるわけではない。貴様を奪おうとしているあの女のことを言ってるのだ」

「はいはい」

「ダーリンだって、あたくしが好きだろ? 愛してるだろ? 夢中だろ?」

「ええ。あたし、あなたに夢中だし、あなた以外眼中にないわ」

「そうだろ? じゃあもう一回キスして」

「ん」


 あたしはクレアの唇に押し付けるだけのキスをした。ふに。


「ダーリンはあたくしに夢中だから、それ以外には興味ない。だろ?」

「ねえ、いい加減、機嫌直して。愛してるわ。クレア」

「ずっと愛してるってなに? 言ったの?」

「過去の話よ」

「言ったのか?」

「……若かったのよ。あたしもテンション上がってたの。リオンがメニーを迎えに行く前日にね、こなかったらこのまま田舎に避難しようかって話になって、メニーの幸せを奪えるって思って、うれしくなってどうかしてたのよ」

「キスしたのか?」

「ああ……」

「したの?」

「……気がついたらしてたみたいな……」

「したんだろ?」

「……そうね。した」

「……」

「……この世界になってからの……初めては、キッドで間違いないわ」

「……」

「ちゅ」

「……もう一回」

「ちゅう」

「メニーを虐めたくせに、キスしたのか?」

「そうよ」

「神経を疑うな」

「そうよ。あたし、おかしかったの」

「メニーを家族だと思ってたのか?」

「……」


 嘘を吐いたら、もっとクレアに叱られそう。


「……妹がほしかったの」


 あたしはクレアの二の腕をつまんだ。ぷに。


「言ったことあるっけ? ……アメリは、可愛いものが好きだった。だから人形は全部アメリのもの。コレクションにしてたわ。あたしのもらった人形も、アメリに全部取られた。だから、あたしはテディベアにしてた。絶対取られないから」


 でも思ってたわ。


「あたしも、お人形さんがほしいって」


 妹。


「妹って、いいわよね。年下で、経験不足で、世界を知らないから、言葉をうまく使えばなんでも言うこと聞いてくれる」


 妹。


「姉妹ごっこがしたかったのよ」


 あたし、妹ができたら優しいお姉ちゃんになるわ! ぜったいアメリみたいな意地悪にはならないんだから! だからお願い! 女神さま! あたしに妹ちょうだい! このとおり!


「メニーが来たとき、……そうね。あんまり覚えてないけど……たしかに、舞い上がってたわ。やっと」


 あたしの願いが叶って。


「……大切だったわ。すごく」


 でも、子どもは親を見るでしょう?


「ママはメニーの美しさに嫉妬した。あたしも、アメリもそうよ。あんなきれいな子、許せないじゃない。前までは、ただの平民だったのに」


 お金がある父親がいるから面倒見てやってたのよ。


「だから、灰をかぶらせてやったのよ」


 自分たちの尊厳を守るために。

 自分たちの価値観を守るために。

 あたしたちは貴族であって、この女よりも美しいから大丈夫って言い聞かせるように。


「立場をわからせてやったのよ。家族全員でね」

「でも」


 クレアがせつなそうな声を出した。


「それでも、お前は愛してたんだろ」

「……」

「ベックス夫人がメニーをそんなふうに扱わなければ、……お前、どうだった?」

「……黙秘権は?」

「ここで言わないともやもやするのはお前だぞ」

「……怒らない?」

「ああ。聞いててやる」

「……あたし、ほんとうにばかだから、確実に」


 メニーが家族に受け入れられていたのであれば、


「あの子が屋敷から出ていくまで、ずっと可愛がってたと思う」


 だって、


「アメリがしてくれないこと、あの子が全部してくれるから」

「一緒にお風呂入ったり」

「一緒に寝たり」

「一緒に絵本読んだり」

「一緒にヒーローごっこしたり」

「一緒にブレスレット作ったり」

「あたしがどんなに自慢しても、すごいって顔して見てきて」

「あたしの言うこと全部従うんだから」

「イヌみたいじゃない」

「遊び相手にはもってこいだわ」

「考えてたわ。妹ができたらドレスを一緒に注文しに行く」

「ママに秘密ねって言いながらアイスを食べ歩きする」

「それで、妹が思わず足を止めて、ショーウインドウから見えるガラスの靴を見つめるの」

「すごくきれいな靴で、すごく高価なやつ」

「あたしはそれを平然な顔で買ってあげるの」

「そしたらばかみたいに妹が喜ぶのよ」

「……そんな優しいお姉ちゃんになるって思ってた」


 実際は、優越感に浸りたいだけ。

 承認欲求を満たしたいだけ。


「子供の頃は、幸せだったわ」


 そんな気持ちの存在自体、知らなかったんだから。


「貴族ではよくある話。連れ子を雑に扱うなんて」

「ああ。……そうだな。多くは寮のある学園に閉じ込めるものだ」

「……メニーの扱いは、……迫害にも近かったわ」

「……」

「屋根裏部屋に住んでたの。夏は熱くて、冬は寒い。それこそ、8才のときから」

「……」

「あたし、ばかだったのよ」


 黙って、ママの言うことをきいてればよかったのよ。


「罪悪感なんて感じなければ、毎日楽しかったのに」


 ママとアメリにばれないように、メニーを救い出す方法を考える。四つ葉のクローバーのノートに一から千まで方法を考える。千を過ぎてもひらめいたらまた書き綴っていく。このノートは絶対に誰にも見られてはいけない。だから引き出しの奥に隠した。本棚の奥に隠した。大人に告口した。理解ある人は助けようとしてくれた。でも、そういう人に限って、あたしの前から消えていった。メニーの味方はあたししかいない。あたしがなんとしても守らないといけない。でもママはあたしを愛してくれる。アメリだって、あたしを家族として愛してくれてる。だったらどうしてメニーは愛しちゃいけないの? メニーは家族でしょう? どうしてメニーは舞踏会に行ってはいけないの? そんなのおかしいじゃない。ねえ、もっとメニーに優しくしてあげよう? あたしの妹なのよ。血が繋がってないと家族じゃないの? ねえ、ママ、どうして? どうしてそんな意地悪するの? お金がないなら、あたし、お菓子、我慢するから。ねえ、お願い。怒鳴らないで。こわいの。ママ、悪魔にならないで! メニーを虐めないで! メニーが泣いてるわ。ねえ、お願い。苦しいわ。ママとアメリが乗っかってきて、メニーも乗っかってくるの。ねえ、助けて。ねえ、どうしてみんな死んじゃうの? どうしてだれも助けてくれないの? ねえ、イライラするの。ねえ、メニー、イライラするの。ぶつけていいよね? あたしこれだけあんたのこと思ってあげてるんだから、ぶつけていいよね? えい! あはは! たのしい! メニーに気持ちをぶつけるとたのしい! えい! あはは! メニー! えい! あはは! 泣け泣け! もっと泣け! あはは! どうしよう。メニーが泣いてる。ごめんね。メニー。ごめんなさい。ああ、あたし、ほんとうになんでいつもこうなんだろう。ごめんなさい。メニー。そんなつもりじゃなかったの。ごめんね。これ、あげる。ごめんなさい。だからもう泣き止んで。ああ、ママの怒鳴り声。ああ、またアメリから意地悪された。ああ、またメニーの悲鳴。ああ、ああ、ああ、ああああああああああああああああああ。




「蛙の子はしょせん蛙よね」

「あたし、善人はなれない」

「メニーなんて嫌い」

「ママも、アメリも嫌い」

「自分が助かれば、それでいい」



 あたし、自分がかわいい。

 あたし、自分が大きらい。



「人に思いやりを持てなんて、あたしは子どもに教えないわ」

「真実の愛なんてない」

「思いやりなんてまぼろし」

「自分が優位な立場になるために、人を利用しなさい」

「自分の感情も、心も、全部が利用材料」

「それを大人になるまでに身につけなさい」

「これが一番よ」


 一番、自分を守るために必要なこと。


 傷つかずに済む方法。



「ひねくれてるな」

「あなたに言われたくない」

「ダーリンの声をきいてたら、冷静になった。……メニーはとんだ不幸な女の子だ」

「ええ。うちにきたのが間違いだったわね」

「可哀想」

「美人だったあいつが悪いのよ」

「ふつうは恨むだろうな」

「上等よ」

「でもメニーはお前を愛してる」


 お前が血を流しても、血の湖を作っても、それでも、ずっと、ずっと、あの子を守ってきたから。


「……血なんか流してないわ。ほら、見て。今日もあたし、最高に美しい」

「ダーリン、……浮気の件は許してあげる」

「だから、浮気なんてしてない」

「あたくしはメニーに貴様をあげる気もない。貴様はあたくしのものだ」

「いや、あたしはあたしのものよ」

「一夫多妻制なんてぜったいしない。あたくしにはダーリンだけ」

「ええ。賛成」

「ダーリン」

「なーに? ハニー」

「純粋だな」

「だれが?」

「テリー」

「そうよ。あたしは繊細で純粋な乙女なの。大事にしてね」

「まっすぐで不器用。ばかだから他に道があることにも気が付かない」

「悪かったわね。ばかで」

「メニーはそんなお前の背中をずっと見てた」


 気持ちは、わかる気がする。


「メニーがお前を愛するのも」


 メニーはとても優しい。

 メニーはすごく優しい。

 自分を助けてくれなかった他人はどうでもいいけど、

 恩人のことだけはなんとしてでも守りたい。


 テリーがもう一度笑ってくれたらそれでいい。

 たとえ、テリーに恨まれても。


「……ああ、なんて複雑な心境だ。あたくしはメニーに同情する。この罪づくり」

「うるさい」

「そうだな。あたくしがあの子を外に連れ出してやろう。いろんなものを見せて、訓練も数を増やして会う機会を増やしてやろう」

「そうよね。メニーの話をしたらみんなメニー側につくのよ。あいつのなにがいいのよ。ただかわい子ぶってるだけでしょ。ふん。だからあいつなんて嫌いなのよ」

「ダーリン、怒らないで。あたくし、事情を知らずに嫉妬してたわ。ごめんね。これからもあなたを信じてるわ。メニーは可愛いあたくしたちの妹。愛してるわ。ダーリン」

「けっ!!」

「ああ、シャツ一枚のあなたも素敵。ちゅっ」

「これ完全にあなたの趣味でしょ。なんでシャツだけ脱がせないのかなって思ってたけど」


 あたしはちらっと腿に当たるそれを見た。


「ねえ、その膨らみどうなってるの? まさかほんとうにあるの?」

「いや、それっぽい素材を入れてるだけ。触ってみる?」

「……。うわ……」

「ほんとうにこんな感触なんだって」

「触ったことあるの?」

「いや。ないけど、……スペード博士に作ってもらった」

「ああ……」

「キッドの身につけてるものは全部スペード博士だ。サラシも、胸の形が崩れないようなものを作ってもらった」

「惜しい人を亡くしたわね」

「ほんとうだ。全く。……でも、今はクラブが全部作ってくれてるから」

「……にしても、大きくない?」

「これくらいあったほうが見られたときにいいだろうって」

「……ふーん……」

「安心しろ。……脱いでないから」

「いつから履いてるの?」

「17くらいからかな」

「……あたし」

「ん?」

「これ……見たことあるわよね……?」

「……」

「……いつだっけ……?」


 あれはたしか……。


「ハロウィン祭の前……?」

「……」

「ほら、あたし、居候してたときよ。キッドの家で……」


 そしたら、なんか、


「あれ?」


 あたしは眉をひそめた。なに、この記憶。


「……あたし」


 なんで、キッドのタンクトップ姿、


「見たことあるの……?」


 その瞬間――ずっと閉じられていたドアが一気に開け放たれたような気がした。あたしの頭に、隠れていた思い出がふわっとよみがえる。


「……あ?」


 ――テリー、ここ、気持ちいいだろ?

 ――んっ……!


 ……あれ?


「なんか……」


 あたしは険しい顔でクレアにきいた。


「……あたしたち、……触りあった……?」


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