第5話 当店自慢のウミガメのスープ
(‘ω’ っ )3
――気がつくと、あたし達はレストランにいた。あたしとアリスがお互いの顔を見合う。向かい合った木材の椅子に座り、目の前に設置された木材のテーブルには、ウミガメのスープが置かれていた。
(……どうしてウミガメのスープなんてあるの?)
「ニコラ、これは悪夢だわ」
平然としたアリスが言った。
「だって、見て。スープの中に指が入ってる。気色悪い。でもこの感覚、切り裂きジャックを思い出すの。同じ感覚よ。きっと私達、悪夢の世界に来ちゃったんだわ」
あたしはスープを見た。本当だ。ウミガメのスープなのに、人間の指が入ってる。これはとても飲めないわね。
(そっか。これは悪夢なのね)
だって、目の前にアリスがいるんだもの。
(……あたし、なんで悪夢の世界にいるのかしら)
あたしとアリスはひとまず飲めそうな水を飲んだ。
レストランにいた客がウミガメのスープを飲んだ。とても美味しい。
一人座っていた男は紙をテーブルの端に置き、ウミガメのスープを飲んだ。飲んだ瞬間、眉をひそめ、店員を呼んだ。
「すみません」
「はい」
「私はウミガメのスープを頼んだのだが、これはウミガメのスープなのかい?」
「ええ。当店自慢の、ウミガメのスープです」
「ふむ」
男がウミガメのスープをすすった。
「お客様、何か問題でもございましたか?」
「以前食べたものと、味が違うんだ。……おかしいな」
男がウミガメのスープを飲んだ。
「これは本当にウミガメのスープかい?」
「ええ。ウミガメのスープですよ」
「うーん」
男が不安そうに眉をひそめた。
「なんだか、味が違うように感じるんだ」
「お客様、ご気分でもお悪いのでは?」
「お気遣いありがとう。でも、そうじゃない。なんだろうな。なんというか、……これは、ウミガメのスープじゃないように思えるんだ」
男はとても不安になってきたが、両手をもぞもぞさせて、再びスープを飲んだ。
「なんだか、妙な味のする肉だね。これはなんの肉かね?」
「こちらはウミガメの肉になります」
「そうかい。なんだか変わったウミガメのスープだね」
「ニコラ、さっきからあの人、様子がおかしいわ」
「……あの人って?」
「ちょっと行ってくる」
「アリス?」
アリスが立ち上がり、男の側に寄った。
「こんにちは」
「やあ、どうも」
「どうかされました?」
「ウミガメのスープを味わっているんだけどね、以前食べたものと違う気がするんだ。私の舌がおかしくなったのかな?」
「ちょっと失礼」
アリスが未使用のスプーンを持って、男の飲んでいたスープを一口すすってみた。すると、アリスが顔をしかめて、スープを吹き出した。
「ぶほっ!!」
テーブルの端に置いてた紙に、アリスの吹いたスープが付着した。
「やだ、大変」
アリスが咳をしながら紙を手に持った。
「げほげほっ、ごめんなさい、わざとじゃないの。ああ、どうしよう」
「アリス」
あたしは急いで駆け寄った。
「大丈夫? どうしたの?」
「ニコラ、どうしよう。汚しちゃった。ごめんなさい。私、不味すぎて我慢できなくて……げほげほっ!」
あたしは汚れた紙を見た。――手書きの『楽譜』だった。あたしが眉をひそめると、アリスが申し訳なさそうな顔で振り返った。
「ごめんなさい。汚しちゃって、あの……本当に、わざとじゃないんです……」
「アリス、誰に話しかけてるの?」
「何言ってるの。ニコラ、この人よ」
「この人? この人って誰?」
「そこにいるじゃない」
「誰が?」
「え?」
あたしとアリスがきょとんとした。あたしは席を見た。空っぽの席には誰もいないし何もない。ただ、この楽譜だけがあたしの手の中にある。
――ここにもあったようだな。楽譜。
(楽譜……)
――おい、いい加減気付け。ここはどこだ。
ここは悪夢。
(いや、違う……)
悪夢じゃない。
(ここは……)
中毒者によって作られた異空間。
(……アリス!?)
あたしの脳がはっきりと覚醒した。どうしてアリスがここにいるの!?
「……」
アリスが急に黙り、あたしの後ろを見つめる。あたしはその目を見て――なんだか嫌な予感がして――楽譜をポーチバッグの中に入れてから――深呼吸し――後ろへ振り返った。
そこには、血で彩られたテーブルと、人の指が入った赤いスープと、席には、頭と骨と足だけを残して、それ以外がなくなった男の死体が置かれていた。
「っ!」
あたしはすぐに呆然と固まるアリスの手を引っ張った。しかし、次の瞬間、
「きゃっ!」
「っ!」
アリスが悲鳴をあげた。レストランの天井から滝のように潮水が降ってきたのだ。地面に当たって弾けて流れる水の激しい音に、アリスが驚いて耳を塞いだ。しかし、ここで立ち止まってはいけない。あたしはアリスを引っ張ってレストランの出入り口まで急いだ。
「っ」
どうして? ドアが開かない。あたしは取っ手を強くひねる。
「畜生!」
水が降り、レストラン内に溜まっていく。血が水に混じっていく。水がどんどん増えていく。あたしはドアを蹴飛ばした。
「この!」
開かない。
「なんでよ! なんでよ!!」
開かない。
「くそ! くそ!! くそ!!!」
「ニコラ!」
アリスが叫んだ。
「退いて!」
「えっ」
アリスが壁に飾られていた斧を持ち、掲げて振り被った。
「っ」
あたしが水に足を滑らせて転んだと同時に、斧があたしの頭があった場所に振り下ろされた。アリスがそれを抜き、また振り下ろした。
「らああああ!」
アリスが再び振り下ろせば、ドアに穴が開いた。そこから無理矢理アリスが手を入れ、外からドアの取っ手をひねらせ、ドアを開けた。開いた途端、水が外に流され、あたしは呆然とした。アリスが斧を地面に投げ、あたしに声を張り上げた。
「ニコラ! 立って!」
「……う、うん……」
勇敢なアリスに手を差し出され――多分悪夢だと思ってるから――それを掴んで立ち上がり、二人でレストランから出ようとした瞬間、――背後に気配を感じた。
「……」
二人で一緒に振り返る。その先には、俯いた人影。いや、人ではない。それは魚である。否。魚ではない。それは人である。否。それは、人であり、魚である。
俯いたセイレーンが顔を上げた。まん丸おめめがキラキラ輝いて、可愛くて不気味な赤ん坊があたし達を見た。途端に、顔をくしゃくしゃにして、不機嫌な顔をした。
「おんぎゃっ」
あたしは息を呑み、アリスを引っ張った。
「ほぎゃっ」
きょとんとするアリスがつられて走り出す。
「ぎゃっ」
あたしとアリスが外へと駆け出す。外の景色は、憎たらしいほど美しい緑に囲まれた山だった。あたし達は必死に森に囲まれた山道を走る。
「あああああ」
セイレーンが尾びれを引きずらせ、あたし達を追ってくる。
「ああああ」
あたしとアリスが息を切らして走る。
「ああああああああああああああああ」
無我夢中で森を駆けていく。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アリスが転びそうになる。あたしはアリスを引っ張り、無理矢理走って前だけを見る。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
森を抜けた。アリスがはっとしてあたしを引っ張った。あたしの足が寸での所で止まった。
「っ!」
その先は崖だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アリスとあたしが崖の下を見る。沢山の尖がった岩に、そこに打ち付けられる波。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
後ろからずるずると引きずる音が近付いてくる。あたしはアリスを見た。アリスが音の方向を見つめる。どこを見ても崖で囲まれている。逃げ場はない。
(どうする?)
そうだ。確かクマのハンカチがある。
(時間延ばしくらいなら……!)
セイレーンにやられたソフィアを思い出す。
(今度はあたしがアリスを守るのよ)
プレッシャーが落ちてくる。
(守らないと)
リオンの気持ちが痛いほど理解できた。
(あたしが守らないと)
アリスは死ぬはずだった。でもそれを回避した。だからこの世界でアリスは生きている。あたしの大切な親友。逝きたがりやの不安定なアリス。
(どうしてアリスが巻き込まれたのかと思ったけど……)
彼女の死が突然ここでやってきたとしても、何もおかしくはない。
(オズが歴史を繰り返そうとしているのであれば……)
アリスがいなくなったって、何も不思議じゃない。
(守るのよ。あたしがやるの)
骨があちこちに曲がったソフィアの姿が脳裏を霞む。
(あたしがやるのよ!)
あたしはアリスの前に立つ。震える手でポーチバッグの口を開ける。
「はっ」
あたしの呼吸が乱れていく。
「はっ」
音がどんどん近くなっていく。
「はっ、ふう、はっ……」
過呼吸が近づいてくる。尾びれが近づいてくる。ずるずる。ずるずる。たまに、濡れている音。近付いてくる。セイレーンが。ずるずる。血のスープ。男の死体。近付いてくる。女には手を出さないかも。近付いてくる。アリスがいる。誰もいない。あたししかいない。あたしが守るのよ。近付いてくる。しっかり。落ち着いて。ふう、はあ、過呼吸になんかなってる場合じゃない。血の気が引く。違う、怖いのは気のせいだ。ソフィアだって怖かったはずだ。ソフィアも……。
(待って)
そうだ。笛を預かってる。
「っ!」
希望が生まれた。あたしはすぐにドレスの中にあった笛を取り出して構えた。アリスは夢の中での出来事だって受け止めてくれるわ。大丈夫。あたし、まだ未来は残ってる。呼吸を整えて、冷静に。リオンにも出来た。メニーにも出来た。ソフィアにも出来た。あたしにだって出来るわ! 手が尋常じゃないほど震える。あたしの呼吸が乱れる。音はもうすぐそこまで来ている。あたしはポーチバッグから取り出し、クマのハンカチをアリスに持たせた。
「アリス、お守りよ。持ってて」
アリスの手を握って深呼吸する。それでも、あたしの歯が震えて口の中でがちがちと演奏が始まる。
「あいつが近付いてきたらこれを広げてあいつに見せてあげて。何も怖くないから」
「ニコラ」
「あたしの背中から離れないで」
あたししかアリスを守れる人はいない。
「大丈夫」
あたしは呟く。
「あたしが守る」
あたしは呼吸をする。深呼吸をする。アリスを背中に隠して、笛を構えて、その時を待つ。しかし、心臓がどきどきしてどうしようもない。音が、ずるずると、引きずってくる。近付いてくる。どうしよう。近付いてくる。逃げ場はない。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。息が出来ない。近付いてくる。近付いてくる。緊張が。近付いてくる。怖い。近付いてくる。誰もいない。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。助けて。近付いてくる。近付いてくる。ドロシー。近付いてくる。誰か助けて。近付いてくる。ずるずる。どうしよう。あたし、死んじゃう。近付いてくる。アリスがいる。近付いてくる。逃げ道は無い。近付いてくる。大丈夫よ。大丈夫よ。大丈夫だから。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。近付いてくる。音が。近付いてくる。悲鳴が。近付いてくる。怖い。近付いてくる。近付いてくる。怖い。こわい。近付いてくる。近付いてくる。こわい。近付いてくる。近付いてくる。こわい。近付いてくる。近付いてくる。こわい!!
心が乱れたあたしに、ハープが寄り添った。たらららん。
その音を、聞き逃さない。ハープは心が乱れた者の味方。ハープさえあれば怖くない! 助かる! あたしもアリスも、助かるんだわ! あたしは笑顔になって音の鳴る方へ振り返った。しかし、不思議な事にあたしの視界にハープがいない。おかしいわね。確かにこの方向から音がするのに。
――耳をすませてみろ。そっちじゃねえ。
耳をすませてみる。どこだ。魔法のハープ。あたしはぽかんとするアリスを無視してハープのある場所を耳で探し出す。あっちか。こっちか。いや――こっちだわ!
ようやくその場所を見つけて、笑顔になって――すぐに絶望した。
(……あれ……?)
魔法のハープは、崖の下で激しく海に波打たれる岩の上に立っていた。
(……嘘でしょ……?)
さあ、心が乱れた者よ。私の音で癒されてくださいな。たららららん!
(いや……だって……どうやって、そこまで行けばいいっていうのよ……)
魔法のハープの所まで助かるよ。
(ここから下りて……)
どうやって?
「……」
あたしは青い顔でアリスを見た。しかし、アリスは全く変わらない肌の色で、いつものとぼけた顔であたしを見た。その愛しい顔を見ていると、だんだんあたしの視界が涙で揺らいてきた。
「ニコラ?」
「……アリス……どうしよう……」
「どうしたの?」
「あれ……」
あたしはハープに指を差した。アリスが崖を覗いた。そこにハープがある。
「あそこに……行けば……全部終わるのよ。……助かるのよ。……なのに……ハープが……」
「あそこがゴールなの?」
平然とした質問に、あたしはぽかんとした。
「だって、これは悪夢でしょ?」
アリスが微笑んだ。
「ニコラは怖がりだものね。大丈夫」
笑顔のアリスがあたしの手を強く握った。
「一緒にいきましょう?」
アリスがあたしを引っ張った。
「ニコラ」
「……やだ」
アリスがあたしを引っ張る。
「怖くないわ」
「アリス、これは悪夢じゃない。死が存在するのよ」
あたしは引っ張られる。
「見て。岩が沢山並んでる。ハープの所に行けなかったら、ね、あたしもアリスも、どちらも死ぬかもしれない」
「大丈夫よ」
「やだ、アリス」
「ニコラ」
「やだ。いきたくない」
「ニコラ」
「どうするの? 最悪あたしだけが生き残ったら? アリスがここで死んだら、あたし、絶対立ち直れない」
「大丈夫」
「待って、アリス。あたしね、笛を持ってるの。これでなんとかするから。絶対大丈夫よ。あたしがアリスを守る。大丈夫。これでソフィアもなんとかしてたから、大丈夫よ」
「ニコラ、落ち着いて。ここは悪夢よ。何も怖くないわ。夢なんだから」
「大丈夫。あたしが、アリスを」
「ニコラ、だいじょ……」
「大丈夫じゃないのよ!!」
「落ち着いてったら」
なぜアリスはこういう時に限って、とても冷静なのだろう。
「ねえ、ここにいたって何も解決しないんでしょう?」
後ろに下がっても死。
前に進んでも死。
動かなくても死。
アリスは全てをわかってるように、あたしを説得する。
「ニコラ、私がいるから、大丈夫」
「アリス」
「心配しないで。だって、逝きたいのに逝けないのが私だもの」
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「怖くないわ」
「でもっ」
誤った選択は出来ない。ここで誤れば、アリスは――この世界でも死んでしまう。
「アリス、やっぱり……!」
セイレーンが両手を広げて、あたしをめがけて突っ込んできた。
「っ!」
「ニコラ!」
アリスがあたしの前に出た。
「っ!!」
駄目。
「アリス!」
あたしがアリスの手を掴んだと同時に――二人の足が滑った。
「あ」
「きゃっ」
アリスと一緒に、崖から落ちていく。
あたしは悲鳴を上げた。
アリスは目を丸くして、風を感じる。
アリスは気持ち良くなって、目を閉じた。
アリスは風に当たって、自分が鳥になった気がした。
だから笑った。
「今なら逝ける気がする」
どんどん海が近くなっていく。
「今度こそ取り返すからな。魔法のハープ」
ハープが素敵なメロディーを奏でる。
(*'ω'*)
水の中に落ちた。
あたしは慌てて腕を動かした。沢山の泡があたしの中から浮かんでいく。鼻がツンとする。あたしは足をばたつかせ、水面に上がった。
「げほっ!」
あたしは周りを見た。そしてぎょっとする。周りの人々が水着を着て楽しそうに泳いでいたから。ここはどこ?
「アリス!」
あたしは周囲を見回す。アリスがいない。
「アリス!!」
「テリー?」
あたしは振り返った。リトルルビィがプールサイドからあたしを見ていた。そしてあたしの青い顔にすぐさま気付き、声を張り上げる。
「そこで何してんの!」
「リトルルビィ、アリスがいないの!」
「あ?」
「アリスを知らない!? アリスがどこかにいるの!」
「テリー?」
「アリス! アリス!!」
リトルルビィが舌打ちして、服を着たままプールに飛び込んだ。水が跳ね、人々が声をあげた。リトルルビィが水中を泳ぐと、沈んでいるアリスを見つけ、腕に抱える。ついでにあたしの腰も掴まれ、プールサイドに引っ張られた。濡れたドレスが重たく圧し掛かり、あたしの口から水が吐き出される。
「げほげほっ!」
「上がれ、テリー。早く!」
「げほっ、アリス! げほげほっ! アリスは!?」
「大丈夫だから落ち着けって!」
リトルルビィがプールサイドにアリスを置いた。アリスは目を閉じて――気を失っていた。心臓が震えるあたしは生きてるのを確認したくて、アリスの体を必死に揺らす。
「アリス! アリス起きて!!」
「あのな……」
「倉庫にいたのよ! 急に、異空間に、飛ばされて!」
「テリー……」
「レストランで、ウミガメのスープがあって、男が、いて、また、死んで……!」
「テ……」
「アリスが、巻き込まれて! せっかく、アリスの死を回避したのに、また、また繰り返されっ」
「テリー!!」
リトルルビィに怒鳴られて、息が止まって、パニックが――ようやく落ち着いた。アリスの体を揺らすなんて良くない。彼女は気を失ってるだけだ。落ち着け。あたしは貴族令嬢よ。こんなことでパニックになるなんて情けない。……落ち着きなさい。
「……」
「倉庫って、どこ?」
「…………診療室の……近くの……あー……えーっと……」
「診療室の近くの倉庫?」
「……いや、そんなに……近くない……同じ……階で……」
「ああ。わかった」
リトルルビィが手を挙げると、クルーの格好をした兵士が駆け寄ってきた。
「また死人が出た。診療室の階の倉庫。全部探して」
クルーの格好をした兵士が頷き、無線を飛ばした。プールで遊ぶ人々が、興味本位であたし達を見ている視線にリトルルビィが睨み、アリスの体を起こす。
「ここじゃ人の目がある。一旦アリスを安全な場所に連れていこう」
「……」
「……大丈夫だって。……見ろよ。ぐーすか寝てるだけだろ?」
「……ええ。眠り姫みたい」
「……大丈夫?」
「ええ。大丈夫。アリスには怪我一つさせてな……」
「テリーが大丈夫?」
「……あたしは……」
「あんな姿初めて見た」
「……」
「……中毒者は?」
「逃げてきた」
「……あ、そう」
リトルルビィがアリスを抱えて立ち上がる。
「部屋に置きに行ってくる」
「……一緒に行っていい……?」
「ああ。いいね。すごくロマンチックなデートだ。全く」
リトルルビィが歩き出し、あたしもその後を追う。アリスは――リトルルビィの腕の中で眠り続ける。
プールの水上に、クマのハンカチがふわりと浮かんでいた。
不穏な気配のする倉庫の扉を開けると、メニーが口を押さえ、クレアが倉庫内を睨んだ。
「……酷い……」
「ああ。……惨いな」
そこには、頭と骨と足だけ残された男の死体と、可愛いウサギが一羽、安らかに眠っていた。
時計の針は、17時5分を差している。
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