【完結】おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい二部

石狩なべ

第0話 すべての始まり


 むかし、むかし。これは、おおむかしのおはなしです。


 といっても、もう神さまがそんざいして、わたし達のようなにんげんは、もうこの世界にそんざいしていて、それでもって、てんしもあくまもそんざいして、世界が世界としてはじまったばかりの時代のおはなし。


 神さまが、にんげんのお手伝いをしてくれる使いをあげました。


「おまえは、にんげんをたすけるんだよ」

「はい。主人さま。わたし、がんばる」


 使いがやってきて、にんげんは大よろこびです。なかまが増えたことに、よろこんで、使いのためのうたげをひらきました。


 わたし達は、えいえんのなかま。ともに生きる、えいえんのなかま。なかよく、なかよく、いつまでも長く、しあわせにくらそう。


 つぎの日から、使いのしごとははじまりました。こまったにんげんを、たすけるしごとです。


「使いさま。たすけてください」

「まかせて。わたしが、たすけてあげる!」


 使いは、にんげんとはちがって、ふしぎな力をもってました。ですので、だれよりも先に、にんげんをたすけることができたのです。


 ある日のこと、こどもがまいごになりました。


「使いさま、うちのばかな坊ずが、ほんとうにばかなのですが、なんとまいごになってしまったようです」

「まあ! たいへん! わたしにまかせて! ぜったい、たすけてあげる!」


 使いはふしぎな力で、坊ずをたすけだしました。ふたりのおとうさんと、おかあさんは、おおよろこび。


「ありがとうございます。使いさま!」

「使いさまがいれば、この世界はあんしんだ!」


 しかし、神さまはなぜにんげんを作ったのでしょう。にんげんには、いい心をもったにんげんもいれば、その逆に、悪い心をもったにんげんもいるのです。


 使いのそんざいは、悪いにんげんの耳にも入ってきました。悪いにんげんというのは、心に、しっとや、ねたみをもっているものです。悪いにんげんが言いました。


「けっ! なにが、使いさまだ! みんなにちやほやされされて、調子にのりやがって。ああ、そうだ。ちょっとこらしめてやろう!」


 悪いにんげんは悪い心を隠して、にっこりとてんしのように笑って、使いに声をかけました。


「こんにちは。使いさま」

「あら、こんにちは。こまってることはない?」

「こまってることはありません。使いさまが来てくださってから、もう、まいにち、おおだすかりでさ!」

「うふふっ。それはよかった!」

「これは、わたくしめからのお礼です! どうぞ、お受けとりください!」


 そう言って、悪いにんげんは、使いにりんごをさしあげます。使いはおおよろこびで、りんごを受けとりました。


「なんてすてきなりんごなの! ありがとう!」

「どういたしまして!」


 使いはりんごを町のにんげんにふるまおうと、歩きだしました。しかし、悪いにんげんはひと足先に、みんなにうわさを流しはじめたのです。


「みんな、たいへんだ。使いさまは神さまの使いなんかじゃない。あれは、あくまの使いなんだ!」

「ばか言うな。おまえ、使いさまのことを、悪く言うんじゃない」

「おれは見たんだよ。使いさまったら、人さまのりんごをむだんでもっていったんだ。盗んだんだよ! 盗みってのは、あくまがすることだ。使いさまは、あくまなんだ!」


 さいしょは、みんな信じませんでした。けれど、使いがりんごを切って、みんなにふるまったので、みんながふしんがったのです。


「使いさま、このりんごはどこで手に入れたんだい?」

「これはもらいものなの。しんせつなお方が、タダでくださったのよ」

「なんてこった。たいへんだ! こいつは、神さまの使いなんかじゃない。あくまの使いだ!」


 このはなしは、せかいじゅうに広がってしまい、ぜんいんがそのはなしを、信じてしまったのです。


「あくまの使いめ!」

「ちがいます! なにかのごかいです! わたしはけっして、あくまの使いなどではございません!」

「これはあくまのささやきだ。だまされるな!」

「ちがいます! ちがいますわ!」


 使いはろうやに閉じこめられてしまいました。


「ああ、なんてこと。わたしが、一体なにをしてしまったと言うの?」

「使いさま!」


 ろうやのかぎをもってきたのは、以前、使いが助けてあげた少女でした。この少女は、使いがあくまの使いなどではないと、信じてくれたのです。


「使いさまは、まちがいなく神さまの使いだわ! どうか、これで逃げてちょうだいな!」

「そんな、あなたをおいて、逃げられないわ!」

「いいの! さあ、お逃げ! お逃げよ!」


 使いは少女の助けによって、ろうやから逃げようとしましたが、げんじつは、そんなに甘くないのです。大人たちがみはっていて、見つかってしまいました。


「だれがあくまをろうやから出したんだ! 裏切りものだ!」

「こいつです! こいつです!」

「どうか、みんな、目をさまして! 使いさまはは、みんなをたすけるために、ここへやってきたのよ! おねがい! 目をさまして!」

「やい! こいつもあくまの手先にちがいない! こいつは女だ。女は、男をみりょうする。みりょうされるまえに、俺たちがみりょうするんだ!」

「この少女を、夜のお供に!」

「ああ、おやめになって! わたしには、好きなひとが!」


 しかし、にんげんとはざんこくなのです。少女のはじめては、男たちにうばわれてしまいました。


「あーれー!」


 水晶で見ていた使いは泣きました。


「ああ! なんてこと! わたしのせいで、この子がひどいめに!」

「こよいは、俺のお供をしてもらおう。げへへ」

「あーれー!」

「こよいは、俺のばんだぜ。げへへ! かわいがってやる!」

「およしてー!」

「ああ! これ以上はどうか! やめてあげて! おねがい! やめてあげて!」


 使いは祈りました。


「神さま! どうかおとめになって! みんなが、おかしくなってしまいました!」


 神さまはあらわれませんでした。


「おねがい! 神さま! あの子をたすけてあげて! おねがい!」


 神さまはあらわれませんでした。

 おかげで、少女はじぶんをだきしめて、さめざめと泣きました。


「ああ、わたしはけがれてしまったわ。なんてことかしら。でも、こうかいはしてないの。わたしは良い行いをしたもの! でもね、ああ、でもね、これ以上は生きていけないわ。このけがれた体で好きなひとの顔を見れないもの。さようなら」


 少女はじさつをしてしまいました。


「あーーーー! 死んでしまったわ! 死んでしまったわ! どうして! なぜこんなことに! あの子は、わたしをたすけてくれただけなのに!」

「使いさま」


 つぎにあらわれたのは、青年です。以前、使いが助けてあげた青年でした。この青年は、使いがあくまの使いなどではないと、信じてくれたのです。


「使いさま、かぎをおもちしました! どうか逃げて」

「ああ! だめよ! わたしをたすけたら、あなたがひどい目にあうわ!」

「ばれなきゃ、大丈夫です! さ、お逃げ! 振り返ってはいけません!」


 使いは青年の助けによって、ろうやから逃げようとしましたが、げんじつは、そんなに甘くないのです。大人たちがみはっていて、見つかってしまいました。


「だれがあくまをろうやから出したんだ! 裏切りものだ!」

「こいつです! こいつです!」

「どうか、みんな、目をさまして! 使いさまはは、みんなをたすけるために、ここへやってきたのです! おねがい! 目をさまして!」

「やい! こいつもあくまの手先にちがいない! こいつは男だ。男は、プライドをへし折るんだ!」

「この男のきょくぶを、切ってやろう!」

「ああ、おやめになって! わたしのきょくぶを、切らないで!」


 しかし、にんげんとはざんこくなのです。青年のきょくぶは、ちょんぎられてしまいました。


「あーれー!」


 水晶で見ていた使いは泣きました。


「ああ! なんてこと! あの子のきょくぶが、切られてしまったわ!」

「きょくぶなし!」

「きょくぶなしだ!」

「石を飛ばしてやろう!」

「おかま! おかま!」

「どうかやめてください! おとこのプライドを、どうかへし折らないで!」

「きょくぶなし! きょくぶなし!」

「あーれー!」

「ああ! なんてこと!」


 水晶を見ていた使いは泣きました。


「ひどすぎる! 彼はとてもいい行いをしたのに! こんなのってないわ!」


 使いは祈りました。


「神さま、どうかおねがい! 彼をたすけてあげてください。青年は、とても良い行いをしました! おねがい! たすけて!」


 神さまはあらわれませんでした。


「おねがい! 神さま! わたしと、あの青年をたすけてください! 彼はとてもいい人なんです! いい行いをしたのです! ほんとうです! おねがい! たすけて! たすけて!」


 神さまはあらわれませんでした。


「ああ、なんてことだ。血がとぷとぷ出てくるじゃないか。おまけにきょくぶなし。しかし、こうかいはない。わたしはいい行いをしたのだから! でも、ああ、しかし、もうこれ以上生きてはいけない。男としてのプライドをへし折られてしまった。さようなら」


 青年はじさつをしてしまいました。


「あーーーー! 死んでしまったわ! 青年も死んでしまったわ! 神さま! なぜたすけてくださらないの!? こんなにも、たすけを求めているのに!」


 使いは祈り続けました。


「おねがい! たすけて! たすけてください!」


 神さまは、あらわれませんでした。

 そんな中、にんげんたちが話しあいをしました。


「使いは、ふしぎな力を使う。あれは、とてもこわいものだ」

「だが、俺たちのものにしてしまえば、こわくない」

「そうだ。使いの子宮に、おれたちの種をいれよう。そして、子どもを作らせるんだ」

「まあ、なんてすてきな考えなのかしら!」

「さっそくやりましょう!」


 使いは男たちに迫られました。


「さあ、足をワニの口のように大きく開くんだ!」

「やめてください! やめてください! やめてください!」

「おまえは右足おさえろ!」

「おまえは左足をおさえろ!」

「いやー!」


 使いは足をむりやり押さえられてしまいました。ぱんつがまる見えです。


「よし、まずは俺の種からいれてやろう。町いちばんの、いい男だぜ!」

「そのつぎは俺だ! にばんめにいい男だぜ!」

「そのつぎは俺だ! さんばんめにいい男だぜ!」


 使いの心には、やがて、大きなくもが広がりました。


「神さま、どうしてですか。こんなにも祈っているのに、どうして来てくださらないの? どうしてたすけてくださらないの? みんな、死んでしまいました。このままでは、わたしはきずつけられてしまいます。けがされてしまいます」


 男たちがきょくぶを出して、近づいてきます。


「ああ、神さま。来てくださらないのね。わたしが、きっと悪いことをしてしまったのだわ」


 もちろん使いはなにもしていません。しかし、にんげんは悪いにんげんにそそのかされ、いいにんげんをどんどん死に追いやりました。


 使いは、ぜつぼうしました。


「悪いことをしてしまったのなら、もういいわ」


 使いは、にっこりわらいました。





「だったら、全員殺してやる」




 人間達は呪われました。



「ああ、局部がなくなった!」

「ちょんぎられてしまった!」

「きっと、あの少女を抱いたからだ! 呪いを授かったんだ!」

「ひーー! たすけてーー!」



 人間は呪われました。



「ひい! 手が溶けていく!」

「ひい! 局部がひん曲がっていく! あいてててて!」

「きっと、あの青年の局部を切って、石を投げたからだ! 呪いを授かったんだ!」

「ひーー! たすけてーー!」



 人間達はどうやら魔力を欲しがったらしい。ならば、さしあげましょう。

 人間達は呪われました。



「ああ! 子供が呪われた! 魔力を持った汚れ者だ!」

「殺せ! 呪われた子供を殺せ!」

「やめて! どうか! 私の子供を殺さないで!」



 人間達は呪われました。



「ああ! 嫌だ! 死にたくない!」

「こいつは呪われ者だ! 生きて帰すな!」

「やめて! 違うんだ! 本当だ! さっきまで、普通の人間だったんだ!」

「ばーん!」

「ぎゃーーー!」



 人間達は呪われました。



「なんてことだ! ああ、違うんだ! その! ちょっとした悪戯だったんだ! 使い様! 許してください! ごめんなさい! ちょっとだけ、俺の悪魔が囁いただけなんです!」

「何!? 悪魔だと!? 待ってろ! すぐに楽にしてやるからな!」

「ああ、ちがっ、そんな、こんなことになるなんて、使い様、もう悪いことは囁かない! 俺、改心するよ! だから助けて!」

「ばーん!」

「あーーーーーー!!」



 人間達は争いました。

 魔力を持つ人間は虐殺されました。魔力を持つ人間も争いました。魔力を駆使して人間を虐殺しました。



「あはははははは!!!」



 使いは笑いました。大好きな紫色の帽子とドレスを着て、玉座に座りました。



「神はいない。これからは、私がこの世界の支配者だ。そうだ。私なんて言わないで、支配者らしく、わらわと言おう。ああ、そして大事なことだ。名前を作らなければ」



 使いは宙に文字を浮かべました。



「わらわは、オズ」



 この世界の、支配者である。



「んふふふ!」

「んふふふふふふふ!!」

「はっはっはっはっ!」

「あーーーーーはっはっはっはっはっ!!」







 白の魔法使いがひょこりと顔を覗かせました。



「やばい。人間達に酷いことをされたオズがブチ切れたわ。神様がもたもたしてるからだわ。あーあ、なんてことよ。あたしの仕事が増えたじゃないのよ。あーあ。大変だわ。世界の破滅だわ。あーあ。どうしましょう。そうだわ。思い付いたわ。救世主を呼べばいいんだわ」


 白の魔法使いは魔法を唱えた。


「いでよ! 救世主!」



 物語は、ここからが本編でございます。お手洗いをお済ませください。五分後に、お話を始めましょう。


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