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n号線はさらなる拡張を続けた。私が高校になる頃には、いくつもの畑や森をつぶし、新たなルートを開拓した。道路の分岐点は立体交差が建てられ、片田舎の街が一気に近代化を果たしたように感じられた。以前のバイパス工事と同じ感じだったが、今度は誰も新しい道のことを「バイパス」とは呼ばなかった。普通にn号線と呼び、元あった道については「旧道」と呼んだ。
旧道は干上がった川のように通る車の数が激減し、客商売は致命的なダメージを受けた。小学校時代によく行った本屋は学習塾に変わり、飲食店も軒並み店を畳んだ。後から建ったのはマニアックなビデオ屋と消費者金融の自動払い機で、赤や黄色の派手な看板は、全く周りの景色に馴染んでいなかった。残ったのは釣具屋と薄汚れたラーメン屋くらいだった。これらの店は以前から活気がなかったから、そのために影響をほとんど受けなかった。
そうなると今度はn号線の脇が沸いてきそうな気がしたが、道路の両脇はいつまでも殺風景なままだった。建ったのはコンビニが一軒だったが、オーナー募集のチラシが貼られたまま、いつまでも営業が始まらなかった。大型のショッピングモールが建設されるとの噂が流れたが、いつまでも建設される気配がなかった。どうやら、地主の一人が土地を売ろうとしないらしい。そんな噂が流れ、新しいn号線は、私の町をただ通過するだけのものとなった。
ここからは笠奈について書く。
笠奈は同じ塾のバイトで知り合った。その時私は22歳で、大学を卒業したばかりだった。就職はしなかった。働くのが嫌だった、と言えばその通りだが、実際私は大学後半から、アルバイトを3つ掛け持ちをしていたので、厳密には違う。説明会に言った企業がどこも揃って「我が社のためにがんばってくれる人材を求めている」と言っていたからである。私はこの会社のためにがんばろうだなんて全く思わなかった。私の中で、働くということは食べていくことであり、それはどう考えても100%自分のために行うことだった。そもそも仕事をがんばるという発想が、理解出来ない。賃金は結果に対して支払われるものであり、そのプロセスには一切の価値はない。それなのに、がんばった者を評価するなんて言われたら、混乱する。自分が働いている場所は、会社なのではなく、どこかの宗教団体なのではないかと不安になる。私は、説明会の後に催される登録会や個別説明会に行くことはなく、他の学生の視線を尻目に、わざと大股で歩いて会場を後にした。私は早々と就職することを諦めると、代わりにアルバイトの数をひとつ増やした。
卒業と同時に一つのバイトを辞め、代わりに始めたのがこの塾のバイトだった。ファミレスのバイトで知り合った男から、大学生か、大学卒業者なら誰でもできると言われ、紹介してもらうことにした。時給は他の家庭教師や塾のバイトよりも、若干低かったが、これはマンツーマン授業で、基本生徒は一人しか見ないからとのことだった。
決められた日時に面接へ行くと、いきなりテストを受けさせられた。中学生を教えることを希望していたので、過去の高校入試問題をやらされた。教える側がバカでは仕方ないので、試験を行うのは当然と言えたが、予告もなかったので不意をつかれた。お陰で手応えも何も感じなかった。その後で、小太りの眼鏡をかけた男が現れ、業務内容を説明された。極めて事務的で、内容も特に変わったことはなかった。その後でこちらの希望の曜日を伝えた。最後の最後になって「今は教師の数がいっぱいなので、誰かがやめるか、新しく生徒が入ったらお願いする」と言われた。私は紹介されて面接に来たので、当然すぐにでも仕事があるものと思い込んでいたがそうではなかった。普通のバイトのように、はっきりとした合否判定が出たわけではなかったので、一気に脱力してしまった。
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