第1話夢で目覚めた!?
学校から帰宅後、俺はベッドに倒れた。
思い出すのはあの妄想。
「物は試しだ」
ベッドから起きて俺は小学生の頃から愛用している木刀を取り出した。
俺は目を瞑り構えた。
今の俺は悪夢。
目の前にいるのは魔王ヴォイド。
「起きろ、天叢雲」
真の姿となった天叢雲に魔力を込めて、解き放つッ!
「『秘剣夢幻の太刀』!」
俺が言い放つと不可視の刃が襲い、ヴォイドは消滅した……という妄想だ。
握っているのは木刀だし、不可視の刃だって出ない。
「メフィスに出来て、俺に出来ないのは気に入らないなぁ」
メフィスは俺のもう1つの名だ。
俺は机の引き出しを開け、ノートを取り出した。
「記録の時間だ」
取り出したのは俺の命より大切といっても過言ではない『俺ワールド大全』。
これは二種類ある。
一つは夢での俺の武器の軌道、呼吸、身体の動き、相手との間合いを記録している。
もう一つは妄想した時のシチュエーションを記録。
「今日のは妄想編だな」
学校での妄想した内容を細かく記録。
「天叢雲も久しぶりに使ったし、勇者アークライト美人だったな。フッ、我ながらリアルな妄想力よ……」
「うし、これで終わりだ」
時計を見ると帰宅から五時間が経過し、九時を回っていた。
すると見計らったようにドアがノックされた。
「開いてるぞー」
「お疲れ様です。若様」
金髪をポニーテールにした執事服の男━━セイラがカップを置いた。
彼は親父の親友の忘れ形見で、幼い頃から一緒だった。
そして現在は俺の執事をしている。
「お前さぁ、お疲れ様ってなんだよ」
「私も若様の『俺ワールド大全』大好きですから、楽しみにしているんですよ」
「お前と蓮姉だけだな。俺の趣味を否定しないのは……」
するとセイラが俺の手を取った。
「否定しませんよ。好きなことに夢中になれる若様の姿……私は大好きですよ」
「……」
艶やかな唇から発せられる俺への信頼の言葉、爛々と輝く青い瞳に俺は魅せられ……
「お前ホントに男か?」
長年の疑問を口にした。
俺はセイラを上からじっくりと観察する。
手入れの行き届いた綺麗な髪に色白の肌。
男にしては高い声に華奢な身体。
正直、俺と同じ男とは思えない。
「はぁ……前にも言いましたが私とお風呂に入ればわかりますよ」
そう。それが一番の方法なんだが……
「それは嫌だ」
「即答しましたね」
男だとしても確認して夢をぶち壊したくない。
「いつまでも美少女モドキ執事でいてくれ」
「若様も中々、業が深いですね」
セイラが苦笑いをした。
「うるさいな。本当なら俺はメイ
ズバァンッと目の前で音がした。
「若様、私がいれば問題ありませんよね?」
感情の消えた表情でセイラが拳を机に叩きつけていた。
「……ういっす」
「明日、その机は取り替えておきます。それでは失礼します」
一礼してセイラが俺の部屋を出ていった。
恐る恐る机を見ると亀裂が入っていた。
セイラは俺に蓮姉や両親以外が近づくのを嫌う。
昔から俺の後を「若様ー」っていつも付いて歩き、誰かが近づくと威嚇していた。
「アイツやっぱり……」
残念ながら俺は女性が好きだ。
「変なこと考えないで寝るか」
俺は寝る準備を始めた。
・オーダーメイドの首飾り
・紺碧のコート
・道化師の仮面
・セイラ特性杖
首飾りは『ナイトメア』の証である瞳のついた三日月の紋章。
『ナイトメア』とは俺がリーダーの組織だ。メンバーの殆んどが戦闘マニアで俺と共に魔王や魔神や神を蹂躙してきた設定になっている。
杖は俺が本気になった時に使用する設定の杖だ。
首飾りと似たようなデザインで三日月の真ん中に瞳をイメージした水晶玉がはまった黒い杖だ。
名前は『ヴァルナ』
木を削って悪戦苦闘していた時にセイラから貰った。
多分、木製。
「首飾りよし、ローブよし、仮面よし、杖よし。寝るか」
俺はベッドに入った。
そしてお決まりのセリフを言って寝る。
「我はナイトメア 汝等を悪夢へ誘わん」
今日の夢に心を踊らせながら目を閉じた。
俺は月を眺めていた。すると━━
「報告」
ペストマスクをつけた女性が背後に現れた。
「……聞こう」
「交戦中に病原菌をばら蒔くとされるコカトリスが百年ぶりに目撃された」
何かが引っかかる……
「もう一度最初から頼む」
「交戦中に病原菌を「中二病で悪かったな!」
……あれ?
「リーダー?」
目の前にいる女性を見た。
顔の上半分を覆うペストマスク。銀髪に青と黒のドレス。
死を司る不老不死の黒魔術師。
少し無口な彼女が実は骨フェチなのも知ってるし、俺を大好きなのも知っている。
いや、正確にはそう設定した。
彼女は━━
「マステール!」
「ッ!?」
彼女は指先でクルクルと髪を弄り始めた。
知っているぞ!知っているとも!その仕草をしている時は照れている証拠だッ!
「お前のおかげだ!」
「よく分からないけどリーダーの役に立てて嬉しい」
マステールのマスクから覗く口元が笑みをつくっていた。
「お前に大切な事を頼む!」
「何でも言って」
髪を弄るのを止め、俺を見据えた。
「一日の始まりに必ず『貴方の名前は?』と確認してくれ」
「メフィスじゃないの?」
「違う。俺のもう一つの名前をお前に教える」
「リーダーのもう一つの名前?」
「ああ、『ムトウ ソウシ』だ。名前を聞いた時にムトウ ソウシと答えなかったらその俺は偽物だ。偽物と分かったら本物の俺を探してくれ。マステールにしか頼めない事なんだ」
「私にしか頼めない……」
マステールがグッと拳を握った。
「この杖を渡しておく」
「ヴァルナ……」
ヴァルナガーはセイラに作ってもらった杖のオリジナルだ。
「何年かかるか分からない。果てしない年月を費やすかもしれない。それでも本物の俺を見つけて欲しいんだ。頼めるか?」
不死の彼女が適任だ。ズルい考えだが俺大好き設定の彼女なら━━
「分かった。必ず本物のリーダー見つけるから」
「ありがとうマステール」
マステールを抱き締めた。
「あ……リーダー」
まさか夢で自我を取り戻せるとは思わなかった。
夢が現実に交わる事は無いかもしれないが0とは俺は思わない。
だから自我があるこの瞬間の出来事を俺は本物と信じる。
最底辺ギルドの悪夢 斑鳩アルカナ @mattius
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