まおうのせんせい!

あひこま

第1話 こんにちは、世界。

 最初に匂いがした。なんの匂いだ。新品の冷蔵庫のような、そんな感じの匂い。嗅覚が戻ってくる。声はまだ出ない。金縛りにかかったときのような、全身の硬直。なんだこれは?意識はある。自分という意識。目をゆっくりと開けてみる。何百年、いや何千年ぶりかに目を開くかのような感覚。見えない。何も。真っ暗なまま。目をつむっているときとなんら変わりのない光景。


「ふぅ…」


 ゆっくりと深呼吸をしてみる。

―まさか死んだのか、俺は?

 

心当たりがない。もちろん、直前の記憶もない。もしかしたら、死後の世界で意識が戻ってしまったのだろうか。そうだとしたら、この人間としての感覚があまりにも生々しい。まるで、生きているかのように五感が戻りつつある。

 

足を動かしてみる。

「お、動くぞ。」

 

そのまま、開脚するように足を横にずらすと、何かにぶつかった。硬い。両側に壁のようなものがある。今度は手を伸ばしてみる。


 ―ガタンッ

「へっ…?」


 思ったよりもすぐ目の前に硬い障害物。いや、これはおそらく…。

 手で目の前の壁のようなものに触れる。そのまま暗闇の中、左右に手を動かす。


「あった!」

 予想が正しければ、これは箱だ。密閉された空間に閉じ込められている可能性が高い。そして、この"突起物"は…。


―プシュー


 ボタンのようなものを押した。聞いたことのない音を立てながら、箱はゆっくりと開いていく。光が眩しい。俺は生きているのか―?


「イヤああああああ!!!」


 突如、とんでもない金切り声が耳をつんざく。聴覚が戻って間もない自分の身体には、痺れるほどの声だった。それでも、死後の世界ではないことにホッとした。視界が徐々に開けていく。


「良かった、自分以外の人間が…」

 そして、そこで目を見開いていたのは―


「な、な、な、なんなのよあんた!!!」


 角と尻尾が生えた、女の子だった。



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