隙間

かしまからこ

第一話

「じゃあ、順番に苦手なもの言ってこうよ!」

「いいね!面白そう!」

友達4人とのお泊まり会で、夜更かししながらガールズトークしていると、なぜか突然その話題になった。

「わたしは辛いもの!キムチとか」

「かわいい!」

「わかるー!」

「あたしは大きな犬が苦手。昔手ぇ噛まれたんだよね」

「痛そ!それは苦手になるわー」


次はわたしの番。

ガチで言ったら変な空気になるから、必死で無難なものを探した。

「わたしは心霊番組。一人じゃ絶対に見れないなあ」

「わたしも!お風呂とか怖いよね」

「めっちゃわかる!」


みんなの話に表面上ついていきながら、頭でわたしの本当に苦手なものについて考えていた。


ドアの隙間。


わたし、あれが一番苦手だ。

自分の部屋はもちろん、人の家や学校の教室、お店も。

なんか、ゾワゾワするんだ。

毛が逆立つっていうかさ。

どうしようもなく不安になる感じ。


全部開いてるのはいいんだ。

中途半端なのがだめなの。

3分の1だけ開いてる、とか。


ちなみに辛いものが苦手と言った友達の部屋に今いるわけなんだけど、ほんのちょっと、3センチくらいドアが開いてる。

だからずっと落ち着かないんだ。

ねえ、なんでみんなそんな平気なの?

気にならないの?


「だから、大きい犬でも大人しい性格の犬もいるんだよ?噛む犬ばかりじゃなくてさ」

「でもあのトラウマが頭から離れないんだよなあー!」


わたしも。

わたしもそうだ、トラウマ。

あれってすごい。ずっとこびりついてるんだもん。


小学校三年生で引っ越すまで、小さなアパートで両親と暮らしていた。

共働きだったから、学校から帰って一人で家で遊ぶことが多かった。

アパートの隣の部屋に、当時中学二年生のお兄さんが住んでいて、たまにいっしょに遊んでもらっていた。

そのお兄さんも一人っ子だったし、隣同士でお母さんたちが仲良しだったんだ。

それでお兄さんの家でテレビゲームしたり、わたしの家で宿題を手伝ったりしてくれてたんだ。


ある日、そう、お兄さんの家でゲームしてた時。

ドアがほんの少しだけ開いてたんだ。

わたしはお母さんから「鍵は必ず閉めること」とうるさく言われていたから、鍵を閉めてあげようとしたんだ、人の家だけど。

そしてドアに近づいたら、女の子がこっちを覗いてたんだ。

目がぎょろっと大きくて印象的な、お兄さんと同い年くらいの子。

目が合ったらその子は逃げていったから、すぐに鍵をした。

お兄さんに話したら、わたしの家と逆のお隣さんの子らしくて。

「前はよく遊んでたんだけど、最近は遊ばなくなった」とだけ言われたけど、実際はもっと何かあったんだと思う。

じゃなきゃ人の家覗かないだろうし。

その時はすぐにゲームに戻ったんだけど、それ以来ずっと、隙間を見ると誰かに覗かれてるような気がしてならない。

これもトラウマ?わかってる。


「ほら見てよ!わたしのペットのトイプードル!かわいいでしょ、噛まないよ~!」

でも、実際誰かに見られてることだって、同じくらいあるんだ。

わたしは出かかる言葉を飲み込み、笑顔を作る。

「めっちゃかわいい~!」


ねえ、みんな。


見られてるよ。



おわり

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隙間 かしまからこ @karako

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