宇宙の人々

「よっ、ひさしぶり」

「ああ、来たかい。君と会うなんて何年ぶりだろうなぁ」

「うーん、ざっと五年ぶりくらいかな」

「宇宙派遣会社も大変だな、思い出話を聞かせてくれよ」

「いいぜ、ええと、何から話そうかな。この五年の間、スリルに満ちていたから迷ってしまうな」

「ははは、退屈よりはいいことじゃないか。こっちは毎日毎日同じことの繰り返しで飽き飽きしているよ。君と一緒に宇宙へ行けばよかった」

「まあ、こっちも楽なもんじゃあないぜ。退屈はしないが気が張ってしょうがない。ストレスで抜け毛がひどっくて」

「楽な仕事はないってことだな。全く嫌気がさすな。子供の頃は大人はもっと面白おかしいものだと思っていた……」

「全くだ」

「文明がこの十年で一気に進歩してしまったのもいけない。子供の頃夢見た未来の道具はあらかた出来上がってしまったからなぁ」

「それはいいことじゃないか」

「いやいや、確かに生活は豊かになったよ。しかし夢見たものが現実になったことによって夢が覚めたというか、未来への期待が無くなってしまったんだよ」

「確かにそれはあるかもしれないな。技術の進歩のおかげで宇宙に行った身としては複雑な気持ちだが」

「いや、すまない。つまらないことを言ってしまったな。どうだい、改めて印象に残ったことはあったかい」

「そういえばそうだった。そうそう、本当に不思議な星に行ったんだよ」

「本当かい、で、どんなどんな」

「そんなに身を乗り出さなくてもちゃんと話すさ」

「あ、ああ、そうだな」

「あれは確か三年前のことだったかな。いつものように上司に言われて文明のある星の環境調査を行っている団体の手伝いをして来いと言われたんだよ。

 いやあ、あの時は繁忙期でね、事務作業で目も回る忙しさだったんだけど上司に言われたら行くしかない。派遣者用の宇宙船に乗ってその星に行くわけだよ。こんなに忙しい時期に外部の肉体労働を入れるなんて上司もどうかしていると思ったけど、それもいつものことなんだ。けどねぇ」

「宇宙船にトラブルがあったのかい」

「いや、そういった会社のトラブルといったことではないのだけれど、実際に行った星が不思議というか、不可思議というか、とにかく奇妙だったわけだよ」

「へぇ」

「うーんと、例えば君は『雨』という単語に関して何か連想することはあるかい」

「そうだな。では無難に『液体』とでも答えておこうかな」

「まあ、そうだね。僕もこの質問に対して同じ返答をすると思うよ。けどね、僕の行った星はね『金属』が降るんだ」

「なんだって」

「局所的ではあるんだけどね。確かに金属が降るんだよ。一緒に行った気象学者も驚いていたよ。こんな事例は初めてだってね」

「そんな事って……あっ、分かったぞ、どうせ隕石がよく降ってくるとかそういうオチだろう」

「いや、金属はその星由来のものらしい。自然物ではないらしいけどね」

「凄いな、もっとそのことについて詳しく教えてくれよ」

「僕も詳しいことは分からないさ。僕は研究員ではないからね。僕の仕事は彼らの仕事が円滑に進むように手伝う雑用みたいなもんさ」

「そうか、そういえばそうだったな。ほかに何か面白いことはあったのかい」

「ああ、その星の生物がとても面白い習性をしていたんだよ」

「どんなだい」

「その生物はものすごい群れを作るんだ。それこそ地を埋め尽くすくらいのね。しかもそいつらはねどこかロボットじみているんだ」

「サイボーグとかかい」

「メカニカルな生物という訳では無くてね、思考が統一化されているんだ。面白かったぜ。そいつらには言葉が通じたから、いくつかの奴らに質問してみたんだ。簡単な質問から哲学的な質問までね。そうしたら奴らなんて答えたと思う」

「全員同じことを答えた、とかかい」

「そう、そうなんだよ。誰に聞いてもおんなじ答え。途中からは連中のことを少し不気味に感じたよ。なんでも専門家によると、話し方がそれぞれ違うから個体別に意識はあるらしいんだけどねえ。自我というのが薄いらしいんだよね。意識レベルで言えば我々ではなく、どちらかと言うと虫に近いらしいね」

「そんな奴らが地上に溢れてるのか……ゾッとするなぁ」

「しかし、そいつらが移動するときの景色は圧巻だったぜ」

「そんなもんかね……」

「ああ、そうそう。そして奴らは無駄なものが好きだったな」

「無駄なものかい?」

「そう、いろいろな装飾品とか娯楽品なんかを何千、何万種類と作るんだよ。みんなほとんどおんなじなのにね」

「何でそんなことをするんだろう」

「学者言うには彼らなりのアイデンティティの主張らしいよ。まあそういわれると一概に無駄とはいいがたいけどね」

「確かにそうかもな。ほかの星の話も聞かせてくれよ」

「ああいいぜ。そうだな、ここからちょっと言った星の話なんだがな…………」




「いやぁ、今日は楽しかった。君の話はどれも新鮮だったなぁ」

「いやいや、そんなことはない。もっとスリルのある生活を送っている奴もいるんだ。けど、僕も君と話して楽しかったよ。自分の話を驚きながら聞いてくれる人と話すのは気分がいい。何の話が一番面白かったんだい?」

「断然、一番初めの星の話だね。あの星の名前はなんていうんだい」

「ええと、確か現地の奴らは『地球』と呼んでいたかな……」

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キリンのショートショート 皐月きりん @maygiraffe

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