第40話 奴隷屋②



 ここにいる卑劣な奴らを殺す。



 俺の頭の中にはこれ以外のことを考えることができなかった。


 だからこそ、俺の理性というものはすでに失われていた。だからこそ、この当時のことは後々思い出したくはない。


 俺は考えるよりも先に体が動いていた。周りの奴らは俺が動いたところで熱中していて何も気づいていない。いや、俺なんかに興味などを持っていなかった。奴らの目に見えているものは舞台の上でほぼ裸当然に囚われている売られている少女だ。少女を買うこと、少女を見続けること。それだけが奴らにとっての快楽なのかもしれない。娯楽なのかもしれない。


 だから、俺はそんなことが許せなかった。許せない。別に正義ぶっているわけではない。ただ、許せないものは許せない。これが正義だと言われてしまえばそれで終わりだがそれでもいい。今の俺にとって少女を助けることが第一の目標、そしてここにいる連中すべてを捕まえることが第二の目標だ。



 「はぁぁぁ」



 俺が大声を上げて舞台の上に上がってきた姿を見た司会者らしき男はどうやら最初は興奮して上がってきてしまったものだと考えていたようだが、俺の表情を見てその考えをすぐに変えたようだ。司会者は最初は笑顔でごく普通の一般人という印象を思わせていたが今となってはそれはもう作られたものであり表情はとても仰々しいものとなっていた。殺気を放っている。



 「おいっ、誰だお前」



 第一声はとても低い声だった。先ほどまでのおちゃらかな声とは正反対のものだった。ここまで本性を隠していたのか。



 「俺は………誰でもいいだろっ!」



 名乗ることなくいきなり殴りかかった。馬鹿正直にここで殴る奴などいる者か。俺は、何回も連続して殴った。だが、司会者は奇妙な身のこなしで全てを避けた。



 「避けられた、だと」



 とても驚いた。これが司会者の身のこなしなのか。一体こいつは何者なのだ。



 「ふふふふ、お前はもう何者でもいい。ただ、ここのボスにでも報告しておくか。お前はどうやらここに偵察しに来たみたいだしな、ギン」



 「なっ!?」



 何でこいつ俺の名前を知っているんだ。こいつ本当に一体何者なんだ。



 「こいつ一体何者なのだ、か。いいように怯えているな」



 こいつどうやら俺の心の中を呼んでいる。おそらくは魔法か。となるとこいつは魔術師であるのか。



 「魔術師、か。それもいい答えだ。だが、それでは甘い。俺の正体を知りたいのなら──」



 おいっ、待て! という前に司会者は突然姿をくらました。司会者がいなくなった場に残ったのは大勢の観客と俺とそして少女だった。俺は、少女を拘束していた器具を外してあげた。そして、



 「おいっ! 逃げるぞ」



 「へっ」



 俺は、少女の手をつかむとそのままその場を駈け出していた。


 司会者の奴はボスに伝えると言っていた。今すぐにここを壊滅させなければ俺の命はないかもしれない。俺は焦りながらどこか自分の身を隠せそうな場所を探した。

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