第36話 ハム議員②



 「私がやったのさ」



 俺は背後を向くとそこにいたのは───。



 「ハム議員?」



 俺の前に現れたのは闇商人を探せと依頼したハム議員であった。ハム議員は不気味な笑みを漏らしている。



 「おいっ! どういうことだっ、答えろっ!」



 俺は声を荒げた。ハム議員は俺が相当動揺している様子を見て満足そうな感じだ。もう、我慢できない。俺にはこいつを尋問する権利がある。怒りがこみあげてきてもう抑えきることができない。俺は、ハム議員に向かって突撃した。



 「おおおお」



 俺は怒りをすべて右のこぶしに乗せてハム議員を殴った、だが恐るべき速さで避けられた。



 「よ、避けた!?」



 全く動きが見えなかった。あいつはただの議員であり戦闘能力もない平和な一般人ではないのか。なのにあの動きは只者ではない。一体何者なんだ。俺は驚いて口をぽかんと開けたまま呆然と唯立っていた。


 その姿を見たハムは勝手にべらべらとしゃべりだした。



 「お前の存在は危険だ。私がお前に依頼したのは闇商人を捕えろであったが、むしろお前の方がこの国の闇的存在であると私は気が付いたんだ。お前はもう知っているんだろ。あのことについて」



 「あのこと?」



 俺にはあのことなんて言われてもまったく心当たりが思い当らなかった。何か俺は危険なことをしたっけな。いや、何もした覚えはない。


 ハムはおれが何も知らないという顔をするとまたまた不気味な笑みを漏らした。その顔は完全に悪役の顔であった。



 「本当に知らないのか。まったく、それはお前が当たり前のように感じているからかな。いいか教えてやる。お前はこの国の闇について知っているはずだ。例えば、エードのこととかな」



 「!?」



 エードのこと。


 エードはこの国の上層部の命令であの盗賊団にスパイ活動として潜入していた。しかも、エードのことを生贄、捨て駒、スクラップといっていいような表現の扱い方をされていた。この国の闇とは魔術師の扱いのことなのだろうか。



 「何だよその顔。どうやら心当たりがあるようだな」



 「ああ、心当たりはあるぜ。ハムお前はこの国の邪魔な存在たる俺を抹殺するつもりなのか」



 「いいや」



 俺の答えはこの場では絶対に出るはずのない言葉が出て否定された。いいやというのはどういうことなのだろうか。



 「どういうことだ」



 俺は頭を少し冷やして落ち着いて質問をした。



 「私個人としてお前たちを殺したくはない。私とお前は知り合いだからな。だがな、それを良しとしない連中が大議会にいるんだよ。俺は、そこでお前たちを殺すことを前提として誘い出した。表向きはそう伝えておいた。だが、この場には誰も気付かないだろう。だから、私個人の立場として言わせてもらう。闇商人は近年問題となっているものだ。ここで、お前が闇商人を捕縛すれば大議会の連中の意見も変わるだろう。だから失敗しないでくれ」



 なるほど、大議会も大変だな。俺は自分のことの方が大変なはずなのに同情してしまっていた。俺はハム議員の期待に応えないといけない。きちんと答えることにしよう。



 「分かった。で、1つ聞きたいことがあるがいいか?」



 俺は1つだけ尋ねた。



 「何だ?」



 ハム議員は普通に応えてくれた。



 「闇商人のアジトは分かるか」



 俺は一応質問しておく。おそらく知らないという方が高いに決まっているが。だが、その答えは裏切られた。



 「アジトは知らないが闇商人たちの集まる商店街なら知っている」



 「どこだそこは」



 俺はハム議員に聞いた。ハム議員はある地名を教えてくれた。



 「では行くとするか」



 開放してもらったレイと共にその場所へと歩いて行った。

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