第35話 迷子
バーカス市場。
これがこの町の中心の市場であり最大の市場である。東西500メートルのまっすぐな道に十数もの小さな横道が張り巡らされていて多くのお店が立ち並んでいる。お店の種類は多種多様であり、まぁ中には言葉で言えないような店も存在している。
そんなところに俺達はやってきた。朝9時ごろというのにとても多くの老若男女、多種多様の人種、民族の人が行きかっていたのをみてわくわくしていた。
「こんな早い時間なのに人が多いなぁ。流石だぜ」
俺がボソッと言うと横からピーチェも賛同して言う。
「本当ですね。私もここまで人が多いとは想像もしていませんでした」
「わぁ」
レイはほかの町に行ったこともないということもあって感想はなくただ単に感動していただけであった。その無邪気さにはなんだかほっとするものを感じられた。
俺も昔はあんなふうに感じていることができた時期もあったんだな。
人間慣れというものは怖い。いつしか他の町に行っても昔ほどの感動を得ることができなくなった。
「さて、どうやって情報を集めたものか」
俺達は、情報を探すと言っても相手は闇商人。つまりは裏社会の人間だ。探すのはそうとう難しいだろう。こんな場所で探したらむしろ怪しまれて警戒されるかもしれない。どうしたものか。俺は、何とか方法を見出そうと考えていたがやはりといっていいか思い浮かばなかった。
「ギンさん、ギンさん」
横からピーチェが声をかけてきた。ん? 何だ。俺は、ピーチェの方を向いた。
「あのー、レイがいません」
「へっ?」
俺は、ピーチェとは反対側を向いた。そこには先ほどまでいたレイの姿はなかった。とっさに後ろを振り向いた。レイの姿はなかった。レイはいなかった。
「どういうことだ?」
俺は疑問に思ったことを口にした。まさかとは思うがこれって………
「迷子ですね」
俺が思っていたことを口に出す前にピーチェが言った。
迷子。うん、これは迷子に違いない。こんな広い市場なら迷子になるのは仕方ないことだ。ましてやレイはほかの町に来るのは初めてなのだから仕方ない。仕方ないけど、
「要件が、増えた。はぁ~」
ため息をついた。これから闇商人を探すというのに仕事が増えるなんて面倒なことだ。ただ、本人には悪いから口に出さないでおいておく。
「ギンさん、どうしますか?」
どうすると言われてもすることは1つしかない。
「探すぞレイのことを。お互い別れて探そう」
「分かりました」
俺は、ピーチェと見つからなかった時のことも考えて待ち合わせ場所、待ち合わせ時間を決めたうえでお互い東と西へ歩き出した。
俺は東側の通りを調べることになった。
東側は先ほど通っていた場所だ。だから、レイがいる可能性は高い。表の通りにいないことは確かだから細かな横道にいるのは間違いない。俺はそう思ってすぐ横の細い横道へと足を出した。
「うぉ、人がいないな」
一気に横道に入った瞬間人気が無くなった。ここには、レイはいないなと思ってすぐさま表の通りに戻ろうとした。しかし、遠くを目を細めてよく見るとレイらしき少女の姿が見えた。なので、とりあえず近づいてみることにした。
「レイッ」
俺が名前を呼んだ。レイはそれに気が付いて振り向く。しかし、顔というか遠くから何か言っているようであった。俺には聞こえない。何を言っているんだ?
「レイ!」
俺はさらに大きな声で呼んだ。そしてレイの元へ駆けて行った。
「来てはダメですっ!」
! レイの声がようやく聞こえた。だが、来てはいけない? どういうことだ? 俺は来てはいけないと言われながらもレイの元へ向かった。
「ギ、ギンさん」
レイの元へ着いた俺は驚いた。レイの体には自由を妨害する縄が縛り付けられていたのだ。
「誰がやったんだ」
俺はレイに聞いた。レイは口を開けようとした。しかし、それより先に背後から答えたものがいた。
「私がやったのさ」
俺は背後を向くとそこにいたのは───。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます