第22話

 愛とは、入学式のときに知り合った。


 愛は、可愛くて綺麗だから入学式美少女コンテストで一位になっていた。

 私は、エントリー外。

 対象外。悲しい、寂しい。

 でも、いいんだ。

 私は私だから。

 それに愛は友だちだ。

 愛が私のこと友だちと思ってくれているかはわからない。

 でも、私は愛のことを友だちと思っている。


 愛は、続いて文字を続けた。


[耳、真っ赤だよ]


 愛の体が小さく揺れる。

 きっっと笑っているのだろう。


 私と愛の席は隣だった。

 話しかけてくれたけど返事ができなかった。

 普通は、無視されていると思って怒るんだけど愛は怒らなかった。

 私の前に来て、口をゆっくり話しかけてきた。

 絡まれていると思ったあなたは、愛に話しかけた。


 愛は、驚いた顔をしたあとスマホに文字を入力してそれを見せてくれた。


[私の名前は、高橋 愛だよ]


 私も緊張したけれど自分のスマホに文字を入れた。

 私の名前を見せると[よろしくね]と文字を入れてくれた。


 はじめての同性の友だちだった。

 それから、文通をするようになった。


 愛はクラスの人気者。

 私は日陰者。


 でも、私は嬉しかった。

 友だちがいるってのは嬉しい。

 それだけでしあわせなんだ。


 愛は、ゆっくりと私の手を握りしめる。

 そして、私を引っ張って走って教室に向かった。

 あなたを置いて教室に向かった。

 クラスメイトはまだ少ない。

 愛は、真剣な顔で私にスマホの画面を見せた。


[私、あいつに告白しようと思うんだ]


 あいつとはあなたのこと。

 それはすぐにわかった。

 私は、あなたのことが好き。

 告白したい。

 だけど、私にはそれを伝える術がない。


 文字で伝えたい。

 だけど、私には勇気がない。

 今のままがしあわせ。

 今のままで十分しあわせなんだ。


 私は、下唇をぎゅっと噛んで我慢。


[そっか。

 応援しているね]


 愛ちゃんは、小さく笑う。

 愛ちゃんは、優しい。


[だから、一緒にバレンタインにチョコを渡さない?]


 私には愛ちゃんの気持ちがわからない。

 怖くはない。

 愛ちゃんはいい人だから……

 でも、たまに何考えているかわかんないんだ。

 

 何もしなくても時間だけが無情に過ぎていく。


 2月14日なんてあっというまだ。

 私は、彼に手紙を書くことにした。

 怖がられるかもしれない。

 嫌われるかもしれない。


 でも、いいんだ……


 だって私だもん。

 好かれるわけないよ。


 その思いを願いを希望を載せて手紙を書いた。

 ゆっくり丁寧に書いた。


[好きです]


 たったそれだけの言葉を書くだけで何時間も掛かった。


 学校の教室。

 私と愛は、あなたよりひと足早く着いた。


[せーので、渡そうね]


 愛がスマホにそう打った。

 その手は震えていた。

 愛も緊張しているんだ。


 私にはすぐにわかった。

 ああ、愛もあなたのことが好きだったんだなって……


 そして、あなたが来た。

 教室に入ってきた。


 愛が少し早いタイミングであなたにチョコレートを渡した。

 あなたは受け取った。


 なぜだろう。

 わかっていたのに。

 わかっていたのに。

 涙が溢れる。


 悔しくて悲しくて涙が溢れる。

 私は、チョコレートを下に落とすとその場から走って逃げた。


 私は、この日。

 はじめて学校をズル休みした。

 学校には来ている。

 ずっと寒い屋上でうずくまっていた。


 放課後がくる。

 長い時間だった。

 いつもならあっというまなのに。


 私にスマホがバイブする。


 愛ちゃんからだった。


 メールだった。


[手紙は預かった返してほしければ、体育館裏に来なさい]


 愛ちゃんが意地悪に見えた。

 でも、手紙が返してもらおう。

 あなたに見られたらもう私にはなにも残らない。


 悲しいけどつらいけど。


 これが現実なんだ。


 私はボロボロと涙をこぼした。


 私は、走って体育館裏に向かった。

 愛がいた。


 愛がひとり立っていた。


 愛が怖い。

 はじめて愛が怖く見えた。


 愛は、ゆっくりと私に近づいてスマホを見せた。


[手紙、自分であいつに渡しな!]


 びっくりした。

 この人はなにを言っているんだろう。

 自分は告白を受け入れてもらって私に振られるとわかっている告白をしろっていうの?


 私は、悔しくてまた涙を流した。

 すると愛は、私を優しく抱きしめた。


 心臓がドッキン、ドッキンと早く動いている。

 愛も緊張している?


 この鼓動を感じたとき。

 愛に悪意がないことがわかった。

 愛、一瞬でも疑ってごめんね。

 そう思うとまた涙が溢れた。


 するとあなたがゆっくりと現れた。

 愛が、ポンポンと優しく私の肩を叩いた。

 勇気をもらった気がした。


 私は、綺麗なクリアファイルに入った手紙をあなたに渡した。


 クリアファイルは愛が自分で用意してくれたもの。

 手紙にシワがいかないようにクリアファイルに入れてくれたんだね。

 愛の優しさが伝わってきたよ。


 あなたは、震える手で手紙を読んだ。

 そして、震えながら私のスマホにメールを送ってくれた。


[ごめん]


 そう書かれていた。

 私の頭の中が真っ白になった。


 するとすぐにメールが来た。


[ごめん。

 俺のほうが君のこともっと好きだから]


 それはそれで頭の中が真っ白になった。

 そして、嬉しくて嬉しくて頭の中が真っ白になった。

 涙が溢れる。

 ああ、嬉しくても涙がでるんだ。


 そう思っても涙が止まらなかった。

 愛が、ゆっくりと私のスマホを覗き込んだ。


 愛が私の手を握りしめる。

 そして、スマホに手を触れた。


[やったね]


 愛がニッコリと笑っている。

 でも、涙が溢れている。


 ごめんね。

 愛もあなたのこと好きだったんだよね。


 私は愛に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 そして、私とあなたはお付き合いすることになった。

 懐かしいな。


 愛のおかげで私はしあわせになれた。

 だから、今度愛が誰か他に好きになった人が出来たとき……

 私が応援するんだ。


 愛が、私の前で泣いたのはその日だけ。

 それからは、いつも私の側で応援してくれた。


 愛はきっと私の中で親友なんだ。

 私の中でのいちばんの友だち。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る