第19話


 誰かが何かを言っている。

 大きな声で何かを叫んでいる。

 でも、わかるのは誰かが何かを言っているということだけ。

 私には聞こえない。

 私には音がわからない。

 なにもわからない。


 ねぇ、貴方はなにを言っているの?

 ねぇ、貴方の声を教えて。

 ねぇ、貴方はどうして泣いているの?


 聞きたいけれど聞けない。


 だから泣くね。

 私も泣くね。


 大好きなあなたが、寂しくないように……

 大好きなあなたと、少しでも同じ時間を共有できるように……


 私も泣いた。

 いっぱい泣いた。


 そして……

 私は、あなたの笑顔を見たい。


  それは、私とあなたの最初の物語。

 出逢ったのは4歳。


 音が聞こえない私に何かを言っている男子。


 でも、なにを言っているのかわからない。

 だけど、わかることがある。

 いいことは言っていない。


 だから、私は無視をした。

 聞こえない振りじゃない。

 聞こえないのだ。


 だからごめんね、知らないふりをした。


 

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