三十路の霹靂
@EmeraldAU
序幕 エメラルドという町
小さな大陸の小さな内陸都市、エメラルド。
日本人がこの町を訪れることは滅多にない。国内線を乗り継いでやって来たエメラルドの空港にはもちろん、荷物受け取り用のベルトコンベヤーが一つ。
本当は1週間程早く到着する予定だったが、
プロペラ機を降りて空港の建物内に入ると、すぐに出迎えの人々が目に入った。私の名前と歓迎の言葉の書かれた紙を手に、待っていたのは四十歳を少し過ぎたくらいのルイ。金髪に水色の目の爽やかな印象の男性だ。こちらが気が付いた時には、既にルイはこちらに気が付いていた。
『こんにちは、エリです。ルイさんですか』
『ようこそ!エリ!待っていたよ。長旅お疲れ様!』
ルイにはこれから三か月、お世話になるが、優しそうな人で安心した。久しぶりのアストリア語もぎこちなさは残るが、忘れていない。良かった。ベルトコンベヤーにはちょうど荷物が流れ始めた。
『エメラルドはどうだい?湿気がすごいだろ?』
『そうですね。ここまで数分歩くだけで汗ばんでしまいました』
『もっと熱くなるからね。覚悟して!』
今はアストリアの初夏だが、一か月もすれば夏本番で、気温は連日四十度を超えるらしい。コンクリートだらけの東京砂漠の夏よりはましだ。
スーツケースが二つとも手元にやって来たので、ルイの車でホテルに向かう。色鮮やかな花々が窓の外を流れていく。スーパー、病院、薬局、カフェ、レストラン、プール、テニスコート、公園、近隣の施設は全て大通り沿い。ホテルも同じ通り沿いで、空港から10分程で着いてしまった。
『今日はゆっくりする?それとも、ご飯でも食べにいくかい?』
『せっかくですが、今日はゆっくりします。少し疲れたので。』
『そうかい。じゃあ、月曜日の五時半にホテルの前に迎えに行くね』
ホテルの受付で長期滞在のための簡単な説明を受ける。ホテルは古めかしいレンガ造りだったけれど、中は綺麗に掃除されていて、気持ちの良い部屋だった。東京で借りていた一人暮らし用のマンションよりももちろん広い。
荷物を置いて、とりあえずベッドに寝転がる。成田を出発して約十六時間。たったの十六時間で今までの生活から逃げられるなんて、世界ってちっぽけだ。誰一人、私のことを知る人はいない。どんな人間だって演じられる。まだお昼だけれど、眠くなってきた。明日もお休みだし、このままお昼寝してしまおう…
アストリア国の内陸都市、エメラルドという町で、私は目を閉じた。
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