第127話死霊戦

 王は死者を祓う護符を使った。

 聖職者は昇天させると言うが、本当かどうかは分からない。

 地獄に落としているのかもしれないし、無に帰しているのかもしれない。

 分かる事は、現世で悪事を働くゾンビ・スケルトン・ファントム・レイス・吸血鬼などを無力化するのは確かだった。

 王はベンやアレクサンダーからの報告を受けて、アンデットを無力化する護符も複数常備していた。

 王が身に付ける護符だけあって、同種の護符の中でも最強の護符だ。

 王を拘束していたアンデットはもちろん、周辺五十メートル四方のアンデットが無力化された。

 全てが出来たてのゾンビだったから、周囲は何百という遺体が伏している状態となった。

 この様な非常事態であったので、ドラゴンダンジョンと王都ダンジョンで経験を積んでいた王は、眉一つ動かさず、遺体に対する礼も省略し、踏みつけて王宮に急いだ。

 何故なら、護符の効果範囲外にいたアンデットが、王を狙って近づいていたからだ。

 動作は遅いが、痛みを感じず、動ける限り王を付け狙うアンデットに包囲されるのは、最悪の状態と言えたからだ。

 これからの状況を予測すれば、アンデットを無力化するターンアンデットの護符は、効果的に使わなければならない。

 今は最低一万五千のアンデットが予測されるが、封じ込めに失敗すれば、王都の百万の住民が、貴族軍人庶民の別なく、全てがアンデット化してしまう可能性があった。

 王都にいる全ての聖職者を効率よく使い、この未曾有の危機に対処しなければならない。

 正妃や王太子はもちろん、多くの有能な家臣を失ったアリステラ王国では、王が陣頭指揮を執るしかなかった。

 冷徹な王は、自分が王都から逃げ出した場合と、残って指揮を執った場合の損害を計算していた。

 その上で残って指揮を執ることにしたが、計算が間違っている可能性もある。

 そもそも王が身に付けているターンアンデットの護符の数には限りがあり、王都外に通じる地下通路のアンデットを全滅させる事など出来ない。

 行動の自由度を確認する為にも、一旦王宮に戻るしかなかった。

 状況が変化すれば、王は情け容赦なく王都を見捨てるだろう。

 どれほど非難されようと罵られようと、アリステラ王国と周辺国の運命が王の決断で決まってしまうから、情や自尊心で行動を決めることは許されないのだ。

「誰かいるか。いるならここに来い」

 王は地下通路に続く部屋を魔法で破壊し、アンデットが王宮に雪崩れ込まないようにした。

 魔力は節約したかったが、これだけは絶対にやっておかなければならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る