第126話待避戦

 王は必至で追っ手と戦っていた。

 憑依され、身体能力を向上させた近衛騎士と王都騎士が、防具と護符で身体能力を向上させた王に追いつき、激烈な攻撃を仕掛けてくるのだ。

 魔族に操られた近衛騎士と王都騎士も、身体の損傷を恐れず、潜在能力を限界まで使って、王に攻撃を仕掛けてくる。

 王の反撃を避けることなく、心臓を一突きにされ、首を刎ねられることも厭わず、王に掴みかかった。

 死んだとしても、ネクロマンサーの魔族が、そのまま使役するのだ。

 王は徐々に身体の自由を奪われていった。

 生きた近衛騎士と王都騎士を全て殺したので、身体能力に優れた敵はいなくなったが、その時にはアンデットに十重二十重と包囲されてしまっていた。

 三人しか並べない地下通路だったが、アンデットは王の攻撃も味方の攻撃も恐れず、戦う王と味方を追い抜き、王宮へ続く道を塞いでしまっていた。

 それは今も続き、王都の外に逃げ出す方向も、王宮に戻る方向も、何百ものアンデットによって塞がれてしまっていた。

 いや、王都の外に出る道は、二万以上のアンデットに塞がれているので、何百のアンデットに塞がれている、王宮方面の方が圧倒的に逃げやすい。

 それくらいの事は、王にもわかっていた。

 近衛騎士と王都騎士のアンデットが現れた時から、一万を越えるアンデットによって、秘密地下通路が占拠された事は、誰にも分かる事だった。

 王はここが勝負時だと感じていた。

 このままアンデットに捕まってしまったら、憑依されるか操られてしまうかで、王国を乗っ取られてしまう。

 そんな事になったら、アリステラ王国は地獄と化すだろう。

 いいや、それだけでは済まない。

 国王に憑依した魔族は、王国軍を動員して、周辺国に侵攻するだろう。

 もしかしたら、アレクサンダーとベンが押しとどめてくれるかもしれないが、その時はアリステラ王国民同士が殺し合うことになる。

 魔族は情け容赦なく、民を徴兵して戦わせるだろう。

 その命令は、憑依された王から発せられる。

 それが王には許せなかった。

 単に死んだだけでは、アンデットにされてしまい、利用されてしまうのが分かった。

 現に今の王は、アンデットに身体を拘束されてしまっている。

 アンデットになった王を魔族が使役して、アンデット王の偽りの命令で、国民が戦わされて死んでいく。

 そんな事は、王には我慢できない事だった。

 戦って、戦って、戦い抜いて。

 勝てない時には身体を完膚なきまでは破壊する。

 魔族には絶対利用させない。

 そう心の中で誓った王は、切り札の一つを使う決断を下した。

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