第114話追撃

「うぇぇぇぇ。ぎゃえっぇぇぇえ」

「狂ったか」

 魔族に憑依された近衛騎士隊長は、全く表情を変えず、両手を振り回して暴れる近衛騎士団を見ていた。

 いや、見ると言うよりも、視線の中に入っているだけだった。

 無表情な近衛騎士団長が見ているのは、近衛騎士団長から奪った剣だった。

 近衛騎士隊長が失った剣以上の名剣で、これからの戦いに必要なモノだった。

 恐らく王は、近衛騎士団長以上の装備を身に付けているだろう。

 そう考えた魔族は、剣を奪えたことに満足していた。

 この名剣なら、四肢を圧し潰すのではなく、斬り落とす事が可能かもしれないと考えたのだ。

 恐らく王の鎧も、攻撃してきた相手に、その攻撃を跳ね返す魔法がかけられているだろう。

 それが一番王の身を護る加護になるから、魔族はそう考えていた。

 そんな加護を打ち破るには、近衛騎士団長のように心を壊すか、魔族には致命傷にならない場所を破壊して、王だけを死に至らせることになる。

 魔族は、名剣を使って王の四肢を斬り飛ばせれば、回復魔法が追い付かないと考えていた。

 側近と近衛騎士を全て殺した後なら、魔道具だけで回復させなければならなくなる。

 鎧の四肢部分を斬り落とすことが出来れば、鎧の回復魔法も十全に働かなくなると考えたのだ。

 どれほどの防御力と回復力を持つ鎧であろうと、四肢部分を斬り落とすことが出来れば、完全にさせられない可能性が高い。

 まさか斬り落とされた鎧の四肢部分が、完全修復されるとは思われない。

 切断された部分を回収し、膨大な手間をかければ可能かもしれないが、魔族がそのような余裕を与えるはずがない。

 鎧の四肢部分がなくても、中の人間の四肢を回復させる可能性がある事も、魔族は考えていた。

 このような強国の王ならば、恐ろしい能力を持った魔道具を、肌身離さず装備しているのは当然だ。

 ネックレスや護符と言う形で、完全回復魔法の加護を装備している可能性が高い。

 そのような場合は、近衛騎士団長と同じように、何度も何度も四肢を斬り落とし、精神を破壊すればいいと魔族は考えていた。

 心を壊した後でなら、強引に鎧を剥ぎ取る事も可能だと考えたのだ。

「敵だ」

「後衛。時間を稼げ」

「陛下を御守りするのだ」

 近衛騎士団長が命懸けで稼いだ時間も、魔族によって強化された近衛騎士隊長の身体には、大した時間稼ぎにならなかった。

 必死の形相で国王を護ろうとする近衛騎士達だったが、魔法使いから防御魔法の加護を与えられても、元近衛騎士団長も名剣に、魔族に身体強化された近衛騎士隊長の技と力の前には、木偶人形も同然だった。

 五人の近衛騎士が瞬殺され、時間稼ぎにも成らなかった。


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