第101話栄達と苦境

 アレクサンダー王子がネッツェ王国領とボニオン公爵領の統治に力を注いでいる時、ベン男爵はエステ王国方面に進軍していた。

 ベン男爵は、王にボニオン騎士団復帰願を出したが、それは認められなかった。

 引き続き大将軍として、エステ方面の防衛を任された。

 王も王妃も王太子も、この度のアレクサンダー王子とベン男爵の軍功を無視して、復帰願を踏み躙る事は出来なかった。

 アレクサンダー王子には、ボニオン魔境とサウスボニオン魔境を含む、以前よりも広大な領地をもつ、ボニオン公爵位が授けられた。

 ベン男爵は、決戦前に王宮の佞臣を一掃した功と、決戦を勝利に導いた功を併せ、魔境伯爵位が授けられた。

 領地も魔境も授けられた訳ではないが、アゼス魔境で自由に狩りをする権利と、アゼス魔境で狩った魔獣や魔蟲は、無税となる特権を与えられた。

 自分の陞爵や特権に興味はなかったが、我が子のように慈しんで育てたアレクサンダー王子が、正式に公爵に封じられ、広大な領地を与えられたことは、感謝していた。

 そこで仕方なく、エステ王国との国境に向けて進軍していた。

 だがその進軍は、ベン男爵と王都騎士団員を苦しめた。

 通過する町や村に誰一人おらず、全ての住民がエステ軍に連れ去られたか、魔族の生贄にされたのが明らかだったからだ。

 いや、エステ王国軍に連れ去れたかもしれないと言うのは、王都騎士団員が、自分の心を守るために創り出した幻だ。

 本当は、王都騎士団員の全員が、自分達が王都に中でぬくぬくと暮らしている間に、全ての住民が魔族の生贄にされたのだと理解していた。

 中には、そんな事で心を乱されない、冷血な人間や身勝手な人間もいた。

 だが中には、自分達の今迄の行いが、騎士にあるまじき恥知らずな事だったと、心底反省する者もいた。

 そんな者達を引いて、ベン魔境伯はエステ王国方面に騎士団を進軍させていたが、後方との連絡と補給路には細心の注意を払った。

 正面戦闘は一個騎士団に絞り、補給路が脅かされないように、後方の拠点整備と巡回警備、補給部隊の直接警備に三個騎士団を投入した。

 本来なら、王都に残った騎士団を投入すべきなのだが、これ以上騎士団を王都に外に出すのを反対する者が多かった。

 王都に巣食う多くの佞臣が、ベン魔境伯に成敗された後ではあったが、佞臣とまでは言えなくても、他人の命よりも自分の命を優先させるのが人間の性だ。

 だからと言って、貴族軍は大損害を受けた後で、これ以上の動員は難しかった。

 無理矢理動員しても、碌に戦えない領民兵になってしまう。

 虎の子のドラゴンダンジョン騎士団も、既に半数をイーゼム国に侵攻させてしまっている。

 もうベン魔境伯の援軍に出せる戦力はなかった。

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