第65話開戦

「愚か者が! この状況で宣戦布告すれば、自分が捕虜になることも理解出来んのか!」

「殿下、全軍突撃を命じて下さい」

「全軍かかれ!」

 ブゥオ~

 ブゥオ~

 爺の宣戦布告を受けて、ビアージョ王子が全軍突撃を命じた。

 余の率いてきたのは急造のボニオン騎士団千兵ほど。

 創設間もない魔境騎士団だから、まだ馬も鎧も手に入れていない、徒士扱いや卒族扱いの者が大半だ。

 それでも国同士の正式な開戦前だったから、五万騎を率いているビアージョ王子も、千兵の余に攻めかかることが出来ないでいた。

 そこに爺が宣戦布告したものだから、待てを解除された犬のように、涎を垂らして攻めかかってきた。

「麻痺」

 余は白銀級の魔法、魔獣を同時に十万頭麻痺させる事の出来る、強力な麻痺範囲魔法を放った。

 敵が五万騎いたから仕方がなかったのだ。

 人間だけなら五万人なのだが、魔法範囲に軍馬もいるから、五万人+五万頭に魔法をかける必要があったのだ。

 転倒した際に足を痛める軍馬もいるだろうが、全て治療して捕獲する。

 長年の調教と訓練が必要な軍馬は、荷車を引く輓馬や荷物を運ぶ駄馬の十数倍の値が付くのだから当然だ。

 特に騎士団新設を任された身としては、軍馬は喉から手が出るほど欲しかったのだ。

 そこに五万の騎馬軍団がやって来てくれたのだから、鴨が葱を背負って来るのと同じだった。

 余から宣戦布告したのは少々問題があったかもしれないが、たぶん大丈夫だろう。

「誰一人抵抗出来た者はいないようですな」

「まあ当然だろう。白銀級の魔法に抵抗出来る者など、ドラゴン騎士団にも数えるほどしかいないだろう」

「御油断召さるな。ネッツェ王国にも名の知れた騎士が幾人もおりますぞ」

「余も幾人か噂を聞いている騎士はいるが、今回は参戦していないのだろう」

「第二王子が主導した謀略のようですから、王国将軍は参戦していないのかもしれません」

「第二王子に組する、貴族連合軍と言う事か」

「恐らくは」

「だとしたら、身代金の徴収は難航するかもしれないな」

「その可能性は高いと思われます」

「そもそも五万騎もの人質を収容するのは難しいな」

「まずは確保いたしませんか?」

「そうだな。指揮は爺が取ってくれ」

「殿下はどうなされるのですか?」

「分かっているだろう。馬を助けるのだ」

「ではまず魅了の魔法をおかけください」

「逃げ出さないようにか?」

「はい」

「いちいち面倒だな」

「白銀級の魅了魔法を御使いになられたら、一度で済みます」

「だがそんなことをすれば、ネッツェ王国軍の騎士まで魅了してしまうではないか」

「そうして頂けたら、いちいち逃亡対策を講じなくてすみます」

「余には男色の趣味などないから、ネッツェ王国騎士に惚れられるのはごめんなのだが」

「しっかりと捕虜に出来たら、麻痺と一緒に解除されればいいのです。今はまず配下の者達の安全と、身代金確保を優先してください」

「しかたないな」

「魅了」

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