第66話捕虜

「殿下、食料が届きました」

「分かった。調理当番、料理を始めろ」

「「「「「はい」」」」」

「殿下、乗馬訓練を御願いします」

「乗馬訓練当番、この者達に乗馬の練習をしてやれ」

「「「「「はい」」」」」

「殿下、馬房の数が足りません」

「少し待て、魔境から材木が届き次第、直ぐに作らせる」

 五万騎の捕虜を確保するのは簡単だったが、身代金をとるまで生活させるのは大変だ。

 まず蜂起させる訳にはいかないので、肉体的に拘束するか、それとも精神的に拘束するかは別にして、反抗できないようにしておく必要があった。

 だが余の使う白銀級の強力な魅了魔法なら、ネッツェ王国騎馬軍団を大人しくさせることが出来た。

 いや、命令通りに動かすことが出来た。

 だから余に忠誠を誓わせて、絶対に余に歯向かわないようにした。

 更には再開発中の旧ボニオン公爵領に役立つように、色々と働かせることにした。

 身代金を取るためには、身分に相応しい待遇を保証しなければいけない。

 閉じ込める部屋代はもちろん、毎日の食事や衣服の洗濯まで、全てが身代金に上乗せされる。

 だが残念なことに、旧ボニオン公爵城、現ボニオン騎士団城には五万人もの捕虜を収容する余裕はない。

 だから身代金が安い下級騎士に関しては、魅了で領民に危害を加えない事を命じた上で、城下の領民宅に分宿させた。

 それでも部屋が足りない場合は、行軍中に使うテントを使って眠る場所を確保した。

 五万騎の労働力を無駄にするのはもったいないので、彼らを使って用水路を整備したり、魔境で伐採した魔樹の製材をしたりした。

 大雑把な力仕事は余の魔法で行えるが、それを人が使い易くする細やかな作業には、多くの人間が必要だったからだ。

 特殊な仕事としては、冒険者騎士希望者に乗馬を教えるというモノがある。

 魔境やダンジョンの中で魔獣を相手にする戦いなら、実力も実戦経験も申し分ないのだが、これが人間相手に殺し合うとなると、全く未経験という者も多い。

 しかも乗馬をしたことが全くない者がほとんどだ。

 運動神経から言って、少し訓練しただけでも様になるのだが、騎士としては見苦しいし、徒士で戦った方が強かったりする。

 残念だがそれでは騎士と言えないので、捕虜にしたネッツェ王国騎士から乗馬を基礎から学ぶことになる。

 いや、基礎だけではなく、騎士として標準以上の戦いができるように、徹底的に訓練することになる。

 問題は五万騎に喰わす食糧だったが、それは冒険者騎士希望者がボニオン魔境で狩った魔獣を買い取ることで確保した。

 自弁で騎士になろうとする彼らから、標準価格で全ての獲物を買い取ることで、早く自立した騎士に成ってもらいたかったのだ。

 だからどれほど多くの獲物が集まっても、値崩れさせないように全てを買い取った。

 もっとも五万騎の捕虜を食べさせなければいけなかったので、冒険者騎士希望者が狩る魔獣だけでは食糧が不足する事もあり、余と近習で狩らねばならないこともあった。

「殿下、ネッツェ王国の特使の方が参られました」

「分かった、会おう。謁見の間に案内しておいてくれ」

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