第37話朝食

 爺の指摘に従って、領主館の近くに潜むことにした。

 爺と交代で仮眠を取り、一方が周囲を警戒した。

 余と爺の警戒だから、例え相手がブラッドリー先生でも出し抜かれることはない。

 ブラッディベアーを領主館に閉じ込めて、好きにさせた。

 当然だが、村娘達は風魔法で追い立てて逃がした。

 あれほど恐怖して狼狽していたら、魔法で他人に追い出されたと理解できないだろう。

 精神操作系の魔法を使っていないから、後で調べても分からないだろう。

 ブラッディベアーは七人の遺体を貪り喰った。

 一体目の腹を噛み切り、内臓から食べ始めたのを確認して探査するのを止めた。

 いや、むしろ意識して気配を感じないようにした。

 人が喰われるところなど見たくも感じたくもない。

 自分の責任でやったことだが、目を背けることにした。

 夜明けを迎え、火の気配を民にも感じられないように、魔法袋から非常食のサンドイッチを出し朝食にした。

 夜明け直後の冷え込みは結構強く、サンドイッチに齧り付く前にスープを飲むことにした。

 玉蜀黍を丁寧に粉に引いたモノを、牛乳に溶かしたスープは絶品だった。

 寒さには温かい白湯だけでも御馳走なのだが、甘味と旨味が際立つコーンポタージュスープは大御馳走だ。

 十分に体を温め胃に準備をさせた後で、いよいよサンドイッチを食べることにした。

 一つ目に食べたサンドイッチは、ビックボアのロースを塊の状態で焼き、遠火の強火で中まで火を通すも、スライスした肉の見た目には生々しい、ローストボアを挟んだサンドイッチだ。

 薄切りのローストボアを5枚挟んだ固焼きパンのサンドイッチは、噛むほどに脂の旨味と肉汁の旨味が口の中に広がり、魔法袋の効果で温かいままでもあり、とても美味しかった。

 次に食べたのは茹でた魔根菜で、魔境に生える魔草の中でも根に栄養を貯めるモノを丁寧に煮たモノだ。

 少量で多くの栄養が取れる優れモノで、アルコールで抽出し精製したモノは、低級な体力回復薬や魔力回復薬として売られている。

 効果に比べて精製にアルコールが必要だったり手間がかかったりもするので、結構人件費がかかる。

 それなのに低級なので、回復薬の中では買取価格がそれほど高くない。

 それでも戦闘力のない女子供にはいい収入源でもあるので、危険を賭して魔境に中に掘りに行く者も多い。

 だから魔境近くの村では、商品として売れないような屑魔根菜を毎日の食事の材料の一部にしている。

 二つ目に食べたサンドイッチは、銅級の魔鳥を丁寧に捌き、筋切りをしてから丸焼きにしたモノを、食べ易い大きさにカットしてパンにはさんだサンドイッチだ。

 筋切りした後で塩を振り、刻んだ魔香草をまぶして香り付けしたローストチキンは絶品で、瞬く間に二つ目のサンドイッチを食べてしまった。

「来たようだね」

「はい殿下」

「五十人を超えているようだね」

「ですが実際に戦える者は少数のようです」

「領民を無理矢理動員したのかな?」

「恐らくそうでしょう。どうなされますか?」

「相手の出方を見る」

「は」

 さて、公爵家はどうする?!

 領民兵を盾にして戦うのか?

 それとも騎士が前に出て戦うのか?

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