第29話猟師救出3

 余達は何の合図もなく二匹のリントヴルムを迎え討つべく走り出した。

 三十メートルの金剛石級ボス魔獣・リントヴルムを二匹同時に叩くのは極端に難しい。

 だがやらねばならない!

 一匹は昨日叩いたリントヴルムだろう。

 もう一匹は夫か妻か分からないが、夫婦の可能性が高い。

「殺さずに削るぞ」

「「「は!」」」

 爺は情け容赦ないな。

 金剛石級ボス魔獣・リントヴルムを殺さずに、素材採取用に生かさず殺さず半死半生の留めて追い返せという。

 それも二匹同時に相手とってだ!

 だが昨日一匹相手にやれたのだから、今日はその上の段階を目指せという師匠視点の指示だから、やらねばならない。

 二匹のリントヴルムは知恵があり、二匹並んで連携を取ろうとしている。

 前後に分かれてくれていれば、一匹一匹相手どれるのだが、連携を取られると単純に二倍ではなく、三倍四倍の強敵になる。

 先頭を走るロジャーが二匹の間を走り抜けようとした!

 リントヴルム二匹は躊躇することなく同時に腕でロジャーを薙ぎ払おうとする。

 ロジャーは昨日と同じように加速をかけて、リントヴルムの眼をくらませて左に抜けた。

 それもただ駆け抜けたのではなく、左側のリントヴルムの右腕を斬り飛ばした!

 余はそれを昨日と同じように風魔法で回収して魔法袋に収納する。

 勿論飛び散る血液も同時に魔法袋に回収する。

 パトリックも二匹のリントヴルムの間を駆け抜けようとする。

 右腕を斬り飛ばされた左側のリントヴルムは痛みで激高していたが、右側のリントヴルムからは恐怖と意識と狼狽が感じられる。

 恐らく右側のリントヴルムが昨日戦った相手なのだろう。

 昨日受けた恐怖と苦痛がよみがえり、戦闘意欲が無くなったのかもしれない。

 パトリックもそれに気が付いたんだろう、右に駆け抜けて右側のリントヴルムの左腕を斬り飛ばした!

 勿論当然斬り飛ばされた左腕は余が風魔法を使って、血液共々魔法袋に収納する。

 右側のリントヴルムの心が折れた!

 身体をねじって逃げようとする。

 余は逃がさぬように一気に加速し、二匹のリントヴルムの間を駆け抜ける!

 逃げだそうとしている右側のリントヴルムの右腕の方が余に近い。

 まずはそれを斬り飛ばして魔法袋に収納する。

 一瞬動きを遅くして、態と左側のリントヴルムの視線に捕らえられるようにする。

 左側のリントヴルムが、残った左腕で攻撃しようと言う意思を眼に表した途端、一気に加速して攻撃しようと動き始めた左腕を斬り飛ばす!

 勿論同然当たり前のように、斬り飛ばした左腕は風魔法を使って吹き出る血液と一緒に魔法袋に収納する。

 余の後を爺が続くのだが、右側にいたリントヴルムは痛みをこらえながら逃げ出している。

 その姿はボニオン魔境に君臨する金剛石級ボス魔獣・リントヴルムとはとても思えない、情けなく哀れを誘うほどの痛々しい姿だ。

 昨日の全身皮はぎ十回刑が余程こたえたのだろう。

 だが爺は情け容赦がない。

 まず逃げ出そうとしている右側のリントヴルムの上顎と下顎を斬り飛ばし、次に左側で痛みにのたうち回り、怒りに我を忘れて周囲のあるモノ全てを尻尾で叩き飛ばしているリントヴルムの上顎と下顎を斬り飛ばした。

 何時ものごとく、余はそれを魔法袋に収納する。

「逃げるリントヴルムは追わん。一番高価な牙と爪が再生するまで放牧する」

 あれ、あれ、あれ。

 何と爺は、リントヴルムを養殖するという大胆な経済政策をとる心算だ!

 王都魔境で玉鋼級ボスのキングベア一匹相手にはやっていたが、二匹の金剛石級ボス魔獣・リントヴルム相手にそれをやると宣言するとは、豪胆にも程がある。

「「「は!」」」

 だがその言やよし!

 既に態勢を整えていたロジャー、パトリック、余は、逃げ出したリントヴルムが再度戻ってこないか十分に気を付けながら、残ったリントヴルムの鱗と皮を斬り取ることにした。

 四人で十分周囲を警戒しながら、瞬く間に十度も鱗と皮を斬り取った!

ンギャ~

上顎と下顎をなくし、満足に鳴き叫ぶこともできない状態で、それでも苦痛に鳴きながら、半死半生で逃げ出した。

「貴方方は何者なのでございます?!」

 さっき麻痺魔法に耐えた強者三人の中でも頭格なのだろう獣人が、爺に質問をしてきた。

 流石に余達のこの実力を目の前にして、口の利き方が一変している。

 まあそれはそうだろう。

 三十年前に爺達がパーティーでリントヴルムを狩って以来、誰一人金剛石級ボスを狩っていない。

 まあ余達のように態と狩らないようにして可能性もあるが。

 だがだからこそ、二匹の金剛石級ボス・リントヴルムを狩るのではなく、狩るよりも遥かに難しい養殖をしようとするのを目の当たりにしたのだから、言葉遣いが変わるのも仕方がないだろう。

「余はベン・ウィギンス男爵じゃ」

「「「「「え?!」」」」」

「あの伝説の冒険者、ベン・ウィギンス男爵閣下であらせられますか?!」

「そう改まらなくてもよい」

「「「「「はっはぁ~」」」」」

 矢張り爺の名声は凄いな!

 名乗っただけであれだけ頑なだった奴隷猟師や奴隷冒険者が、土下座するのだから。

「今まで通りでよい。余も元は同じ冒険者じゃ。それよりも、今はその方らの家族を助け出す打ち合わせをしたいのじゃ。だから土下座を止めて車座になってくれ」

「「「「「はっはぁ~」」」」」

 余が王子と名乗ったとしても、これほど心から頭を下げてくれないだろうな。

 いつの日か、身分や地位で形式的に頭を下げられるのではなく、爺のように心から頭を下げられる勇者になって見せる!

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